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17. ウォーターセブン
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フランキー一家を追い払ってから数十分後。
"シュタッ……"
「お、あの船じゃな~?」
軽い足音と呟きが、メリー号より100mほど先で響いた。
いつもならそのくらい聞き取るティオだが、爆睡中のため気づいていない。
やって来た人物は、先ほどのフランキー一家ではないらしい。
今度は1人だ。
"ヒュッ……シュタッ"
「失礼~」
その人物は一瞬でメリー号の甲板に現れた。
軽い挨拶だけ済ませて船内へ入っていく。
「ん……んぁ?」
爆睡中のティオを差し置いて、ゾロが目を覚ました。
寝ぼけ眼に人影が映る。
(……なんだ、ウソップか)
鼻が長かったからきっとそうだろう。
この世にあんな長い鼻を持つ人間はそうそういない。
ゾロはもう一度目を閉じた。
やって来た人物は船を見て回る。
「えらく傷ついておるなぁ……マストも差し替えじゃな」
(ジジィみてぇな喋り方してんな、ウソップの奴。……ん、待てよ?)
ゾロは、一瞬見えたその顔を思い出す。
鼻は確かに長かった。
でもその鼻は……四角かった。
"シャキンッ"
反射的に刀を抜く。
「ちょっと待てコルァ! 誰だテメェ!」
ゾロが立ち上がった瞬間、ティオはゴロンと床に転がされた。
「へぶっ……」
何ごとだ。
ティオは、打ち付けてしまったおでこをさすりながら、身を起こした。
寝起きで霞む目に映るのは、焦りながら刀を構えるゾロと―――
「……っ」
メリー号のマストのそばに立つ人物を見て、ティオは思わず固まってしまった。
(……どう、して……っ)
知っている。
自分はあの人物を知っている。
向こうも自分のことを知っている。
お互いに面識はないが、写真と資料でお互いを知っている。
まさかこんなファーストコンタクトを果たすとは、夢にも思っていなかった。
「おぉ、すまん。起こしてしもうたか」
焦るゾロと固まったティオとは対照的に、相手は笑いながら船底の方へ降りていく。
「わしゃぁカクという。ガレーラカンパニーの大工じゃ。お前さんらの仲間の依頼でここに来た。麦わら帽子の少年、この船の船長じゃろ?」
「麦わら……ルフィか」
どうやら本当に敵ではないようだ。
ゾロは構えていた刀を仕舞い、欄干に腰掛けた。
その横で、ティオは立ち
カク。現在年齢23歳。CP9メンバーの1人。
CP9は5年前からこのウォーターセブンに潜入している。
それがまさか、大工として潜入しているとは思わなかった。
……しかし、腑に落ちないことがある。
クザンは、ロビンとティオが麦わら一味にいることを報告するつもりだと言っていた。
ならば、次はウォーターセブンに来ることも伝わっているはず。
海軍を出奔した自分を、カクが襲ってこないのは何故だ……
ティオは歩き出していた。
確かめないと。
可能性は2つ。
1つは、まだ情報が伝わっておらず、潜入捜査か何かで麦わら一味に身を置いていると思われている。
もう1つは、情報は受けているものの、捕縛の機会を伺って、まだ行動を起こさないでいる。
前者であってほしいとティオは思った。
CP9とは出来るだけ戦いたくない。
六式の達人集団と相対するには、麦わら一味はまだ早すぎる……
「どうした」
ゾロの声が背後からした。
ティオはただ一言、みてくる、と言って、船底の方へ降りていった。
ゾロは特に興味もない様子で、ウォーターセブンを眺めてあくびをしていた。
"キュィキュィ……バキッ"
船底では、カクが床板を外して中を覗き込んでいた。
ティオは緊張しながらも、決してそれを表情に出さないように、カクの背後に立つ。
「……背後に立たんでくれんか」
カクは手元を休めることなく、低い声で小さく囁いた。
大工としての仮面が剥がれ、CP9としての気配が現れる。
「お前さんのように気配の薄いモンが背後に立つと、頭では分かっておっても体が反応してしまうんじゃ」
「……」
「聞いとった通り無口じゃのう。今はこの船に潜入しとるんか? 敵に膝まで貸させるとは、諜報員の鑑じゃのう。伝承者サマ?」
ティオは確信を持った。
見聞色の覇気を通しても、カクから敵意のような雰囲気は感じられない。
つまり、ティオのことを"伝承者"と言った言葉に嘘はない。
ならば、CP9にはまだ情報は伝わっていない。
「ちょうき、にんむ、おつかれ、さま」
「お、やはり知っておったか。……もう5年になる……それももうすぐ終わるが」
ティオの眉がわずかにピクっと動いた。
何かを惜しむような、哀愁にも似た感情が、カクからほんのり感じられたのだ。
それはCP9には有り得ないものと思っていた。
心を持たず、敵は全て殺してゆく、それがCP9のはずだから。
「……」
ティオは数日前の自分を思い出していた。
ただ調査するために接触した麦わら一味と、今は仲間として行動を共にしている。
愛着が生まれ、情が湧いたのだ。
自分がそうだったから、もしかしたら目の前のこの男にも……
「ん~、これはどうにも……」
囁きではなく、普通のボリュームで聞こえたカクの声で、ティオは我に返った。
CP9としての気配は消え、再び大工としての仮面をつけたカクが振り向く。
「竜骨が完全にダメになっとる」
「!」
ティオは目を見開いた。
船の仕組みも頭に入っているから、その言葉が何を意味しているか分かる。
「というか、何じゃこの船は。一度真っ二つに割れたことでもあるのか? マストも何度も折れておったようじゃし、修理も板切れからブリキまで何でも使っておる。直し方もドヘタじゃ。こんな状態でよう浮かんどるわい。このまま放置すれば、明日か明後日にでも壊れるじゃろう。今日のうちにここへ辿り着けてよかったのう」
ティオは、以前にメリーから読み取った記憶を思い返した。
マストが最初に折られたのは、グランドラインに入ってすぐ。
双子岬の巨大クジラ、ラブーンと喧嘩したときだ。
船が真っ二つに割れたのは空島に行く前、モックタウンに立ち寄ったときのこと。
ハイエナのベラミーにやられた。
竜骨がダメになったのはきっとそのときだ。
メリーはそんな重大な欠損を抱えたまま、一味を空まで運び、また海まで帰したということだ……
「相当無茶な冒険をしてきたようじゃなぁ。……ほれ、とりあえず甲板に上がるぞ?」
カクに誘導され、ティオは梯子を昇って甲板に上がった。
後からカクも昇ってくる。
「お~い、そこの、三本刀のあんた」
「あ?」
船首の欄干に座っていたゾロが、こちらへ振り返る。
「査定だか何だかは終わったのか?」
「あぁ、一通りな」
「それで? メリーはどのくらい直せんだ?」
「……」
カクの雰囲気が少し暗くなった。
その横で、ティオも目を伏せている。
ゾロは眉を顰め首をかしげた。
「……何だよ」
カクはキャップを深くかぶり、言った。
「この船は、もう直せん」
……波の音が、やけに大きく聞こえる。
「なん、だと……?」
さすがのゾロも固まった。
そして刀に手を掛ける。
「テメェ、嘘だったらタダじゃおかねぇぞ」
その鋭い眼光にひるむことなく、カクはいたって真面目な顔で言った。
「わしは本職じゃ。嘘はつかん」
「……」
ゾロは黙ったまま、刀から手を離した。
「それじゃ、わしは戻る。お前さんらの船長や仲間が待っとるからの」
「……あぁ、ご苦労だった」
「あり、がと」
カクは甲板から一気に岬へ飛び降りた。
そして、驚異的な速さで駆け抜けていった。
"ザザァー……ザザァー……"
「……」
「……」
ゾロとティオの間に沈黙が降りた。
ティオは船首の方へ上がり、そっとメリーの頭に抱きつく。
その仕草で、ゾロは本当にメリー号が直らないことを実感した。
「……本当にもう、走れねぇのか」
呟くような問いに、ティオが小さく頷く。
「ふね、には、りゅうこつ、ある……なにより、いちばん、だいじな、ばしょ……それ、きずつくと、もう、だめ」
「挿げ替える、なんてのも出来ねぇのか」
「りゅうこつ、すべての、ちゅうしん。ふねづくり、まず、りゅうこつ、すえるとこから、はじまる。すげかえる、いこーる、いちから、つくると、おなじ」
「そうか」
「たとえ、めりーと、おなじもの、つくっても、ざいりょうの、き、ちがうから、まったくおなじもの、できない。それは、ふねにのってる、くるー、いちばん、いわかん、かんじること」
「……」
潮風が濃く感じられる。
まるでメリーが泣いているようだ。
ティオはぎゅっとメリーに抱きつき、小さく呟いた。
「……なかない、で……あやまら、ないで……めりー、せかいいち、がんばった、ふね、だよ」
ゾロはティオの頭に手を乗せた。
「最終的に、ルフィが何て言うかだな」
「でも、うそっぷ、は……」
「あぁ。……少し、荒れるかもしれねぇ」
「(コクン)」