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16. 夢とカエルと海列車
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3日後。
あと2時間もすれば世界政府からの迎えが来てしまうという時。
昼下がりの穏やかな風が吹き込む部屋の中。
クザンとティオは、いつものように昼寝スタイルでまったり過ごしていた。
ティオはリクライニングチェアで寝そべったクザンの上に乗っかって、規則正しい寝息を立てている。
……しかし、クザンは眠ることなく、じっと天井を見上げているだけだった。
「……」
―――早すぎる。
その言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回る。
ティオがいつか政府に連れ戻されて、CP0に入れられることは分かっていた。
歴代の伝承者も皆、見聞色を鍛え上げたらCP0に入れられてきたのだから。
世界中の情報を記憶させようと思ったら、諜報員として活動させるか、諜報員たちから情報を受け取るのが最も効率がいい。
……とはいえ、ティオはそこで仕事をするには幼すぎる。
まだまだ、人間として教えてないことが山ほどあるのだ。
いいや、そんなことよりも―――
「……くざん?」
突然耳に届いたティオの声で、クザンは我に返った。
「何だ、寝てなかったのか?」
いつも通りに、そう思いながら頭を撫でてやる。
ティオは心地よさそうな目をしたが、いつものように寝付こうとはしなかった。
ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせて、じっとクザンを見つめる。
「どうした?」
勘付いているのだろうか。
それとも記憶や思考を読んだのか?
……だとしたら不安だろう。
世界政府だのCP0だの、ティオにとっては未知の存在のはずだ。
ティオは自分の身の回りのことをやっと覚えてきたところで、世界の定めた善悪も、海軍の全体像も、その上に君臨する世界政府という組織も、まだ何も知らない。
……今日までに話せとセンゴクに言われていたのに、いったい何から話したらいいのかも、どんな言葉を使えばいいかも分からず、結局何も伝えられないまま、今日この時を迎えてしまった。
「だいじょ、ぶ」
「……?」
―――大丈夫。
確かにそう言った。
「ティオ……?」
青い瞳でじっとクザンを見つめて、ティオは舌足らずに言った。
「ぜんぶ、しって、る。いまの、せかいの、こと。てぃお、の、やくめ、の、こと」
「知ってるって、お前……」
「てぃお、くざんの、きおく、7284かい、みてる。ばか、でも、ぜんぶ、わかる」
ティオがこんな長文を話すのは初めてだ。
……そこに。
"コンコン"
「失礼します」
黒いスーツの男がやってきた。
政府の人間だ。
ティオは振り返ってその姿を確認するなり、クザンの膝から降りて、その男に歩み寄っていく。
もう全てを悟っているのだ。
「……」
クザンは驚きを隠せず、少し見開いた目でティオの後ろ姿を見ていた。
背中の半ばまで伸びた金髪が、歩くたびに揺れている。
……そうか。
クザンは短いため息をつき、目を細めた。
「……ガキの成長ってのは早いもんだな」
誰にも聞こえない声でそう呟き、クザンは立ち上がった。
「ティオ、ちょっと待て」
声をかけると、ティオは足を止め、きょとんとした顔で振り向いた。
黒スーツの男も、若干不思議そうにクザンを見ている。
2つの視線の中で、クザンはデスクに届けられた新品の羽ペンを手に取り、ティオを手招きした。
「……?」
ティオが寄って来ると、くるりと後ろを向かせ、髪を手早く纏める。
そして、羽ペンで器用に結った。
「この方が動きやすいだろ?」
ティオの顔を見ると、僅かに瞳を輝かせ、首をいろんな方向に振っている。
「かる、い……っ」
どうやらプチ感動している様子。
それを見下ろしてフっと笑ったクザンは、黒スーツの男に目を向けた。
「あー、そこのお前」
「はい、何でしょう」
「記憶の引継ぎが済んだら、ティオを海軍へ戻すよう上に伝えろ」
男は眉を顰める。
「何を仰っているのですか。彼女は記憶を引き継いだ後、正式な伝承者としてCP0に所属することになっています」
「んじゃあ訊くが、コイツがこのままでCP0の仕事をこなせると思うか?」
「……お言葉ですが、伝承者は戦闘力が伴わなくとも、CP0への所属を許される特別な役職です。ほとんどはその身を政府に置き、サイファーポールや政府関係者が集めた情報を記憶していくだけですから」
「だが、情報を手に入れるためにコイツ自身に諜報活動させることもあるだろ?」
「それは……まぁ、そうですが……」
「つーわけで、だ。コイツを鍛えるために、もう何年か俺に預けろ」
「お、お待ちくださいっ、その間の歴史の記録はどうなるのですか。ただでさえ、現・伝承者が寝たきりになってから情報処理が遅れているのです。これ以上不安定な時期を延ばされては……」
「だったら、訓練も兼ねてこっちで諜報活動させればいいだけの話だ。その間、政府が手に入れた情報もこっちに回せ」
「そんなっ、二度手間になりますよ。でしたら政府でも……」
「お前、コイツの実力把握してるか?」
「え…いえ……」
「俺はゼロからコイツの面倒を見てきた。この先どうすれば最短で鍛え上げることが出来るか全部分かってる。こっちで鍛えるかそっちで鍛えるか、どうするのが最善か分かるよな?」
気怠げなのに鋭いクザンの眼光に、男は何も言えなくなった。
「わ、分かりました……。私に決定権はありませんので、一度持ち帰らせて頂きます」
「あぁ、そうしてくれ。いい返事を待ってるってな」
「は、はい……」
とりあえず、交渉は成立した。
クザンはティオの頭に手を乗せる。
「んじゃ、行ってこい」
ティオは青い瞳でクザンを見上げ、いつもより深く頷いた。
「(コクン)」