夢主の名前を決めて下さい。
16. 夢とカエルと海列車
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そんな生活を続けること2年。
ある時期から、ティオからクザンに流れ込む記憶が少なくなり始めた。
そして……
「?」
ある日の昼下がり。
その時はついに訪れた。
ティオから何も流れ込まなくなったのだ。
クザンは本部の廊下で思わず立ち止まった。
「くざん?」
抱えられていたティオは、不思議そうにクザンを見上げる。
この2年で伸びた金髪が、顔にかかった。
「ティオ、今お前、俺の記憶見えてるか?」
ティオはゆっくり顔を前に戻し、天井を見上げたり、床を見下ろしたり、何か頭の中を探っているような仕草を見せた。
そして……
「ない」
首を横に振った。
さすがのクザンも目を見開き、口角を上げる。
「んじゃあその逆だ。自分の意思で俺の記憶読めるか?」
ティオはぱちぱちとまばたきをし、目を閉じた。
3秒ほど経つと、ゆっくり目を開く。
そして無表情のままクザンを見上げた。
「でき、た。……こっち、も」
ティオが僅かに目を見開いた瞬間、クザンに記憶が流れ込む。
「完璧だ」
ようやくだ。
2年間の修行を経て、ようやく出来た。
「よぉし、今日から何でもさわっていいぞ。あ、何なら自分の足で立ってみろ」
クザンはティオをその場で立たせた。
「……ほ……っ」
足の裏から伝わる、ひんやりとした感触。
感嘆詞のようなものが、ティオの口から自然と滑り落ちた。
以前は感触よりもまず記憶が流れ込んで、感触を知る暇もなかったのだ。
冷たくて、硬くて、つるつるしてて……
石というものはこういうものなのか。
「う……?」
よろよろ、ぺたり。
ティオはその場に座り込んでしまった。
何が起きたのか分からない様子で、キョロキョロ辺りを見渡す。
「ぶっ……くくくっ」
突然、クザンが笑い出した。
「まるで生まれたての小鹿だな。筋トレぐらいさせときゃ良かったか」
この2年まったく使われなかったティオの細足は、立つことすらままならないほど衰弱してしまったようだ。
クザンは、ティオを片腕で抱えるように持ち上げ、もう一度立たせる。
ティオはクザンの服の端を掴んで、懸命にバランスを取った。
「今度は立つ練習だな」
「むう……」
ぷるぷる震えて思い通りに動かない脚を見下ろし、ティオはほっぺたを膨らませていた。
それから半年もすると、ティオは普通に歩けるようになった。
長身でゆったり歩くクザンの横を、ティオがとてとて小走りでついて行く様子は、すれ違う海兵をみんな立ち止まらせた。
親鳥のあとをついて行くヒナ鳥のようで、何だか微笑ましいのだ。
「随分と懐いたな。もう普通の子供と遜色ない」
本部の廊下で、クザンとティオは、センゴクと会った。
「どーも、センゴクさん」
「こん、ちは」
センゴクは少ししゃがんで、ティオの頭を撫でた。
「見聞色はもう使いこなしてるのか?」
「えぇ、まぁ。変身能力はもうちょいかかりそうっスけど」
「……そうか」
一瞬遅れた、センゴクの返事。
それに気づいたクザンは、瞳にわずかに鋭い光を宿した。
「どうかしたんスか?」
頭から離れていく手。
ティオは不思議そうに、センゴクの顔を見上げた。
「……場所を移そう」
伝承者に関わる話は、政府と軍上層だけの秘密事項。
あまり一般の海兵に知られるわけにはいかない。
3人は元帥の執務室へと場所を移した。
センゴクが重々しく口火を切る。
「2日前、ティオの様子を見に来た政府の役人がいただろう。アイツの報告で決定が下った。……3日後、引継ぎのためにティオを迎えに来るそうだ」
クザンはピクっと眉を動かした。
「もうCP0に入れるんスか」
「政府はそのつもりだろうな」
「つってもまだコイツは……」
「これでも待った方だ。政府はここ数年、次期伝承者候補の訓練を急がせていた。現・伝承者がいつ寿命で死んでもおかしくなかったからな。そこに舞い込んで来たこれほどの逸材。使い物になる日は今日か明日かと指折り数えて待つのは当然だろう?」
「確かにコイツは物覚えいいっすけど、まだほんのガキですよ?」
そう、ティオにはここに来た2年半前より以前の記憶がない。
実質、幼児みたいなものだ。
センゴクは後ろを向き、窓から外を眺め、険しい表情で言った。
「世界政府の決定だ。我々が逆らうことは許されない」
「……」
張り詰める空気。
ティオは不思議そうな表情で、2人の顔を交互に見ていた。
センゴクが短いため息をついて言う。
「……まだ3日ある。その間に状況の説明だけはしておけ」
クザンは、センゴクの背で結ばれた拳が、強く握られるのを見た。
……堪えているのは同じか。
「……失礼します」
静かにそう言って##RUBY#踵#きびす##を返す。
「行くぞ、ティオ」
「(コクン)」
ティオは小走りでクザンに追いつき、小さな手でクザンの人差し指を握った。