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16. 夢とカエルと海列車
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それから、少女・ティオのことは、正式にクザンが預かることとなった。
海軍本部大将が預かると言うのだから、世界政府も何ら文句はない。
「……しっかし、ずっと自分の記憶見せられてんのも何だかなぁ」
そう、ティオを安易に物に触れさせないために、どうしてもクザンが抱えたり膝に乗せたりしていなければならない。
そうなれば自ずと、ティオはクザンの記憶を常に読み取り、またそれをクザンに向けて発信することになる。
あまりいい気はしないし、慣れるまでは頭が疲れそうだ。
「だぁから首を動かすな。前向いてシャキッとしてろ」
「?」
今、クザンはティオを膝に乗せ、髪を切っている。
傷みきっている上に長すぎるそれは、文字通り無用の長物だからだ。
「いちいちこっち向かなくていーんだよ」
「んぶっ」
後ろでシャキシャキ鳴る音が気になるのか、ティオは約3秒ごとにクザンの方を振り向く。
クザンはその首を何度も前へ向かせ、髪にハサミを入れていた。
やはり記憶が封印されているせいか、発する言葉も行動も幼児並みだ。
「よし、もう動いていいぞ」
散髪の結果、ティオはベリーショートになった。
ふとした瞬間に男の子と間違えそうなほど短い。
ティオは動物のように頭をぶるりと振り、座っているのが飽きたのか、クザンの膝から降りた。
その瞬間―――
「ひぐっ」
ティオは目を見開いてその場に座り込んだ。
足が触れた時に、石造りの床の記憶が流れ込んで、頭が軽くショートしてしまったのだ。
「おっとっと……」
クザンは片腕でティオを素早く持ち上げる。
「ぅ、はっ……はぁっ……はぁ……」
ティオは額に汗を浮かべて、少し涙目になっていた。
「いいか、ティオ。今みたいになりたくなかったら、俺がいいって言ったモン以外には絶対に触るな。もちろん床に降りるのもダメ。分かったか?」
「(コクンコクン)」
必死の形相で、ティオは何度も頷いていた。
それから、面倒な上に苦労の絶えない日々が始まった。
まずは木製の食器を発注した。
一般的な食器は陶器や銀で出来ており、それらは元を辿れば土や金属のため、記憶量が膨大でティオは触れることが出来ない。
触れても負担の少ない、若木から削り出した食器をすぐ届けさせるよう手はずを整えた。
「あーあー、口の周りベトベトじゃないの。お前もうちょい綺麗に食えねぇか?」
「?」
幼児並みの行動を取るティオは、もちろん食事のマナーも幼児並み。
クザンは毎度毎度ティオの口周りをフキンで拭いてやった。
「ぶ……ぅ」
「……ったく、世話の焼けるヤツ」
面倒なことこの上ない。
……けれど、クザンはどこか楽しんでいる自分を感じていた。
そんなある日。
「おぉ、いたいた。よぉ、クザン!」
海軍本部の廊下を歩いていると、豪快な大声に呼び止められた。
クザンが振り向くと、抱えられているティオの目にも、その人物が映る。
「そいつが例の
煎餅を齧りながらやって来る老人。
「どーも、ガープさん」
「ほぉ~小っこいのぉ。孫を思い出すわい」
ガープは少ししゃがんで、ティオの頭をガシガシと撫でた。
「うぐ……っ」
首がちぎれるかと思うほどの怪力に、ティオは本能的に生命の危機を感じ、青ざめた。
もちろん、その間は手を通してガープの記憶が流れ込んで来る。
「……」
若かりし頃、息子のこと、孫のこと。
触れていた時間が短く、全ては見えなかったが、パワフルで濃い人生が垣間見えた。
「ティオ、挨拶しな。ガープ中将だぞ」
クザンは、ティオをガープの目線まで持ち上げた。
「こん、ちは」
舌足らずにそう言って、小さく頭を下げる。
ガープはニカッと屈託ない笑顔を見せた後、クザンと話し始めた。
ティオはその会話を聞きながら、先日教えられた海軍の階級を思い出していた。
どうして中将なのに、大将のクザンが敬語を使っているのだろうか……
「見聞色の才があるそうじゃな。今さっきもわしに記憶を流し込んできおった」
「まぁ、流し込むっつーより、勝手に流れちゃうんすけど」
「あ、もしかしてわしの記憶も読まれた?」
「確実に」
「ほ~……まぁいーか!」
「いいんスか……」
「どうせ伝承者とかいうやつになるんなら、遅かれ早かれぜ~んぶ知られることになるからな! ぶわっはっはっ!」
「そりゃそうでしょうけど……。つーか声デカイっすよ。伝承者のことは一応、政府と軍上層だけの秘密ってことになってるんすから」
「ふーん。それにしてもどういう風の吹き回しだ? この
「あー、まぁ、何となくその場のノリで」
「ノリか、ぶわっはっはっはっ! お前は本当に変わっとる!」
「アンタが言いますか……」
クザンは苦笑いを浮かべていた。
その表情の意味も、ガープが笑っている意味も、感情が欠けていたこの時のティオには分からなかった。
さて、ティオの面倒を引き受けたからと言って、クザンの仕事がなくなるわけではない。
誰かに預けて行こうにも細かい注意事項が多すぎて、伝えるだけでも1日終わってしまいそうだ。
仕方なく、クザンはどこへ行くにも、ティオを抱えて連れていった。
「あっ、おい見ろ」
「噂は本当だったのか…」
海軍本部大将が子供を連れていれば、目立たないわけがない。
ティオが来てからしばらくの間、海兵たちの間で噂が絶えなかった。
隠し子なんじゃないか、どこかで拾って来たんじゃないか。
ティオの経歴は、軍上層部でも一部にしか知らされていない。
噂が立っても仕方のない状況だった。
軍艦で遠征するときにも……
「あ、あの、大将、その子も連れて行かれるのですか……?」
と必ず訊かれた。
「あぁ。何か問題あるか?」
「い、いえ! 失礼いたしました!」
海兵は慌てて自分の持ち場へ戻っていく。
クザンは長いため息をつきながら、その背中を見送った。
小脇に抱えられていたティオは、クザンをじっと見上げて言う。
「めんど、くさ、い?」
「こらこら、勝手に言わないの」
「(コクン)」
クザンは軍艦の上では大抵、リクライニングチェアを持ち出して寝ている。
ティオもその上で寝ていることが多い。
しかし、そこへ大砲の音が一発でも響けば……
"ズドォンッ!"
「!」
"ボンッ"
驚いた拍子に、5種類の動物のうち、何かに変身してしまうことが度々あった。
見聞色の覇気だけでなく、悪魔の実の能力も制御が利かないのだ。
「海賊船だ!」
「撃て、撃てーっ!」
「捕らえろ!」
海兵たちがバタバタ騒ぐ中、クザンはあくびをしながら、狼に変身してしまったティオの頭を撫でる。
「いい加減、大砲の音くらい慣れろ」
「ぅぅ……(コクン)」
"ボンッ"
ティオは人の姿に戻った。
……つもりだったのだが。
「はい、ハズレ」
「~~~っ」
変身後の姿は鼠だった。
人間に戻ることすら難しいのだ。
……それから何度も変身を繰り返し、23回目にようやく人間に戻った。
その頃には追っていた海賊船も捕えて、帰港するのみとなっていた。
「……つか、れ、た」
ティオはヘナヘナとクザンに身を預ける。
「ま、練習するしかねーだろ」
「(コクン)…………すぅ……すぅ」
「……って言ったそばから寝るのか」
一緒に生活を始めてから、コイツはよく寝るなとクザンは思っていた。
理由は分かっている。
ティオの経歴が脳裏を掠めた。
「……理不尽だよな、世界は」
そう呟いて、クザンはしばらくティオの頭を撫でていた。