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1. アラバスタ戦線
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一瞬、辺りはまばゆい閃光に包まれた。
鼓膜が破れそうな爆音と共に吹き渡る、立っているのもやっとな程の爆風。
「「「……」」」
アラバスタは爆音の残響でしばし沈黙した。
王宮の戦士も反乱軍も、全員だ。
その中で、ビビと麦わらの一味は、空を見上げて絶句していた。
……さぁ、国の最悪の状況からは脱した。
これで戦いは終わ……
"カチャ"
……らなかった。
剣を持ち上げる乾いた音。
「う……お……」
1人の小さな声に始まり、
「「うおおおおおっ!!」」
広場全体から雄叫びが上がる。
「……嘘、だろ?」
ウソップは目を疑った。
彼だけではない。
麦わらの一味はもれなく、近くにいたタシギまでもが、目を見開いて止まっていた。
"カキンッ!……ガッ、ビシッ"
戦いが再開される。
「……狂気が、止まらない」
目の前で剣を交える戦士達を前に、タシギの脳裏には、スモーカーの言葉が響き渡っていた。
『……この国の辿る結末をしっかり見ておけ、タシギ。滅ぶにせよ生き残るにせよ、時代の節目には必ず、こういうことが起こる』
あの時は分からなかった言葉の意味が、今ようやく分かった気がした。
「あらそい、たえない。にんげんも、どうぶつ、だから」
「!」
背後で聞き覚えのある声と言葉が聞こえて、タシギは振り返った。
「ティオ……」
いつの間に時計台から降りてきたのか、人間姿に戻ったティオは、無表情なままタシギの後ろに立ち、戦乱を眺めていた。
「でも、それじゃ人間は……」
「だいじょぶ」
「……え?」
「おおきなはかい、のりこえて、おおきなさいせい。それが、いきもの。むかしのひと、いった。『雨降って地固まる』と」
「再生……」
「いま、つちのした、さいせいの、のろし、あげようと、してるひと、いる。そのひと、こえ、とても、おおきい」
「土の下? のろし? 声?」
「あめ、ふらすため、いま、あがる」
ティオがそう言って指さした瞬間だった。
"ドゴオオオォォォンッ!!"
ティオの小さな指の先で、住宅が幾つも倒壊した。
そしてその中心部分から、空に舞い上がる黒い何か。
「ほら、のろし」
「!?」
タシギが目を見開くのと同じ頃、サンジがそれを指さした。
「おい! あれ見ろ!」
麦わら一味は皆して同じ方向を見上げ、叫んだ。
「「「クロコダイル!?」」」
地の底からものすごい勢いで飛び出してきたのはクロコダイルだった。
「何であんなとこから飛び出してくるのかはわからねぇが…」
「そうさ! こんなこと、ハナから分かってたが、とにかくっ」
麦わらの一味は、みんなで満面の笑みを浮かべる。
「「アイツが勝ったんだーっ!!」」
その様子はもちろんビビにも見えていた。
ビビはルフィが『クロコダイルをぶっ飛ばせばいんだろ?』と言っていたのを思い出し、目を見開く。
……本当にやってくれたんだ。
心の奥が暖かくなる。
けれど、同時に、広場の喧騒も耳に響いてくる。
「もう、敵はいないのに……これ以上、血を流さないで……っ」
血を滲ませながら時計台の岩をひっかいた。
言葉にならない悔しさの行き場がない。
ビビは思いっきり息を吸い込んだ。
「戦いを、やめて下さい!」
数刻前から叫び続けているその一言。
未だに誰も聞き入れてくれないその言葉は、空に舞い上がる砂塵と共に昇っていった。
「……」
砂塵の昇る先を、ティオは黙って見上げる。
「クロコダイルが下から? それじゃ、やはりモンキー・D・ルフィが……」
タシギは目を見開いたまま、未だ空中にあるクロコダイルを見上げていた。
「さいせいの、のろし、あがった。……あめ、ふるよ」
「え?」
――――――ポタ。
タシギのメガネに、一滴の水が落ちてきた。
水は一滴では止まらず、次々に空から落ちてくる。
「……どうして」
どうして雨が降ると分かったのか。
それ以前に、どうしてクロコダイルが土の中から飛び出してくると分かったのか。
タシギがティオを見ると、ティオもタシギを見返した。
「かんたんなこと。つちのした、こえ、4つ、きこえてた。もんきー・でぃー・るふぃ、さー・くろこだいる、にこ・ろびん、それともうひとり、きっと、ねふぇるたり・こぶら。もんきー・でぃー・るふぃ、すごいこえ、だった。ぎゃくに、くろこだいるのこえ、ちいさくなってた。じひびき、も、だんだん、ちじょう、ちかくなって……。だから、くろこだいる、うちあがる、すいそくした」
「あんな離れた場所の音が、どうして……」
「それから、てぃお、どうぶつ、なれる。はな、きく。あめのにおい、ずっと、してた。それだけ」
「そうなんですか? ……でも、待って下さい! "声"っていったい……」
「"こえ"は"こえ"。そうちょうも、いつか、きこえる」
勢いを増し始めた雨の中で、無表情の青い瞳がタシギを見据える。
「……っ」
タシギはその瞳に、抗いがたい壁を感じた。
"ザァー……"
しばらくして、雨は本降りと化した。
「雨で砂煙が晴れてくぞ」
チョッパーの言うとおり、次第に辺りが見えるようになった。
雨で沈静化されたかのように、武器の音も収まっていく。
あれだけ刺々しかった喧騒が、嘘のように静かになっていった。
そこに、ようやく声が響く。
「もうこれ以上、戦わないでください!!」
「ビビの声が……届いた……」
ナミが唖然としながら呟いた。
"ガチャン…ゴトン…"
あちこちから、武器を手放す音が聞こえてくる。
「ビビ様……」
「王女は不在のはずじゃ……」
「ビビ……」
「ビビだ……」
皆一様に、時計台にビビの姿を確認した。
もう誰一人、武器を掲げてなどいない。
"―――ドシャッ!"
広場の中心に、重たく鈍い音が響いた。
何かが落ちてきたようで、周囲の視線が一挙にその場所へ集まる。
「クロコダイルさん?」
「何故、こんなところに落ちてきたんだ?」
反乱軍は動揺を隠せない様子で、口々にクロコダイルの名を呼んだ。
当然だろう。
彼らにとって、クロコダイルはずっと英雄だったのだから。
「……今 降っている雨が、また降ります。悪夢は全部、終わりましたから」
ビビの静かな声が、戦いを締めくくる。
長きに渡ったアラバスタの内乱は、今、ようやく幕を閉じた―――。