1. アラバスタ戦線

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海兵隊は準備ができ次第、夜のうちに出発した。

とはいえ、レインベースとアルバーナの間には大きな川があり、広大な砂漠も広がっている。

到着する頃には、すっかり夜が明けて、昼も過ぎ、夕方に差し掛かっていた。

アルバーナの西門で、タシギが時計を見ながら言う。

「予想以上に時間が掛かってしまいましたね……」

現在時刻、16:17。

「まずは王宮へ急ぎましょう! 国王軍の方々とコンタクトをとります!」

「「「はっ!」」」

敬礼と共に返事をし、海兵たちはタシギに続いて西門の階段を駆け上がり始めた。

ティオも一緒に駆け上がっていくが、その表情はいつにも増して浮かない。

「そうちょう」

ティオは、前を走るタシギの上着の裾を引っ張った。

「はい、何ですか?」

てぃお、おうきゅうまで、とぶ。じょうきょう、きいて、かえってくる。はしるより、はやい」

「あ、そうか……そうですね、お願いします」

「(コクン)」


"ボンッ"


ティオは鳥に変身した。

そして一気に空に舞い上がり、王宮へ一直線に飛んでいく。

「……」

地面を離れて空を掻き分けていると、地上の喧騒から少し離れた気がした。

代わりに、見聞色の覇気が別の"声"を拾う。

(……どんどん、へってる) 

現在最も激しい交戦状態にある大広場。

(……せっせん。むぎわらいちみも、いる。……おうきゅう、いるの、くろこだいると、もんきー・でぃー・るふぃ)

ほんの数秒、何かを考えたティオは、空中でUターンしてどこかに向かい始めた。

(2じのほうがく、おうじょの、こえ)

クロコダイルとルフィが戦っている現状況で、王宮に行くのは非常に危険だ。

そう考えたティオは、次に多くの情報を持っているであろうビビに、話を聞くことにしたのだ。

彼女の居場所を特定したティオは、2時の方角へ進路を変えた。

「はぁっ、はぁっ……いったい、どこにあるっていうの! もうあと10分しかないのに!」

ティオの向かった先には、ちゃんとビビがいた。

住居の壁に手をついて、肩で荒い息を繰り返している。

"ボンッ"

「おうじょさま」

「!」

ビビは突然の音と声に、肩を揺らした。

「あ、あなた、昨日の……」

「かいぐん、つれてきた。じょうきょう、おしえて、ほしい」

「海軍……そうよ、そうだわ! 1人でも多く探してくれる人がいてくれれば!」

「?」

ティオはわずかに首をかしげた。

まるで希望の光を見るような眼差しが、不思議でならない。

「あのねっ、反乱軍を止められなくて、砲撃が、直径5kmの…「しゃべるより、みる、はやい」

混乱しているビビの言葉を遮って、ティオは初めて会った時のように、両頬を両手で挟み込む。

「それも、そうよね……」

ビビも自分が上手く話せていないと気づいたのか、素直に従った。

わずか3秒で、ティオは状況を理解する。

……ビビと麦わら一味の努力もむなしく、反乱軍と王国軍の和解はクロコダイルに失敗させられて、争いが始まってしまったらしい。

さらにクロコダイルは、広場を中心に、直径5kmが吹き飛ぶ砲撃を、16:30に発射するとのこと。

ビビは麦わら一味と共に、砲撃手を探しているようだ……

「ほうげきしゅ、さがすの、てつだって、ほしい」

「そう、そうよ! お願い! 反乱軍と国王軍の戦いを止める前に、みんなの命を守らなくちゃ!」

ビビは涙を溜めながら頼み込んできた。

と、そこに……

「ビビ~!」

「見つかったか~!?」

2人分の声と足音が近づいてくる。

ウソップとナミだった。

ビビが声を張り上げて答える。

「ペルも空から見てくれてるけど、どこの屋上にも、それらしき砲台も砲撃手も見当たらないらしいの!」

「あれ、その子……」

「うおっ、あん時のチビ助!? 何でここに!?」

カジノ・レインディナーズで檻に閉じ込められたメンバーは、ティオに会っている。

ウソップは海兵であるティオを、あからさまに怖がった。

「海兵さんたちを連れてきてくれたのよ! これで人手が増えるわ! ……あと8分しかない、急がなくちゃ!」

「海軍も協力してくれんのか!?」

「心強いわね。さぁ、急ぎましょう!」

ウソップ、ナミ、ビビは再び走り出そうとする。

しかし……

「さくれつはんい、はんけい2500めーとる」

「「「?」」」

淡々と紡ぎ出されたティオの声に、踏み出していた足を止めて振り返った。

「さくれつはんい、はんけい、2500めーとるの、ほうだん、こうけい、7.5めーとる。そんな、おおきいの、うちだせる、ほうだい、おおきさ、さいていでも、ちょっけい、10めーとる。それに、おおきい、ほうだん、とびにくい。もし、とばなくても、もくてきの、ばしょ、ばくは、したいなら、らっかの、しょうげき、りようしたい。よって、ほうだいの、ばしょ、かなり、たかいとこ。さらに、ばくはよていの、ひろば、ちゅうしん、500めーとる、けんない」

「「「……」」」

3人は唖然とする。

しかし、すぐに思考を再開した。

「……そうか、よく考えてみりゃそういう計算になるじゃねぇか!」

「そうなると……ねぇビビ! 広場とその周り500m圏内で高い建物は!?」

「えっと、そうね、塔が3つと、あと、時計台くらいかしら……」

「じゃあその中で、頂上付近に直径10m以上の砲台が入る、広~い部屋があるのは!?」

「頂上付近……広い部屋……あっ、あるわ! 1ヶ所だけ! あの場所なら! ……そうよ、あの場所しかない! 時計台の、頂上よ!!」

ビビの白い指が、まっすぐに時計台の文字盤を指す。

「よぉし、じゃあみんなを呼ぶぞ!」

ウソップが麦わら一味を招集するため、赤い煙弾を打ち上げた。

煙弾はしゅるしゅると回転しながら、空高く登っていく。

それを見届けてから、ウソップはティオに視線を戻した。

「にしてもお前、詳しいんだな~」

「たまたま、しってた、だけ。かいぐん、しらせに、いく」


"ボンッ"


ティオは、賞賛などまったく受ける気がないようで、さっさと鳥に変身して空へ舞い上がる。

「あっ、待って!」

ビビは今度こそお礼を言おうとしたが、ティオはすでに遥か上空まで飛び上がっている。
 
そのため、思いっきり息を吸い込んだ。

「ありがとう~!」

ティオの背に向けて思いっきり叫ぶ。

もちろんその声は聞こえていた。

しかしティオは振り返ることなく、そのまま飛んでいってしまった。








空へ舞い上がったティオは、見聞色の覇気を広げ、タシギを探した。

(みつけた。9じの、ほうがく)

海兵隊は、ティオが一旦別れた西門から、かなり移動しているようだ。

とにかくティオは、タシギの"声"が聞こえるその場所へ、飛んでいった。

「そうちょう」

「あ、ティオ! 戻ったんですね!」

「……?」

ティオはタシギの肩にとまると、わずかに首をかしげる。

何故か傷だらけで、血だらけなのだ。

ほかの海兵たちも、少なからずどこかを負傷している。

「報告をお願いします!」

「(コクン)」

ティオはさっきまで見聞きしてきたことを、掻いつまんでタシギに話した。

「……やはりそうでしたか」

「やはり?」

「実は先ほど、アラバスタ国王を連れたニコ・ロビンに会ったんです」

「……」

「そのとき、国王から砲撃のことを聞きました。……ニコ・ロビン、捕らえることができなかった」

タシギは悔しそうに歯を食いしばり、拳を握り締めた。

それをじっと見ていたティオは、鳥のままで話す。

「ほうだい、ばしょ、わかった。むぎわらいちみ、ほうだん、とめる。かいぐん、やるべきこと、すべき」

「……そうですよね。私たちは、私たちの正義を貫けばいい!」

拳を握り、後ろの海兵たちを振り返る。

「私たちはこれから、麦わらの一味の援護に向かいます!」

「「「はっ!」」」

海兵たちは即座に走り出した。

それを見届けてから、タシギは肩に乗ったティオを見る。

「私たちは砲撃手探索のため、二手に分かれています。私は彼らと麦わら一味のもとへ行きますから、ティオはもう一方の海兵たちにも、援護に来るよう伝えて下さい!」

「(コクン)」


"バサッ"


ティオはタシギの肩から飛び立ち、ある程度の高度まで舞い上がった。

「……」

そして、見聞色の覇気で、数多の"声"の中から海兵たちを探す。

昨晩、アラバスタへの出発前に、海兵隊の顔と"声"は全て覚えてある。

(いた。10じの、ほうがく)

覚えのある"声"の集団を見つけ、ティオは方向を少し左にずらし、飛んでいった。









10時の方向で数秒飛ぶと、通路に固まった海兵たちが見えてきた。


"バサッ"


ティオはその中の1人の肩にとまる。

「たしぎ、そうちょうより、でんれい。むぎわらいちみ、ほうだい、はっけん。ほうげき、そし、かいし。かいぐん、むぎわらいちみ、えんごする。あかい、しんごうだんの、とこ、むぎわらいちみ、しゅうごう。かいぐんも、しゅうごう」

「了解しました!」

伝令はすぐさま、海兵たちの間を回った。

するとそこに……

「……いや、こっちか!」

何者かの声と足音が聞こえてきた。

海兵が1人、その声と足音の方に目を向ける。

「ん? ……あ」

同時に、向こうもこちらに気づいたようで、足を止めた。

「なにっ、海兵……」

緑色の髪に三本の刀。間違いない。

「見ろ、ロロノア・ゾロだ」

「くそっ、海軍がこの街まで来てたとは……時間がねぇってのにっ……仕方ねぇ、ここは3秒でケリをつけさせてもらおう!」

ゾロは独り言を呟いて、刀に手をかけた。

それを見ながら、海兵たちは首をかしげる。

……それもそのはず。

ここは赤い信号弾が上がった位置の"逆"だ。

「貴様! 何故こんなところに!」

「いったい何をやっている!」

海兵たちが口々に思ったことをぶつけると、ゾロも逆に噛み付いてきた。

「そりゃこっちのセリフだ!」

「ロロノア・ゾロ! 相当な方向音痴という情報は得ていたが、予想以上だな!」

「戻れ! ひとつ手前の角を北へ行けば、広場へ出られる!」

「戻って右だ! こっちじゃない!」

「アホか君は!」

「アホだぁ!?」

「急げ!」

「行け!」

「……何だ? どうなってんだ?」

「いいから早く行け!」

終いには、その場所にいた海兵全員に道案内され、ゾロは渋々ながらも刀をしまう。

「何だか知らねぇが、時間は惜しい!」

そのまま、海兵たちに背を向け、元来た道を戻っていった。

「……」

ティオは海兵たちと一緒に、走っていくゾロの背中を見つめる。

数多の視線を受けながら、ゾロは真っ直ぐ走っていき、角を……左に曲がった。

「「なんでだーっ!!」」

「今さっき右っつっただろーが!」

「もう方向音痴のレベルじゃねぇよ!」


海兵たちは口々にツッコミを入れながら項垂うなだれる。


"バサッ"


ティオは留まっていた海兵の肩から飛び立った。

「あのひと、あんない、してくる。みんな、さき、いってて」

「あ、はい!」

返事を聞くと、ティオはまっすぐにゾロの元へ飛んでいった。




「あ? 何だここ。全然広場じゃねぇじゃねぇか。……アイツら騙しやがったか」

右と言われた角を左に曲がったゾロは、もちろん道に迷っていた。

その背後で、ティオは鳥から人に戻る。


"バササッ……ボンッ"


ゾロはもちろんその音に振り返った。

「お前、昨日の……」

「まよいすぎ。みち、あんない、しにきた」

「あ? テメェらが教えた道が間違ってんじゃねぇか」

「ついて、くるの」

ティオは問答無用で走り出す。

「……ったく、何なんだよ」

ゾロは頭を掻いてから、ティオの後ろをついて走り出した。

「……」

「……」

しばし無言が続き、走る音と周囲の喧騒だけが耳に届く。

ティオは速度を変えることなく走り続けた。

「つぎのかど、みぎ……」

言いつつ振り返った。

「……」

走っていた足が、次第に遅くなり、やがて止まる。

「……」

ティオの視線の先には誰もおらず、砂塵が風に舞うだけ。

(ずっと、まっすぐ、だった。はぐれる、ようそ、なかった、のに……)

いつの間にかゾロとはぐれていた。

しばらくまっすぐ走っていただけなのに、どこへ行ったというのだろうか……

「……」

ティオは小さなため息をついて、"ボンッ"と鳥に変身する。

地を蹴り、覇気を使い、ゾロを探しに空へ舞い上がっていった。

 
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