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1. アラバスタ戦線
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「……ん」
ティオが目を覚ますと、沈みかけの夕日が顔を照らした。
身を起こせば、そこは川の淵。
スモーカーが、川に面する手すりに座って、葉巻をふかしている。
(……そと?)
次第に頭が冴えてくる。
……そうだ。
鍵を取りに行って、バナナワニに飲み込まれて……
ティオは自分の手を見た。
握ったり開いたりして、自分の体が無事であることを確認する。
死んだと思ったが、まだ生きているようだ。
「……不本意だが、俺たちは麦わらに貸しを作っちまった」
ティオの疑問を察したのか、スモーカーが答えた。
「……」
ティオは黙って、スモーカーの後ろ姿を見つめる。
今朝の店ではあれだけ大きく見えた背中が、今は一回り小さく見えた。
「……」
今の一言と現状況だけで、ティオはおおよその事態を把握した。
……おそらく、自分がバナナワニに飲み込まれたあと、麦わら一味の他の仲間が助けに来たのだろう。
上空から見たとき麦わら一味は6人いたはずだから、残り2人の内どちらか、あるいは両方が。
そして自分を鍵もろともワニから救い出してくれて、海楼石の檻から脱出。
大佐と自分の服が濡れていて、川の沿岸に濡れ跡が多数存在することから、水の中を通ってきたと推測できる。
とすると、何らかの不祥事が起こって正規の出入口が使えなくなり、仕方なくワニの水槽から川を伝ってここまで逃れたのだろう。
しかし、自分と大佐は能力者のため泳げない。
つまり、麦わら一味が助けてくれたということだ。
大佐としてはプライドが許さないのだろう……
ティオはそこまで考えると、すくっと立ち上がった。
スモーカーをじっと見て、判断を仰ぐ。
当人は考えを巡らせるように、しばらく川の水面を見つめた挙句、重々しく口を開いた。
「……アラバスタ王国周辺の軍艦を、全てここへ集めるよう連絡を取ってある」
「……」
まあ、スモーカーの性格ならそう判断するだろう。
王下七武海だからと、悪事を黙認するようなことは出来ない不器用さが、彼の長所だ。
「タシギたちと合流するぞ」
「(コクン)」
クロコダイルの、七武海の領分を超える非道を直接目にした以上、放っておくわけにはいかない。
一度"正義"を背負った者ならば。
ティオはスモーカーと共に、レインベース内に構えた海兵隊の拠点へと歩いていった。
砂漠に隣接するそこは、街の中心付近であるレインディナーズからは遠い。
「ティオ」
「?」
「今回の一件、クロコダイルは何を狙っている」
「……」
ティオはスモーカーを見上げていた視線を、前方に戻した。
「この国を乗っ取ろうとしている野望は聞いた。だが、あの男はそれだけで終わるような奴じゃねぇ。他の諜報員じゃなく、"お前"が送られてきたのも、それが関係してんだろ」
「……」
「お前のことだ。既に、俺の知らねぇ何かを掴んでんだろ? 推測だけでも構わねぇ。意見を聞かせろ」
「……」
ティオはしばらく黙っていたが、やがて静かに話し始めた。
「くろこだいる、ぱーとなー、にこ・ろびん。おはら、こうこがくしゃ。こだいもじ、よめる」
「……なるほどな」
「ねらい、ぽーねぐりふ。あらばすた、こだいへいき、ぷるとん、ねむる、いわれてる。そのうわさ、きいた、おもう」
「……噂? プルトンはここにはねぇのか?」
「じゅうよう、ぐんじ、きみつじこう。いちぶの、やくしょく、いがい、こうがい、げんきん」
「……フン」
あくまでも一介の海兵である自分には、話せないということか。
「古代兵器が目的か」
「それだけ、ちがう」
「?」
「こだいへいき、だけ、もくてきなら、あらばすた、おうこく、かんけい、ない。ないらん、ひつよう、ない」
「……」
言われてみればそうだ。
クロコダイルなら、密かにプルトンだけを手に入れることも可能だっただろう。
「くろこだいる、も、かいぞく。かいぞくおう、なりたい。なら、おおきなちから、ひつよう。つまり、おおきなきょてん・おおきなぐんたい・おおきなぐんじりょく」
「そういうことか。巨大な軍事力として古代兵器プルトンを手に入れれば、残るは拠点と軍隊。プルトンがアラバスタにあるのなら、ついでに文明大国であるアラバスタを乗っ取って、住民を軍隊として動員するのが一番手っ取り早いってわけだ。国王を餌に内乱を起こさせ、それを自身の手で終わらせる。そうすれば奴はこの国を救った英雄であり、次の王だ」
「(コクン)」
……コイツの思考力には、いつも驚かされる。
そんなことを思いながら、スモーカーはチラリとティオを見下ろした。
「だが、クロコダイルは何をしたんだ? 国王に恨みを持たせて反乱軍を作るってのは、何年かかってもそう簡単にできることじゃねぇだろ。ましてや現国王は、歴代の王の中でも特に民からの信頼が厚いそうじゃねぇか」
「あらばすたの、れきしに、よると、ねふぇるたり・こぶら、こくおう、なってから、くろこだいる、しゅつげんまで、わるい、うわさ、ひとつも、ない。しんよう、かなり、あつい。なかなか、くずせない」
「なら、何が原因だ?」
「ここ、6ねんかん、あらばすたの、しりょう、ひとつだけ、へんか、してた」
「?」
「こうすいりょう、しゅと、あるばーな、ぞうか。ほかのとし、げんしょう」
アラバスタの歴史や資料など、いつの間に読んでいたのか。
「……そういうことか」
「(コクン)」
2人の視線の先に、小隊の拠点が見え始めた。
「あらばすたに、とって、あめ、なにより、だいじ。そこ、つけこんだ。あめふらす、くすり、だんすぱうだー、つかった。きんしのくすり。いっかしょのみ、あめ、ふる、かわりに、ほかのばしょ、あめ、ふらない。くろこだいるの、へや、ほんだな、みつゆでんぴょう、あった」
拠点の前で、2人は足を止めた。
もう辺りはすっかり暗くなっており、夜だ。
「スモーカー大佐! ティオ!」
タシギが2人を見つけて、外に出てくる。
スモーカーは無言でしばらく、愛用のビローアバイクを見つめた。
「タシギ」
「あ、はい!」
「お前は海兵たちを連れてアルバーナに向かえ」
「アルバーナへ? 私が?」
スモーカーはバイクのエンジンをふかし始めた。
ティオは黙って成り行きを見守っている。
「麦わらの一味を追うんですね? それとも、国王軍に加勢を?」
「任せる」
「え!?」
「そこで何をするかはお前が決めろ」
「そ、そんな、どういうことですか!?」
「お前の正義に従えばいい。どうなろうと、責任は全部俺がとってやる」
そう断言して、スモーカーは革製の手袋をきつくはめた。
「大佐はどこへ……」
「急用ができた。俺は一旦海へ出る。いつでも交信体制を整えておけ、タシギ」
「は、はい……」
「……それから、ティオ、お前はタシギの援護についてくれ。お前の"裏の目的"のためにも、タシギたちと行動する方が利があるだろう」
「(コクン)」
ティオはいつもの様子だが、タシギは何か覚悟を決めるように、刀をぎゅっと握っていた。
スモーカーはゴーグルを装着し、砂漠の地平線を見やる。
「……この国の辿る結末をしっかり見ておけ、タシギ。滅ぶにせよ生き残るにせよ、時代の節目には必ずこういうことが起こる」
「え……」
言葉の意味がいまいち分からないのか、タシギは唖然とする。
"ブロロロロ……"
タシギが固まっている間に、スモーカーはバイクで走り去ってしまった。
「この国の、結末……」
呟きながら、小さくなっていくスモーカーの後ろ姿を見送るタシギ。
ティオは黙ってタシギを見上げた。
しばらく見つめてから、視線を前方に戻す。
「むかし、せかいじゅう、いまの、あらばすたと、おなじ、だった」
「え?」
「あらそい、たえない。おおくのもの、うしなう。でも、あらそわないと、にんげん、いきてけない。どうぶつ、だから。……きっと、にんげん、かしこく、なりすぎた」
「賢くなりすぎた?」
どういう意味だろう……
自分の知らない何かが、この子の小さな体いっぱいに詰まっている。
それは一体……
「曹長、命令を!」
「あ、はい!」
タシギは弾かれたように振り返った。
自分を見つめている海兵たちの瞳に、緊張が募る。
「……っ」
つい今しがた、この部隊を任されたのだ。
きちんとしなくては。
「海賊麦わらのルフィ以下、麦わらの一味を追跡します。全隊、装備を強化! アルバーナに向けて、出発の準備を!」
「「「はっ!」」」
海兵たちは皆一様に敬礼と返事をした。
そして、バタバタと動き出す。
その
「……」
ティオはひとり、砂漠の向こうをじっと見つめていた。