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13. 海軍要塞ナバロン
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"コンコン"
しばらくして辿り着いた部屋の戸を、軽くノックする。
「入れ」
中から返事が返ってくると、ティオは最低限だけ扉を開けて、滑り込むように入った。
部屋には、ゾロの拿捕から戻ったばかりのジョナサン司令官と、その部下であるドレーク少佐の2人が。
ジョナサンはティオを視認すると、何かを思い出すように眉を顰めた。
「おや、君は確か……」
「てぃお」
「おぉそうだ。海軍本部元帥付き諜報員。仕事で何度か会っているなぁ。今日は何用かな? ちょっと立て込んでいるんだが……」
「むぎわら、いちみ、はいり、こんでる、でしょ?」
「ふむ、さすがは諜報員、といったところか?」
別に今回は情報収集したわけではないが、まぁそういうことにしておく。
「しごと、おわって、ほんぶ、かえるとこ。うで、けがして、とぶのに、ふべん。なおるまで、ここ、いさせて、ほしい」
左腕の包帯を見せると、ジョナサンは眉根を下げた。
「それは大変だったなぁ。好きなだけ滞在するといい」
「お待ちください司令官」
「何だねドレーク少佐」
「本物なのですか? このティオなる諜報員」
「そうか、少佐は会ったことがなかったか。……大丈夫だ。私は彼女に何度か会っている。さすがに顔貌が違えば分かるよ」
「そうでしたか。失礼いたしました!」
「いやいや。君のその疑り深さは重要な資質だ」
この、部下を何よりも大切にするジョナサンの姿勢。
変わらないなぁと、ティオは思った。
「というわけで、ティオ。今この要塞は安全とは言えない。君が相当な実力者であることは分かっているが、くれぐれも気をつけてくれ」
「(コクン)」
頷くと、ティオはすぐに踵を返して部屋を出ていった。
これで堂々と滞在できる。
……と思ったとき、左腕の包帯がはらりととけた。
「……」
そういえば、昨日チョッパーが巻いてくれてからそのままだ。
そろそろ交換した方がいいだろう。
ティオは踵を返し、医務室へ向かった。
しばらく歩いていると、向かいから5人のナースが走ってきた。
そのうちの1人はナミで、どうやら掃除当番からナースに変装を変えたらしい。
ナミは引きずられるようにして連れて来られていた。
ティオは物陰に隠れて様子を窺う。
「さっさと医務室に行くわよ!」
「はい!?」
「急患なの!ナースは全員非常召集よ!」
「結局、どんな恰好でも仕事させられるのね……」
「何か言った?」
「い、いいえ何でもないです!」
目の前を通り過ぎ、医務室に入っていくナースたちを見送って、ティオは医務室の扉の横で聞き耳を立てた。
とりあえず、医務室からナミが居なくならないと、包帯を貰いに行けない。
「コバト先生! 急患です!」
「え、な、内科? それとも……」
「スタンマレー号の海兵に重傷者が多数出ています!」
「げ、外科!? よ、よろしく頼むわ。外科はわたし、専門外だから……」
「何を仰ってるんです! 今この基地には、医者はコバト先生しかいないんですよ!?」
「だ、だって、わたし専門は小児科で、外科は専門外でぇっ!」
医務室の扉が開き、コバト先生なる女性は、ナースたちに処置室へと連れていかれた。
無論、ナミも一緒だ。
……あんな先生で大丈夫なのだろうか。
何となく気になったティオも、処置室へと行ってみる。
「移すぞ!」
「1、2の、3!」
処置室には、十人近くの重傷者が運び込まれていた。
ナースたちはその間を忙しく駆け回り、応急処置をしていく。
ナミも一緒になって手当てして回っていた。
「コバト先生、どうします?」
「そ、そうね、そうね……鎮痛剤を50ml……」
「オペ室の用意は?」
「オペ? ……オペ……オペよね……あはは」
先生はその場に座り込んでしまった。
「ちょ、先生!」
「しっかりしてください!」
「一刻を争うんです!」
「治療の指示を!」
ナースたちはコバト先生を椅子に座らせる。
しかし、先生は完全に力が抜けていて、使い物にならない。
するとそこに……
「皆さんに指示を与えます!」
なんと、チョッパーが現れた。
人型になり、白衣を纏って、申し訳程度の変装に瓶底メガネをかけている。
「まずこの患者には、ペニコールと強心剤、それにチアルシリンを投与して」
「え……」
「誰……?」
「分かったら返事を!」
「「「は、はい!」」」
ナースたちは動き始めた。
「各患者の血液型とクロスマッチ、手術が必要な患者には術前処置。その患者には破傷風トキソイドと、モルヒネ5mlを打って」
「はい!」
「オペ室の準備は?」
「準備できました!」
「じゃあ、重症患者から運び込むように!」
「「「はい!」」」
そうして患者たちが運ばれていくと、チョッパーは気絶したコバト先生を起こした。
「しっかりしてよ、コバト先生」
そこに通りかかるナミ。
「え、チョッパー!?」
「ナミ!? どうしてこんなところに!?」
「アンタこそ……」
小声で話していると、コバト先生が目を覚ました。
「……あ、あの、何がどうなってるのやら……気絶しちゃったもんですから……。お医者様、ですよね? どこのどなたか存じませんが、的確な指示のおかげで助かりました」
「まだ助かってない! 手術をしなければ命が危ない兵士が何人もいるんだ!」
「はい……」
「一刻も早く、重症患者たちのオペを始めるんだ!」
「はい、オペ、を……はぁ~~」
コバト先生はまたしても気絶しそうになる。
ナミは額に手を当て項垂れた。
「もう、何なのよアンタ」
「わたし、ダメなんです」
「何が?」
「人の痛みとか、血が流れるのとか……注射するのさえ苦手なのに、人の身体を切ったり縫ったりなんて……」
「呆れるわね~。ここ海軍基地なんでしょ? そんなんで今まで一体どうやって治療してきたのよ」
「わたし、専門は小児科なんです。他の医者たちが出張なんで、わたしが医務室長代理を頼まれちゃって……」
「代理でも何でも、今はあたなが医務室長なんだろ!?」
「は、はぁ、一応……」
「一応って……」
唖然とするチョッパーにナミが小声で提案する。
「チョッパー、こんなところさっさと脱出しましょう。ここは湖じゃなくて、ちゃんと外海と繋がってるわ。ゴーイングメリー号で出ていける」
「今はまだ行けない」
「え?」
チョッパーは決意を秘めた瞳でコバト先生の方を向いた。
「コバト先生、あなた、人の命を救う医者なんだろ?」
「そう、なんですよね。……でも、医者にだって出来ることと出来ないことがあるんです」
「俺に医学を教えてくれた人がしてくれた話だけど、ある男が、医者に死を宣告され、死に場所を求めてさ迷っていたんだ。そしたら、偶然通りかかった山で見たんだ。山いっぱいに咲く、鮮やかな桜を。それから男はもう一度医者にかかった。そしたらこう言われたんだ。まるで健康体だよ、ってね。ここの患者さんにとって、医者はあなたしかいないんだ。諦めちゃいけない。この世に治せない病気はない。俺たち医者が、病気やケガを諦めちゃいけないんだ!」
「……」
「医者は奇跡を起こせるんだ! そう信じてなきゃいけない!」
「……」
コバト先生は唇を噛み締めて立ち上がった。
「あの……わたしにも、桜が見られるでしょうか。……いえ、苦しんでる人たちに、桜を見せてあげられるでしょうか!」
「あぁもちろんさ! 俺も手伝うから!」
「ちょ、ちょっとチョッパー! そんなことしてる場合じゃないでしょ!」
「場合じゃないけど、何よりも人の命は優先されるんだ! 俺は医者だ!」
「そんなこと言って、アンタだって置いてかれちゃうわよ? いいの!?」
そこへナースたちがやってくる。
「先生、オペの準備できました」
「分かった、今行く」
「チョッパー!」
「分かりました」
さっきまで座り込んでいたコバト先生が、今までに見せたことのない真剣な表情で歩き出した。
そのあとを、チョッパーも追っていく。
「……ナミ、俺のこと置いてってもいい。今ここを出たら俺、ドクトリーヌに怒られちゃうよ」
「……ったくもう、アンタ一人置いてけるわけないでしょっ!」
ナミもチョッパーの後を追って、オペ室へと向かった。
……処置室に残っているのは、軽傷患者だけ。
ティオは物陰から出てきて、静かに医務室へ向かった。
今なら、一味の誰にも遭わずに包帯が巻き直せる。
「……」
医務室で包帯を巻くティオの頭の中では、チョッパーの言葉が巡っていた。
彼こそ本物の医者だと、素直に尊敬する。
……同時に、それほどの志がありながら、なぜ海賊になってしまったのだろうかと、少し可哀想な気持ちになった。
包帯を巻き終えると、ティオは医務室を後にした。