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1. アラバスタ戦線
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「……」
砂に圧迫された影響で、少し気絶していたようだ。
気がつくと、ティオはまだ尻尾を掴まれていて、頭に血が上る気持ち悪い状況にあった。
「―して―――すんだー!」
「―れに―イツ、煙男よ! ―――なんて効くわけないわ!」
何だか叫び声が聞こえてくる。
「そのとおりさ。やめたまえ」
「!」
真上から降ってきた声に、ティオは目を見開いた。
朦朧としていた意識がはっきり戻る。
尻尾を掴んでいるのは、変わらずクロコダイルの手だ。
「共に死にゆく者同士、仲良くやればいいじゃねぇか」
「クロコダイル……」
「何っ!?」
クロコダイルの名を呼んだ声はスモーカー。
そのあとに聞こえたのはルフィの声。
(……なに、が?)
敵同士の2人の声が続けざまに聞こえるなんて、一体どういう状況なのだろうか。
不思議に思っていると、クロコダイルが椅子をくるりと回して後ろを向いた。
ティオの目に、現在の状況が映り込む。
頑丈そうな海楼石の檻に、ルフィ、ナミ、ウソップ、ゾロ、そしてスモーカーが閉じ込められていた。
(おりの、なか……むぎわらいちみ、すもーかー、たいさ?)
スモーカーは鼠姿のティオを確認するなり、目を見開く。
「ティオ……」
「フッ……やはりコイツは、噂の諜報員か。残念だなァ。もう2年早く来てくれりゃ、俺の野望のためにコキ使ってやったんだが、計画完遂が目の前に来てる今となっちゃ、必要ねぇ」
スモーカーは眉間にしわを寄せた。
「させねぇよ。テメェの薄汚ねぇ計画は、ここで終わりだ」
クロコダイルは見下す態度で、鼻を鳴らす。
「フン、噂通りの野犬だな。七武海である俺を、ハナから味方と思ってくれてねェようだが、コイツから情報でも聞いたのか?」
クロコダイルはティオの尻尾を掴んだまま、ゆらゆら振った。
遠心力でさらに頭に血が上るため、気持ち悪くてたまらない。
"ポイ"
「!」
投げられた。
そう思ったときには既に遅く、ティオの体は檻の中に投げ込まれ、重力によって石の床に叩きつけられていた。
"ボンッ!"
「うっ……けほっけほっ」
弾みで変身が解けて人の姿に戻ってしまう。
ナミとウソップが目を見開いた。
「うそっ、鼠が女の子に……」
「悪魔の実の能力者か!? ……って、コイツも海兵かよぉ!」
ウソップはティオの服装を見て、ムンクのような顔をした。
スモーカーはそれを気にすることなく、咳き込むティオの身体を支える。
「てめぇ……クロコダイル」
「スモーカー。テメェとそのガキには、事故死してもらうことにしよう。麦わらって小物海賊相手によく戦ったと、政府には報告しておくさ。何しにこの国へやって来たのか知らねぇが、そのガキは別として、お前はどうせ独断だろ。政府がお前を寄越すはずがねぇ」
ティオは叩きつけられた衝撃で、まだ頭がぼうっとしていた。
会話内容があまり飲み込めない。
そこに、ルフィが横槍を入れた。
「お前がクロコダイルか!」
「あ?」
「おいっ、お前! 勝負しほぉぁ~~」
「だーからぁ! その柵に触るなって!」
ウソップはルフィを海楼石の檻から引っぺがす。
「麦わらのルフィ、よくここまで辿り着いたな。ちゃんと消してやるからもう少し待て。まだ主賓が到着してねぇ。今 俺のパートナーに迎えに行かせてるところだ」
その言葉にロビンの姿を思い浮かべたのを最後に、ティオの意識は途切れた。
数分後。
暇な檻の中で、ルフィとウソップは遊び始めていた。
「サンジのマネ!『肉食ったのお前か~』」
「ぐひゃひゃひゃひゃ!」
下品な笑い声で、ティオは目を覚ます。
ちょうど、ナミがルフィとウソップを殴ったところだった。
「真面目に捕まれ!」
"ゴチンッ!"
「こんな深刻な事態に何でアンタたちは!」
「だぁって出らんねぇんだから暇じゃねぇかよ~」
「出られないから深刻なんじゃないのよ! このまま殺されちゃうかもしれないってのに! ……って、アンタは何で寝てんの!」
"ゴチンッ!"
今度は寝ていたゾロが殴られた。
「……ん、朝か?」
「もう昼よ!」
ティオは身を起こして辺りを見渡す。
「……」
すぐ傍にスモーカーが座っていた。
前方を見据えたまま、ぴくりとも動かない。
「……どう、して?」
「……コイツらを追ってる途中、間抜けな罠に引っ掛かった」
「……」
ティオはしばらくスモーカーを見上げていたが、やがて同じように前を向いた。
「……」
「……」
2人の間に沈黙が降りる。
ティオは膝を抱えて、部屋のあちこちを見渡し始めた。
どうやってこの状況を抜け出そうか考えているのだ。
「クロコダイル!」
ティオの思考は、聞き覚えのある声に遮られた。
その場の全員の視線が、上のフロアへ続く階段に釘付けになる。
「「「ビビ!」」」
麦わら一味は声を揃えて叫んだ。
どうやらロビンに連れてこられたらしい。
クロコダイルが不敵な笑みと共に迎える。
「ようこそアラバスタの王女ビビ。いや、Ms.ウェンズデー。よくぞ我が社の刺客を
「来るわよ! どこまでだって、あなたに死んで欲しいから! ……Mr.0、お前さえこの国に来なければ!」
ビビは武器を構えて、クロコダイルに突っ込んでいく。
しかし、クロコダイルはスナスナの実の能力者。
攻撃は直撃しても、傷一つつくことはなかった。
「……っ」
分かってはいたものの、悔しそうな表情をするビビ。
「座りたまえ」
ビビは近くの椅子に座らされた。
「ちょうど頃合だな。パーティーが始まる時間だ。なぁ、Ms.オールサンデー」
「えぇ。12時を回ったわ。ユートピア作戦が始まる」
「死ぬのはこのくだらねぇ王国さ、Ms.ウェンズデー」
「!?」
「生きとし生けるものは、もがきのたうちまわりながら永遠の闇に吸い込まれる。ユートピア作戦、発動だ」
「いったい、お前はアラバスタに何をするつもりなの!」
「フン……俺が最も軽蔑するタイプの人間を教えてやろうか。国民の幸せとやらを後生大事にする偽善者さ」
「父上を殺す気? お前なんかにできるものか!」
「そう喚くなよ。俺はそんなことするつもりはねぇ。殺す価値もない。コブラには死ぬよりも残酷な屈辱を味わってもらうさ」
その先を聞きたいようで聞きたくない。
ビビは恐怖に顔をひきつらせながらも、怒りを露わにしていた。
「ククッ、王女様がそんな顔するもんじゃないぜ?」
「もう一度訊くわ。ユートピア作戦とはいったい何! 教えなさい!」
「おいおい、今の自分の立場が分かっているのか?」
「質問に答えなさい!」
「勇ましい王女だな。……まぁいい。もう作戦は発動したんだ。教えてやろうじゃねぇか。この国を終わらす計画、ユートピア作戦をな」
クロコダイルは、作戦内容を事細かに語って聞かせた。
まずはMr.2、ボンクレーが国王に化け、偽の軍を引き連れてナノハナへ行き、雨が降らないのは王国が原因であると喋り、火を放つ。
それが反乱軍を焚きつけた頃に、Mr.1とMs.ダブルフィンガーが武器を大量に積み込んだ輸送船を着陸させる。
反乱軍は不足していた武器を手に入れ、期せずしてアルバーナへ侵攻する準備が整ってしまうわけだ。
あとは決まっている。反乱軍も王国軍も、国を守るためにと必死に戦い、内乱によってアラバスタは終わる。
「どうだ、気に入ったかね? 君も途中まで参加していた作戦が今、花開くんだ。耳をすませばアラバスタの唸り声が聞こえてきそうじゃないか。そしてみんなこう思ってる。『アラバスタを守るんだ』と」
「やめてええええええっ!! なんて酷いことを!」
「ククッ、泣かせるじゃねぇか。国を守ろうとする気持ちが、国を滅ぼすんだ」
ビビはとうとう泣き崩れ、クロコダイルはヒステリックに笑い続ける。
すると……
「うがあああああああっ!」
ルフィがいきなり叫び、走り出した。
"ガンッ!"
海楼石の檻に手をかける。
海の力で何度も力が抜けるルフィを見て、スモーカーは近くにいたゾロに訊いた。
「アイツは馬鹿か? 俺の話を聞いてなかったのか」
「馬鹿には違いねぇな。……だが、だからこそウチの船長やってんだ」
ティオはチラリとゾロを見てから、ルフィを見つめた。
あまりに海賊らしからぬその言動を。
「お前は俺がぶっ飛ばす!」
声だけは一丁前に叫んでいても、体はふにゃふにゃと力が抜けている。
クロコダイルはルフィの叫びを完全に無視して、話を続けた。
「思えば、ここまで漕ぎ着けるのにどれだけ手を打ったことか。民衆を煽る破壊工作、国王軍乱用の演技指導……なぜここまでしてこの国を手に入れたいか、分かるか?」
「腐った頭の中なんか分かるものかっ」
「本当に口の悪い王女だな」
「く……っ」
ビビは座っていた椅子ごと床に倒れた。
そのまま這って階段へ向かう。
両手を後ろ手に縛られているため、そうでもしないと動けなかったのだ。
「おいおい、どこへ行く気だ? Ms.ウェンズデー」
「止めるのよ……まだ間に合う! ここから東へ、まっすぐアルバーナへ向かえば! 反乱軍より先にアルバーナへ回り込めば、止められる可能性はあるわ!」
ビビは懸命に身をよじって、階段へと向かった。
「お前の思い通りになんか、絶対にさせるものか!」
クロコダイルはニヒルな笑みを浮かべる。
「奇遇だな、俺たちもちょうどこれからアルバーナへ向かうところさ。一緒に来たければ好きにするがいい。……それとも、コイツらを助けるか?」
言って、懐から何かを取り出す。
「それはっ」
クロコダイルの手中には、鍵。
「この檻の鍵だな! 寄こせ!」
ルフィが叫ぶが、もちろんその要求が聞かれるわけがない。
クロコダイルはその鍵を、床に落とそうとしている。
ビビは鍵を奪い取ろうと、縛られた両手をねじって、何とか縄から抜け出そうとしていた。
……しかしなかなか外れない。
クロコダイルは嫌味な笑みを浮かべたまま、鍵を手放した。
"パシッ"
鍵が床につく直前、ようやくビビの両手を縛っていた縄が解けた。
しかし……
"カッ"
クロコダイルが床をひと蹴りすると、床の一部がぽっかりと開く。
「あぁっ!」
伸ばされたビビの手をすり抜け、鍵は地下へと落ちていった。
「あ……バナナワニが……」
ビビは落胆した様子で、地下へと続く穴を見下ろす。
「バナナワニ?」
ルフィは窓の外を見た。
「うわっ、バナナからワニが生えてるぞ!」
同じ方を見て、ナミとウソップが目を見開く。
「な、何なのよ! あの馬鹿でかいワニ!」
「ここは水の中の部屋だったのか!」
「変なバナナだ」
「馬鹿だなルフィ、よく見ろ。ありゃワニからバナナが生えてんだろ? 変なワニだ」
……こんなときに、よく呑気でいられるものだ。
「……」
ティオはすくっと立ち上がった。
スモーカーが不思議そうに目を向けると……
「とって、くる」
「あ?」
"ボンッ"
「「「 ! 」」」
突然煙が広がった。
その場の全員が目を見開く。
ティオの姿が鳥になったからだ。
初めて見る麦わらの一味には、さぞ不思議な光景に見えただろう。
ティオは床を蹴ったかと思うと、猛スピードで檻の外へ向かって飛んでいった。
「待て! ティオ!」
後ろからスモーカーの声がした。
けれど、今さら止まれない。
止まればクロコダイルの砂に捕らえられる。
ティオは自己最速で檻の隙間を抜け出し、鍵が落とされた穴の中に飛び込んだ。
「おいケムリン! なんだあのチビ! すっげぇな~!」
ルフィが目を輝かせる隣で、ナミは首をかしげる。
「鳥にもなれるの? ……でもそんな、幾つもの動物に変身できる悪魔の実なんてあるのかしら……」
「この際何でもいいだろ! 頼むぞチビ助!」
ウソップの願いが聞こえているのかいないのか、ティオは鍵めがけて穴の中を一直線に降下していった。
そしてバナナワニの口先にピンポイントで到着し、鍵をくわえる。
あとは上昇するだけ……
……のはずだったが、
「!」
上を見上げたときにはもう遅かった。
目の前に見えたのはワニの口の中。
「……」
迫ってくる大きな口。
……普通の人間なら、何とか逃げようと抵抗する。
けれど、ティオという人間は、あっさりと諦めて目を閉じていた……
「おい、チビ!」
遠くでルフィの声が聞こえたのが最後。
"ガチンッ!"
―――ティオは檻の鍵と一緒に、バナナワニの胃袋へと滑り込んでいった。