夢主たちの名前を決めて下さい。
第七巻
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「おーい新人、ここ間違ってるぞ。あと こっちも」
「あ、はい! すみません! ……うわっ、また茄子の書いたところ……」
「どうも そっちの三本角は細かいことが苦手らしいな。お前がしっかり確認してからこっちに寄越してくれるか? 二度手間になっちまう」
「は、はい! すみません!」
ある日の昼前。
経理課で研修中の唐瓜は、先輩から赤印だらけの書類を差し戻された。
ガックシと肩を落として、経理課の端の事務机まで戻ると、茄子が鼻歌を歌いながら書類を書いている。
自分は怒られたというのに、呑気に仕事を続けている茄子に、唐瓜はプチっと軽くキレた。
「茄子お前なぁ! もう少し丁寧に真面目にやれよ! 数字のミス1つで十王庁全体に迷惑がかかるんだぞ!」
「え? あぁ、ごめんごめん」
「はぁ……こんな調子じゃノルマ終わんねぇよ……」
茄子の分まで自分が見直しながら進めていては、倍の時間が掛かりそうだと、唐瓜は時計を睨む。
すると……
「おーい、阿鼻の改装工事の予算担当してる奴、いるか~?」
経理課の入口で、よく通る女の声が響いた。
唐瓜が振り向けば、一目で分かる露出度の高い女獄卒が目に留まる。
「あ、椿様だ……」
見ていると、担当と思しき女性獄卒が走っていった。
「あの、私ですけれど……何か問題でもございましたか?」
「いーや、問題じゃなくて追加だ」
「い、今からですか!?」
「おう。来月分に上乗せして欲しいからな」
「む、無理ですよ! 本日の17時には最終決定で上に提出しないといけないんですから! 工事費用は予算が莫大ですし、関係各所の承認が必要になります! それを今から取って回るなんて……」
「あぁ、そこはゴリ押すからいい。お前は申請書作って、一覧に追加しといてくれりゃそれでいいから」
何だか嫌な予感がして、女性獄卒の顔が青くなり始める。
「……。……あの、それって、未承認でも一覧に載せるということですか?」
「んー、まぁそうなるな」
「職権乱用じゃないですか! ……この件、鬼灯様はご存知で……?」
「いーや、これから
女性獄卒が泣きそうな目で食い気味に叫ぶと、椿は眉をひそめて片耳に指を突っ込んだ。
「チッ……鬼灯の手ぇ空くのいつになるか分かんねぇんだよ。夕方またここに寄るの面倒くせぇし」
「もう! 椿様! お金の件は面倒くさがらないで下さいと再三申しております! 鬼灯様からも忠告されているはずですよ!?」
以前に椿の言う通りに予算を通して、痛い目を見たことがあるのか、女性獄卒は必死だ。
唐瓜が二人のやり取りをポカンと眺めていると、バフッと頭に何かが乗る。
「こーら新人、研修の身でよそ見とは余裕だな」
振り向けば、先輩獄卒が見下ろしていて、頭の上に書類の束が乗せられていた。
「ひゃっ!? す、すみません!」
「嘘だよ。数字ばっかで そろそろ頭も
「わ、分かりました……」
というわけで。
椿と女性獄卒の予算案の押し付け合いは、研修を見ていた先輩獄卒が仲裁に入って、事なきを得た。
椿は予算案を鬼灯に届けるだけで、あとは唐瓜・茄子が回収するということで、決着になる。
唐瓜は、集中力など前世に置き去りにしてきた茄子を連れ、椿の後をついて裁判の間へ向かった。
「嘘をつくな!」
「嘘じゃねぇよ! 証拠あんのかよ!」
「ここに記録がある!」
近づくにつれ、閻魔大王と亡者の怒号が、交互に響いてくる。
半ば口論のようなそれは、罪を正確に裁きたい地獄側と、罪人にされたくない人間側で、ほぼ必発する日常だ。
……しかし、獄卒になったばかりの新卒たちには、まだまだ慣れない騒音である。
「うわ……今日は一段と白熱してるなぁ……」
「大変だよね~閻魔大王も」
裁判の間に足を踏み入れた唐瓜と茄子は、大量の書類を抱え直し、大股で歩く椿に必死でついていった。
二人の呟きが聞こえていた椿は、大あくびをしてから半目で裁判を見る。
「亡者の六割はあんなもんだ、さっさと慣れろ。…………アイツは確か……殊藤茅乃介か」
恐るべき記憶力で、頭の中にある亡者の一覧と顔認証した椿は、何やら考えたのちに方向を変えた。
後ろを歩いていた唐瓜が立ち止まる。
「え? あの、鬼灯様のところに行くんじゃないんですか?」
鬼灯は裁判の補佐中で、閻魔大王の傍らだ。
「ちっと寄り道してくぞ~。どうせ必要になる」
そう言って、椿が歩いていく先は閻魔殿の宝物庫。
唐瓜は首を傾げながらも、慌てて後を追い、茄子も裁判を眺めながら走ってついていった。