君がため 6

こっそりと休憩の時間にラディッツは皇嵐からの返歌を見て微笑を浮かべた。
(会えるのなら会いたいのだがな)夜の闇に隠れて会いに行きたい。そしてむつみ合い、愛し合いたい。
「っ、情けねぇな」こうやって歌のやり取りはできるのに実際に会えないなんて。
ふっと、皇嵐の部屋の方に目をやるとカルタをしているみたいだ。
楽しくしているな、と微笑ましく見る。

「名無しの君の和歌はとても綺麗ですね…」カルタをしながら女御たちは言い合った。
「えぇ、字も達筆で流れる川のようですわ」
「ここまでのことを書かれるのですからとてもえらい家の方では?」
「そうね」皇嵐も眺めながら答える。するとと、隣にいたチチ…皇嵐のお付はそう言えばと何かを思い出したようにいう。
「義兄(あに)さまがとても綺麗な字を書かれてたな」義兄さま?。そういえばチチは結婚しているのだった。子供もいて金稼ぎのためにと夫と共働きをしている。
「えぇ、和歌も上手くて昔は関白の家柄だったからか風流な方でした」
「そっその人の名前は?」
「たしか…………ラディッツ。姫様の護衛の方だべ」あの??、確かに見た目や役職からしてはわからないが己の甥っ子カリーと仲良かったと聞くし中納言のターレスとも幼なじみだと聞けばわからないこともない。
でもよく見ると落ち着きがあり、姿勢もただずまいも見本のようだ。納得してしまうとこが多々ある。
(もしかして、なんてね。)彼が、この名無しの君なのかと。
「たしかにかの方は武家とは思えないほど綺麗ですからね…」あの夜の蒼混じりの黒髪が美しいこと、と女御たちもいいあう。
「ええ、貴族であればとても目の保養がとてもとても」いまもですが。
「おらの旦那様も言ってました、兄はとても誇りだと」
「……あなたの旦那様は地方の国司よね」家も古くからある名家だ。その娘が言うのだから間違いないのであろう。

その夜中に皇嵐に来た返歌はとても儚くそして芯があるものだった。

風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな
【風が激しいせいで岩にあたって波が砕け散るように、
僕だけが心も粉々に砕けるほど、思い悩んでいます】
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