君がため 1

君がため
※平安時代?パロ
・皇嵐ちゃんが天皇の姪
・兄ちゃんが警護役

「いやぁー、それにしても帝の娘は姪変わらずお美しい…」
「まさに花のようなお方だ…あれこそ百合の花だ」また貴族達の彼女をもてはやす声が聞こえてくる。警固番は何度その声を聞いてきたことか、いやもう数えたくもないなとため息をつく。
(嫌味かよ……)俺だって彼女に会いたくてたまらないのに、とラディッツは悪態を心の中で吐く。訳あって姫…皇嵐を見たことがあるのだ。
彼らの話のとおりまるで花のような可憐さと美しさを持つお方だった。近くにいるだけであたりを潤すようなそんな雰囲気を持った不思議な人だ。
(たしかにあれは女神と言っても過言ではないな)赤い宝玉のような瞳に白魚のような肌、黒羽烏のようなあでやかな黒髪。まさに神の造形物と言ってもいいような人。
自分もあの貴族達のように心を奪われ見とれていた。だが……自分は警固番、下手なものより身分は高く幸い彼女の見守り隊になれたとはいえ差がある。一目見れたらいいほうだ。
「世知辛い世の中だな…」生殺しもいいとこだ。ふっと中を見ると御格子や簾ごしに彼女の顔が見れる。相変わらず綺麗で悲しい色の顔だ。
(俺が出してやりたい……)この、辛そうな箱の中から。でも出せば己は大罪人、かつて関白まで上り詰めた家柄のものとはいえ昔の話。今はただの武士。
会えるはずがない。だけど……いや、少しできる方法はあるか。警固番だからこそ出来ることが。
丑の刻になり、彼女が寝ているすきをついて部屋に音を立てず入る。女房たちも寝ていて彼女ひとりだ。
嗚呼、相変わらず美しく可愛い寝顔だ。このまま連れ去っていきたい…でも今は無理だ。
「ンッ……」可愛い寝息が聞こえてくる、乱れる姿にドキリとするが時間はない。梅の花の扇と和歌が書かれた紙を置く。
「…いつか……」(あなたを貰いに。)頬に口付けをしてラディッツは部屋から出た。

君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
【あなたに会うためならこの命はいらないと考えてました。しかしいざこうしてあなたに会えた今はいつまでも長く生きて、あなたとともにいたいと思うようになりました】
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