君がため 25

屋敷へと牛車で戻っていく、ラディッツはその中一息ついてもたれ掛かる。
さすがは帝……会った時の覇気は相当なものだった、己のことを見定めるように見てきたのは若輩者がどのようなものかと言うのがあるだろう。もうひとつは、あのガイウスの家からきたものがどのようなものかと。
ナエをとおしてカリグラと黒王が実は相当仲が悪かったとは聞いた、なんでも軽くカリグラが喧嘩を売ったとか。
「(帝に喧嘩を売るなんぞどんなものなのだ)」厄介なことをしてくれたものだなとラディッツ個人は思う、仮にも帝。この世界を束ねるものに喧嘩を売るとは。
それほどにカリグラと黒王は政治的意見が合わなかったのか、果ては個人的な私情なのかは分からない。だがひとつ分かるのは、カリグラは黒王と並べれるほどの財力と権威もあったということだ。一介の武辺者が最高な立場となり、はてには世界を掌握するのだからどこのおとぎ話かとおもうほどにだ。
「おごれるものはひさしからず……」ぽつり、とラディッツはある言葉をつぶやく。権威あるものもいずれ滅びる時が来るという言葉だ。
カリグラもそうだ、ある日を境にパタリと姿を消した。人々によっては未だ生きてるだろうというものや、帝のものたちに暗殺されたのではというものもいる。
ラディッツも後者の方が説として正しいのではと思った、だがナエやかつてカリグラとともに務めたものたちは口を揃えて言う。

『それは無い、あの最強がありえない』

その目は狂っている訳でもなかった、真剣に淡々と結果を述べるようにだ。まるでそれが当たり前だと言いたげに彼らは告げる。
己の父親であるバーダックも述べた、それが当然だと。何も彼らが狂っている訳では無いともだ。ただ皆、カリグラというひとりの存在に魅了され尊敬し敬っていたのみなのだ。

「………」

しかしカリグラはある日忽然と姿を消した、国は星は色を失った。だが彼がいなくなってもゆっくりと皆立ち上がり

『どこかにカリグラはいるかもしれない』

そう思い生きていく、カリグラによって生きてきた業の職人たちは特にそうだった。
ラディッツはこの世界に入ってより思ったのだ、己は彼のようになれるのだろうかと。皇嵐のために何でもしたい、だが己は──カリグラのような力はない。新月の君、ただ暗くそこにある存在としてあることしかできないと。

「どうされました?、ラディッツさん」
「……ああ、いや。陛下と会うのはやはり骨が折れるとな」
「それはそうでしょう、あのお方も……カリグラ様のような存在が来るのではないかと畏れられたのですから」

真向かいにいたナエが己のことを心配して声をかけてきた、ラディッツはそれに苦笑しながらこたえるとやはりかというこたえがかえってくる。
黒王は確かに自分のことを警戒していた、無理もないカリグラと同じく成り上がる男なんぞ自分が彼の立場でも警戒してしまうのだから。

「俺はそんなものではないのだがなぁ……、一介の検非違使としてあったものだぞ」
「だからこそでしょう、武辺者が貴族社会に来るそのような噂を聞けばということです」
「異端なるものが来たら、害したくもなるし警戒したくもなるということだろう?」

ナエからのことばにラディッツはこたえながらも頷く、そんなものは武士社会でもあったものだ。よくわかっている。
赤く染まる空、どうやら夕暮れになってきたようだ。

「……もうこのような時刻になるか、はよう屋敷に帰って夕餉を食わなくてはな。新しい和歌集も読みたいぞ」
「……そうですね、火をつけるものも希少なものが多いですから。いやはや、カリグラさまのようにラディッツ様は魔法でつけるとかなされないのですね」
「俺は凡人だ!、あいつみたいにやれ妖だのなんだのと契約してないぞ!!。油ですら希少なものが多いのだからな」

ラディッツのその一般的な感覚、本来の人間の価値観にナエはキョトンとしながら苦笑して笑う。
カリグラであればそんなものを買えばいい、といい油屋に直接押しかけるか魔法で火を灯したりしてたのだろう。そんな彼と長い付き合いがあったせいかラディッツの回答はどこか人間臭く、懐かしくて笑ってしまう。ああこれだ、カリグラにはない価値観そしてどこか不器用で愛らしいところ。ここがラディッツの良いところなのだとわかる。

「っふふふ!、いやなに……っあなたのその価値観とあり方はいいですよ?。カリグラさまとの違いと言いますかその落差でみなさま見れば笑いますよ」
「それは褒めてるのか?、貶してるのか??」
「褒めてますよ……、あなたはそうあればいいのですよ」

ラディッツにしかない人間臭い価値観、そして和歌への精通と武力だけではなく文化への探究心。
これを見て思わぬ違いに笑い、彼ならいいかもしれないと着いていくものも増えるだろう。

「(カリーめ……、それがわかって僕を指名しましたね)」

孫の抜け目のなさには驚きを隠さずにはいられないが、なるほどこれはラディッツの行く末が気になるものだとナエは笑った。

行く末は空もひとつの武蔵野に草の原より出づる月影

訳:どこまでも進んだその先で、視線の行く末には空と地平線がひとつに交わっている。そんな広大な武蔵野の草の原から、月が静かにのぼり出してきたよ。
1/1ページ
スキ