君がため 23
生意気な男だった、いや……天に歯向かうおろかな深淵の化け物だった。
黒王はそうおもい、扇を握りしめる。気に食わぬ、気に食わぬゆえに見なくてはならぬと。
久方ぶりに思い出すは、あの『満月の君』あの赤と黒の色を持つ男のことだった。
己が彼のことについて知るのは彼が未だ武士として働いていた時だ、流鏑馬の姿勢があまりにも現実離れしているほどに美しく周りの女房たちが見惚れていた。
当時幼なかった皇嵐も彼の姿を見て言葉を失っていた。
その場で聴こえるのはみなみなの呼吸のみ、そしてかける黒き馬の音のみだ。
『なんとまぁ……!、美しいことっ』
『ええ、あの方の姿勢……まるで物語の騎士のようですわ』
『……美しい、か』黒王はそう呟いた、たしかに美しいだろう……だが己はあの男の底知れぬ貪欲さ見た目の美しさに隠された毒に警戒をしていた。
カンッッ……!、と的が綺麗にふたつに割れる音がきこえる。カリグラが放った矢が的を割ったのだ。その音が黒王にはこの世界をふたつに割る音に聞こえた、不快にも耳に張り付き残るほどに。
ではなぜこう思うか、それはカリグラが武家から貴族へと成り上がったからだ。それははやかった、さながら鯉が滝をのぼり飛龍へとならんほどに。己がその時見たのは黒の束帯を着こなし、見た目をあからさまにかえたカリグラ……漆黒の双眸から左赤と右黒の地獄の色を携えた瞬間だ。
『帝は……いやはやご健勝のようで』なんだ、何だこの男はとムカデが背中をかけるような感覚が走る。
まるで民のいや、国そのものの因果をまとめたような男がなぜ目の前に謁見しにきてるのか。
『なぜっ……そなたがここにいるっ』
『……己の思う忠勤に励んだ結果とまで、としかありませんな?』あの荒くれ者の婆娑羅が、人を惑わす一輪の曼珠沙華となって舞い戻ってきた、皇嵐は彼の姿に心奪われたかのように顔を鬼灯の実のように赤く染める。
ダメだ、この男は……黒王は瞬時に思った己が可愛がってきた皇嵐の心が奪われてしまうと。
彼と自分の政争はすぐに始まった、だが有力な権威者たちはカリグラの元に行くのが多い。共通して言うことは
『カリグラこそ、この世界を変える存在改革者』
ならば己はなんだ長く国の支配者として神としてある己は。
老害のように言い、隅へとやるなと。あるとき黒王はカリグラとふたりで会い、話した。
『思いあがるなっ!、山猿がッッ!!!
我が世界をそなたのすきにさせぬ!!』
『黒王』
『っ!?』途端、カリグラはふっと目を細めてそのオッドアイを向けてくる。そして口を開き、静かにまるで泉にひとつ落とされる雫のように心に波紋をひろげてきた。
『ここは俺の世界だ』
『かつての権威者は平安に暮らせ』何だこの無礼者は、ここまでのことを言うものがかつて己の世界にいただろうか。
否、はっきりとはいわなかった。まるで民意かのようにカリグラは告げてきた。
『……と、我らが思いお伝えしましたので』そういいカリグラはその純黒の髪を揺らしてさる、さながら激流の滝を上がり龍へとなった黒龍のようだ。
ああこの男は世界を己を飲み込まんとする災いの黒龍だ。
黒王は膝に置いた拳を血が滲むほどに握り、わなわなと震える。
「化け物がっ……!」忌々しい、あの時の血があの男と瓜二つのものが今ここへとあらわんとしているのだから。
我が聞きに 懸けてな言ひそ 刈り薦の
乱れて思ふ 君が直香ぞ
私に聞こえるようにあの方と分かるような話をしないでください。耳にするだけで、刈り薦のように心が乱れて苦しいじゃありませんか。あの人を彷彿とさせて。
黒王はそうおもい、扇を握りしめる。気に食わぬ、気に食わぬゆえに見なくてはならぬと。
久方ぶりに思い出すは、あの『満月の君』あの赤と黒の色を持つ男のことだった。
己が彼のことについて知るのは彼が未だ武士として働いていた時だ、流鏑馬の姿勢があまりにも現実離れしているほどに美しく周りの女房たちが見惚れていた。
当時幼なかった皇嵐も彼の姿を見て言葉を失っていた。
その場で聴こえるのはみなみなの呼吸のみ、そしてかける黒き馬の音のみだ。
『なんとまぁ……!、美しいことっ』
『ええ、あの方の姿勢……まるで物語の騎士のようですわ』
『……美しい、か』黒王はそう呟いた、たしかに美しいだろう……だが己はあの男の底知れぬ貪欲さ見た目の美しさに隠された毒に警戒をしていた。
カンッッ……!、と的が綺麗にふたつに割れる音がきこえる。カリグラが放った矢が的を割ったのだ。その音が黒王にはこの世界をふたつに割る音に聞こえた、不快にも耳に張り付き残るほどに。
ではなぜこう思うか、それはカリグラが武家から貴族へと成り上がったからだ。それははやかった、さながら鯉が滝をのぼり飛龍へとならんほどに。己がその時見たのは黒の束帯を着こなし、見た目をあからさまにかえたカリグラ……漆黒の双眸から左赤と右黒の地獄の色を携えた瞬間だ。
『帝は……いやはやご健勝のようで』なんだ、何だこの男はとムカデが背中をかけるような感覚が走る。
まるで民のいや、国そのものの因果をまとめたような男がなぜ目の前に謁見しにきてるのか。
『なぜっ……そなたがここにいるっ』
『……己の思う忠勤に励んだ結果とまで、としかありませんな?』あの荒くれ者の婆娑羅が、人を惑わす一輪の曼珠沙華となって舞い戻ってきた、皇嵐は彼の姿に心奪われたかのように顔を鬼灯の実のように赤く染める。
ダメだ、この男は……黒王は瞬時に思った己が可愛がってきた皇嵐の心が奪われてしまうと。
彼と自分の政争はすぐに始まった、だが有力な権威者たちはカリグラの元に行くのが多い。共通して言うことは
『カリグラこそ、この世界を変える存在改革者』
ならば己はなんだ長く国の支配者として神としてある己は。
老害のように言い、隅へとやるなと。あるとき黒王はカリグラとふたりで会い、話した。
『思いあがるなっ!、山猿がッッ!!!
我が世界をそなたのすきにさせぬ!!』
『黒王』
『っ!?』途端、カリグラはふっと目を細めてそのオッドアイを向けてくる。そして口を開き、静かにまるで泉にひとつ落とされる雫のように心に波紋をひろげてきた。
『ここは俺の世界だ』
『かつての権威者は平安に暮らせ』何だこの無礼者は、ここまでのことを言うものがかつて己の世界にいただろうか。
否、はっきりとはいわなかった。まるで民意かのようにカリグラは告げてきた。
『……と、我らが思いお伝えしましたので』そういいカリグラはその純黒の髪を揺らしてさる、さながら激流の滝を上がり龍へとなった黒龍のようだ。
ああこの男は世界を己を飲み込まんとする災いの黒龍だ。
黒王は膝に置いた拳を血が滲むほどに握り、わなわなと震える。
「化け物がっ……!」忌々しい、あの時の血があの男と瓜二つのものが今ここへとあらわんとしているのだから。
我が聞きに 懸けてな言ひそ 刈り薦の
乱れて思ふ 君が直香ぞ
私に聞こえるようにあの方と分かるような話をしないでください。耳にするだけで、刈り薦のように心が乱れて苦しいじゃありませんか。あの人を彷彿とさせて。
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