君がため12

※平安パロ
※今回は根菜夫妻とカリグラの話

夜、バーダックは妻のギネに注いでもらいながらも月夜を愛でていた。
ふと己の長男と話していた事を思い出しつつぼーっと月を眺める。
「……」
「あんた、どうしたんだい…今日はやけにほうけるね」
「ラディッツの野郎が、成長したなと」
「ラディッツが?」ギネは久しぶりに聞く長男の名前に驚きつつも、不器用な彼が息子と話していたということにも驚嘆し詰め寄る。
「ラディッツとっ、あのこと話したのかい!?」ずっと心配だった長男、この家を出てからは一切手紙もよこさず向こうで働いていたらしい。
時々上司であるネーマから彼の様子を聞いたりして、やっと知れる程度。夫と息子も部署違いで接することがあまりなかったのだ。バーダックも不器用なせいか、ラディッツに対して積極的に話しかけようとすることは無い。
なのに、まさか今回…話しただと??。
「なっ、ちっ近いぜ!ギネ!!!」
「あの子はっ、あの子は元気だったかい!?」
「ああ元気だったぜ!、オレにっ……口答えするほどには」
「…バーダックに、あんたたちいつもけんかしてたじゃないか」ギネからするとこのふたりはタイプがちがう、いや……似ているせいかよくぶつかるのだ。
バーダックとくらべて、ラディッツの方があまり自己主張というものは無いがいざと言う時は歯向かう男なためよくぶつかる。
なにか修行しろ、と言っても『最低限のはやった、オヤジみたいになるつもりないからいい』と言ってくるのだ。するとバーダックは、息子に拒絶されたことへの悲しみプラス言われた言葉によってゲンコツをしてラディッツはそれにまた売り言葉に買い言葉…というわけになるのだ。
「……」バーダックの反応は怒ってはいるが、どこか嬉しそうで寂しそうだ。酒を飲むスピードが普段よりゆっくりで、味わいつつもラディッツとの口論をふりかえっているのだろう。
「本音で、言ってきたのかい?あの子は」
「ああ」
「……そう、かい」ギネは息子と真正面から話したことがない。他のものたちと比べてギネは我が子のことを直接育てる女ではあったが、ラディッツは自分が話しかけようと無感情に無表情に見てきては突き放してきたのだ。
その度に夫であるバーダックが咎めたりもしたが、ラディッツはその言葉にも知らぬ顔で本を読むことが多くあった。
何を考えてるか分からない子、薄氷のような冷たさともろさを持つ我がこと思っていたが…それでもギネにとっては腹を痛め産んだ子であり心配なのだ。
「伯父上のことを話してきた」唐突にバーダックの口から出てきた言葉にギネはその大きな瞳をぱちくりとさせる。
「義伯父上のこと?、あの…カリグラ様の…」
「……ああ…」義伯父上…カリグラ、ギネにとっては未だ瞳を閉じれば鮮明に思い出せれる行方知らずの男。
己とバーダックの結婚式の時には、遅れながらも来られて祝ってくれた。
『気難しいやつだが、…この甥のことをよろしく頼む』優しく微笑む顔はどこかバーダックとも似ていたが、妖しくギネは天界にいる神のようだと見入ったものだ。
そしてまさか我が子、ラディッツが彼そっくりと生まれるとは知らず勝手に『義伯父上と似てる』となったことも。その事をうっかり祝いに来た彼に言うと、少し驚いたあとケラケラと笑い『きさまの言う通りだ!』と楽しげにされていたことも。
ラディッツは幼い頃片手で数えれるほど出会ったくらいだ、そんな義伯父のことを……ああそうか自分がバーダックとともに聞いたことか。
『伯父上、どうされたんで』
『なに、両親であるお前たちに先ず相談したくてな……ラディッツを俺の養子にしたい』長男を?、家の嫡男でありそれこそ跡目である彼を。ちょうどカカロットが生まれていく日かたったあとにだ。
『バーダックには…、一応軽く話していたが』 『っ、本気ですか?伯父上っ』さすがのバーダックもあの時驚き、母である自分はなぜと問い詰めたものだ。未だ幼いラディッツのことを、養子に?。しかも相手はあのカリグラ。
『喜ばしいことですがッ…ラディッツはあたし達の子でっまだあの子は政界にも慣れてないのですよ!?』
『それは当たり前だ、…これから慣らしていけばいい。2年前、奴に会って確信した…あれは俺の跡目に相応しいとな』
『だがっ、伯父上あいつはオレの息子だ…!。しかも長男だ、確かに他の奴らより賢いが──』
『ひねくれて、俺に言い返せれる度胸…しかも俺に対して全てをよこせとも言ってきた。あのようなやつはそうそういない、…バーダックお前の息子だとはわかっている。失礼を承知でな、だが』
『俺はそんなラディッツを養子にしたいと思った、お前達にも勿論支援はするラディッツの教育もなこの国…いやこの星でも最高のものを与えよう。カカロットにもと言うなら、もちろんそちらにもだ…まあそうだなラディッツの先の進路先とでも思ってくれ。…俺がいる間にやれることをしたいだけだ』
『……少し、考えさせてください』そうバーダックが言って、この時の話は終えた。
あのときのカリグラの顔は何かを決めたようであった、勿論バーダックや自分への気遣いも見受けられはしたがなにかあればラディッツを連れ去っていきそうなそんな強引さも秘めていた。
「…あのお人のね、ラディッツが跡継ぎにという話?」
「そうだ」バーダックは何日か考えた後、伯父カリグラに返事をした。
カリグラはその言葉に安心したような笑みを浮かべて、感謝すると述べていた。やはり自分たちでも教育というものは限界がある、息子がより高みへと行けるならという親心からでもあった。
だが、条件としてバーダックはラディッツがある程度成長するまでと述べた。
『あいつにも考える機会を、変な返事ですみません』
『構わない、それはお前の言う通りだ。俺も仕事が落ち着き次第ラディッツと直接話したい』
「……あのあと伯父上の消息は分からなくなったがな」忽然と姿を消して──、亡くなられたのかとも話は出たが皆それぞれそんなことは無いだろうという雰囲気だ。だが、何処に。
「…そうだよね、バーダックはほんとあのお人の事好きだったからねぇ…」
「ばかいうんじゃねっ、武人として憧れなだけだっ」ああだが今や長男の姿はあの伯父の若い頃を彷彿とさせるようになっていた、大きく自分が見あげなくてはならないほどに。
「…先々どうなるんだろうな」我が子の成長とは、ほんとに目まぐるしいものだ。

世の中に 思ひあれども 子を恋ふる 思ひに勝る 思ひなきかな
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