君がため 11

深夜、皇嵐の寝所近辺をまわり警護をしていた。
さすがに厳粛なところのためか己たち警護役以外は人っ子一人もおらず鳥の鳴き声や虫の鳴き声が響いてくる。
「……さすがに居ないか」夜の冷たい風が心地よく己の髪の毛を揺らす。大伯父のことを思い出すことが多くありすぎて、うっすらと彼の姿を思い出した。
今の今までは父や祖父よりも大柄な身体で、彼岸花が良く似合うお人だったと言うくらいしか覚えていなかったが。
確かに見た赤い瞳と己と似た髪型、自分と違前髪をおろし漆黒や純黒という言葉が合うような髪色を持つお人だったことを。
「……」あの人のような権力や度胸を持てばこの恋の相手の姫のことは手に入るのだろうか、今己にはやりきるという度胸は上手く出てきていない。
やりたいさ、してみたい……でもまだハッキリと顔を見れてもいないのに会話すらできていないのに…男と女としてむしろ1度できたら。ああこうやって考えるから、前に進めずにいるのだろう。
「なにか機会があればな…」そうすれば、彼女の前へと進めるのに。
「よぉ、ラディッツ」フラフラと歩いてると幼い頃カリー、ラディッツと共にいた幼なじみが目の前から現れてきた。褐色のはだに綺麗な黒の髪の毛、父のような癖のあるものだがどこか雰囲気が違い妖しい。
幼馴染ではあるが、歳が少し離れており彼はしっかりしていたためラディッツにとってどこか父代わりのようにおもっていた相手だ。
「ターレスっ、貴様なぜこんな所に」
「カリーの話し相手終えてさ…、ちょうどおまえがこの辺通るんじゃねえかと思ってよ」黒の狩衣に金糸の拵え…、所々にある紫の刺繍がとても彼に似合う。
「ちょうどラディッツに相談したいこともあってよ…、時間あるか?」
「ああ、待ってくれ。すこしそうだんしてくる」ターレスがそういうとはなにか珍しい、と思いラディッツは同じ役のものに声をかける。相手は己たちより身分高い男ターレスだとわかり、礼をして行ってこいとラディッツに声をかけた。
「……ちょうどいい、縁側で少し座って話そうや」
「…わかった」

人気もない縁側に座り、庭の池を眺めつつターレスはラディッツにカリーから聞いたことを話す。
「…あの姫様に恋したんだってな、お前ならやりかねないとは思っていたがよォ……なかなか危険なことをするじゃねえか」
「っそれは分かってる、だが好きになったものは仕方ないだろ!」
「…知ってっか、ラディッツ。いま女房たちの間では名前がない歌人……名無しのキミとして噂されてるんだぜ、おまえが」
「なっ!?」そういえば、皇嵐も己にあの文のことを聞いてきたりしていた……あの時は緊張してどうにかごまかせていたがさすがは女たち噂を産むのが早いというかなんというか。
情報戦ならば最強であることには間違えないだろう。ターレスは自分の反応を見てか、1つ溜息をつき話を続ける。
「周りが見えず猪突猛進するあたりはお前らしいがね…、カリーもそれを聞いてケラケラと笑ってたよ」
「…あいつなら確かに俺のこの状態笑っているだろうな」そもそも和歌を出していたことにも笑って、己に対して皇嵐と結婚すれば?などと言ってきたものだ。
何を冗談言ってるのだか、とながしたがそれはしてみたいものだ。だが今の自分ではどこかの娘と見合いをさせられて結婚させられる、それが今の環境だ。ラディッツ自身も何度か見合い話を母親から持ち出されたが、今はいいと断っている。皇嵐に恋をしてからははっきりと、
『俺は別に好きでもない女としたくない』と申したものだ。 母も母で目ざとくラディッツもしや恋をしてるのかい!?と聞いてきた。もちろん誤魔化してその場を離れたが。
「まぁな、それでだラディッツ相談ってのは今度カリーのやつが歌合をひらくらしい」
「歌合ぇ?、あいつにしては珍しいじゃないか」基本試合など弓矢のものなどやる男が、やけに文化的なものを開催するなと驚く。
歌合…左右の陣にわかれ、お題にあう歌を出し合い競い合うものだ。ネタの引き出しあいというものにもちかく、貴族たちの文化的な遊びとしても代表的だ。
「…それにあの姫様も来るらしいぜ、ラディッツ」びくり、とラディッツはその言葉に反応する。そうかカリーにとって皇嵐は父の妹……叔母なのだ呼ぶことに違和感はない。
だが、だがあの姫が来るのか。しかも幼馴染が主催するところに。しかも己が得意とする和歌の席でだ。
「来るのか?、皇嵐が」
「ああ、あいつがオレに教えてくれた……そこでだお前

方人として出席しねえか?。お前の身分なら出席もできる、その試合のものとしてやれるからよ」ちなみにカリーからの提案だ、とターレスはラディッツに伝える。つまり、つまりだ……唯一自分が堂々と彼女と顔合わせをできるということだ。
ごくり、とラディッツは固唾を飲み込みターレスの言葉に賛成する。
「出る、出るぞ俺は…!」
「では決定だな、オレからカリーに伝えておいてやるよ……試合の時楽しみにしてるぜ」夜空に出る三日月はにこりと弧を描きラディッツを照らした。
「…ついにかなうのだな……」親王が主催する歌合の場、場合によっては己を売れる機会となる。
ふと幼い頃に言われた父の言葉がよぎる、
『おまえは伯父上のとこにいけ』
『跡を継いで、てめえがやるんだ』あのころは父に捨てられたかついにと不貞腐れどうでもいい全てどうでもいいとなっていたものだ。
片手で数えられる程度しか会ったことない男、神格化された絶対なる存在。
「……利用してやるぞ、きさまを」かなうわけない、できるわけないとおもったが今回の機会だ。もう二度と来ないかもしれない、ならば………やってやる。

忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで



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