悪魔の子が生まれた日

『生まれた子は私たちで大事に育てて守りましょう』

そんなことを言いながら未だ腹の中にいる我が子を大事に思い、育てていた。
自分たちの家庭は決して裕福とは言えない、王家に仕えてるとはいえ下っ端もいい所なのが自分たちだ。ただただ平凡に、少しの幸せとともに生きていけたらいい。そこに血を分けた我が子が来たら平和に楽しく暮らせれるだろうと思っていたのだ。

「随分と大きく育つね、ユーリ」
「ええ、ツノン。皆さんびっくりしていたのよ?、こんなにすくすく育つなんてって」
「ああ、だが予定日はまだ先なのだろう」
「そうね、……いつ産まれるのかしら楽しみだわ」

ユーリはそう言いながら臨月のように膨らんだお腹を撫でる。小さくも強い命の音が聞こえてくる、かつてツノンと見たことがある海の波の音のようだ。

「ふふっ、あなたと似て穏やかな子なのかしら」
「キミみたいなどこか勝気な子かもしれないよ?」

ツノンとユーリは互いの額をくっつけ合い、くすくすと笑いながら告げる。どのような子が生まれるのか、それを楽しみにしながらも。
2人はサイヤ人にしては穏やかで落ち着いた性格だった、ユーリの方がどこか勝気だが他の女サイヤ人と比べても穏やかで戦いより狩りを好みとしていた。なのでやる事としても弓矢などを用いて獣たちを狩る、それを調理して後方支援をすることがもっぱら多かった。
ツノンも後方支援の方で気弾で相手を拡散するほうだ。
突っ込んでいく仲間たちをサポートする縁の下の力持ちのような立場にふたりはいた、争いに争いを産むサイヤ人。その中生きていく為にと2人はそのすべを見つけてたがいを支え合っていくうちに惹かれあい結婚したのだ。

「ねえあなた、この子のために産着を作りましょうよ」
「……ああ、それはいいね。いくつか生地になるようなものを見繕って用意してもいいかもしれないよ」
「そうね、私も……近所の方々に聞いてさがすわ」
「頼んだよユーリ、俺も遠征や君たちへの食材を見るついでに辺りを見渡して探してくるよ」

くすり、とふたりは揃って笑い互いに口付け合う。いつか産まれてくる我が子はきっと己たちに似て戦闘能力もそこまで高いというわけではないだろう。
だが、どうにか元気に生きていて欲しいという親心はある。そのための想いを紡いで我が子が使うものに願いを込めたいとツノンとユーリは考えたのだ。
ふたりはどこから見ても我が子の誕生を祝福する優しい両親だった、周辺のサイヤ人たちも

『あの二人の元に生まれるやつは甘ったれたやつが生まれるのではないか?』

そう思い呆れながらも放っておけなくて、どうしようかと手伝った。
二人暮しの入居施設から家族用のものへとうつして引っ越した、近所にいたサイヤ人の老人や若者たちも手伝ってくれた。

「ありがとうございます!、いつもいつも」
「いいのよユーリちゃんはいい子だからねぇ、きっと生まれる子もあんたらに似て少し甘い子供さ」
「な!?、ご婦人それは褒めているのか??」
「さぁーねぇ、ツノン!。あんたはしっかりしなッッ!!!、男だろッ!!」
「ん"!?、そっそれっっいわれるときついですね……」

そんなやり取りをしていれば周りの者たちはたちまち笑い始める、ツノンはどこか気が弱い。素直すぎて優しくて、時折下級の者たちはこの男を守らなくてはと思ってしまう時がある。

「なーんか、ツノンのやつ放っておけねえよな?」
「ひょろっちくて、身長だけ一丁前にあるくせによ」
「ツノン!、おまえ戦闘力が身長にいってんじゃねえの!!??」
「なっ!!??、きっきみたちまでなにをいうんだ!!!」

集落に男たちの高笑いが響き渡る、ユーリのその声にツノンは慌てて言葉をかけるがその仕草が面白くてよりユーリは笑ってしまう。
同時にこの男を選んで良かった、とも思った。サイヤ人なようでサイヤ人らしくない男、心根が素直で綺麗で曇りの無い水晶のような男。

「ううんっ!、ツノン……あなたそれを言うとっふふふっ!!。でもね、おもうの……私たちお互い支え合うように出来てるんじゃないかって」
「ユーリ………」
「凸凹なんかささえあってうめればいいじゃない?、ねえツノン」
「……そう、だね。もしかしたら子育てというものもそういうものなのかもしれないよね、ユーリ」

お願い我が子、早く顔を見せて……お父さんとお母さんはあなたを待ってるわよ。
私たちの宝物、私たちのいちばんの輝きの星。
──だが生まれてきたのは、全ての災厄全ての闇を敷き詰めたような悪魔だった。生まれた瞬間に響くのは赤子の泣き声ではなく産婆の慟哭の悲鳴だ、まるでムカデが耳から入りそのおぞましさから声をあげるしかないような。
ユーリの「きゃあ!!」という甲高い声が響き渡ると同時に壁が割れるような音が響く。

「ユーリッッ!!???」

ツノンはその声と音を聞いて慌てて寝室へとはいる、ギシギシッ!!と床が軋む音が壁を反射して響く。
ツノンがその場で見た光景は驚きのものだった、ゆっくりと彼の形のいい瞳が大きく広がる額から汗が垂れて恐怖から歯がカタカタと鳴り響く。
そこに居たのは紛れもなくサイヤ人の赤子だ、だが髪はどのサイヤ人よりも黒く死神の翼のよう。その大きな黒い瞳は黒金剛石のようだが氷点下のような冷たさをまといツノンを睨みつける。

「ッ!?(これはっ赤ん坊なのか!!??)」

近所で見かけた赤子とは明らかに違う、己たち小鳥から生まれたのはトンビでもなんでもない。
──『カリグラ(悪魔の子)』だ、すでに自我があるように赤子は動く。手を向けて気弾を放ってきた。

「あっあああ……ッ!、ツノンッッ!
!!!」

ユーリのその言葉をかき消すようにツノンは気弾に貫かれ部屋の石壁を貫き外へと出る。
他のサイヤ人たちもツノンが転がり落ちてきたことに驚き、身体を支えた。

「だっ誰か!、このっっ赤ん坊を抑えておくれッッ!!!」

目を貫かれ片腕をひしゃがれた産婆はそういう、男たちは頷きツノンを他の女サイヤ人に頼み赤ん坊の元へとかける。
だがこの赤ん坊のテリトリーに入った途端体が砕けるような痛みが走る、あのサイヤ人が下級とはいえ頑丈なものたちが次から次へと落ちていく。その中堪えた若い男のサイヤ人はどうにか暴れる赤ん坊を抑えるがくるりと回転し顎へと一撃を喰らわせてきた。

「ぐぅ!?」

情けない声とともに骨がおれるような音が響き渡る、周りの者たちはひたすら他のサイヤ人を呼びどうにか抑えつけようとしたが全て返り討ちにあっていた。
一体どれだけのものが殺されかけたのだろうか、否死んだものたちもなかにはいたようだ。
ツノンとユーリの新居は廃墟のようにボロボロになり見る目もない。赤ん坊は暴れてスッキリしたと言いたげにすやすやと丸まり寝ていた。己のしっぽを抱え、そのつややかな黒髪を揺らして。
ユーリとツノンは赤ん坊のことを恐ろしくおぞましいように見つめていた、本当にこの子は我々の子供なのだろうかと震え上がる。背筋には未だに氷塊が触れるような感覚がある。
町医者のものが駆けつけて生き残ったものたちを助ける中、ツノンは言葉に出してしまった。おぞましい言葉を、それは両親からその子へと贈る始まりの恐怖の言ノ葉を。

「っ……!




カリグラ(悪魔の子)だっ、あの子は……ッッ!!」

カリグラ──、古代の言葉にして『悪魔の子』を意味する言葉。それを我が子へとつけたのだ、祝福でもない言祝ぎでもない恐怖の言葉を。
嗚呼、なぜ我が子はあれほどに恐ろしいのか。我々の死を象徴する存在としてあるようだ。

「名前、ねぇ……」

コントン都でまたまた時の界王神と言い合ったあと、これまたラディッツから何気なく投げられた。
カリグラ、という言葉はサイヤ人の言葉でもなかったはずだと。

「ああ、お前のってめずらしいよなと。ハーフでもないのに」
「余計な一言がある気がしたが、今回は無視してやる」

一般論として名前とは親から子へと贈る始まりの祝福として扱われている、サイヤ人の中でも最低限のものとして名前は扱われていた。
ラディッツのなかで『カリグラ』という言葉はやはり聞いたことがない、もしかしたら王子やナッパなどは何かしら古い歴史の学術として知ってるかもしれない。
だがラディッツはカリグラ本人に聞いたかった、彼の事だから。

「その、意味とかあるのか?。ファミリーネームのガイウス繋がりか??」
「さぁな、知らん。……余りいい意味ではないがな」
「良い意味ではないと?」

どういう事だ、とラディッツはカリグラに問い詰める。改名したとかであろうかと気になったからだ。

「改名なんぞしてない、たかだか記号に関心いや興味はないからな。……俺の名前カリグラは、カリギュラのやつのとこでは『小さい軍靴』と言うらしい」
「ああ言ってたな、幼い頃履いててマスコットみたいなやつだったからと。それで?」
「……サイヤ人言語、古代では悪魔の子だ。"カリグラ"はな」

ラディッツはその言葉にどう言えばいいかわからず冷や汗を垂らし小さくすまないっという。
聞いてはいけなかったかもしれないと、そうして目をそらすとカリグラはラディッツの反応が面白かったのかふっと笑う。

「なに、そんなもの気にするな。元々サイヤ人は子に対して希薄だ」
「……そうだな、1つ学びとして教えてやる。親が子に与えるのは何も祝福だけではない、おぞましい呪いもあるのだとな。それが名という呪に込められただけさ」

カリグラの赤い瞳が冷たくみてくる、ラディッツはそれに心臓を掴まれたような感覚と何処か突き放されたような感覚を覚えてしまった。
思わず手を掴み、彼を見上げる。

「だっ!、だが!!。それはっお前が悪魔的に強くてかっこいいとかじゃないか!?」
「はっ、どうだかな。ああ猫ちゃんは俺のこと好きで好きでたまらないからな?、そいつはどうも」
「なっ!?、はっ話を逸らしていくなーッ!!!!」

ああまただ、カリグラはこうやってするりと風のように抜けていく。追いかけても追いかけても隣に並べれることはない。
親が呪いをかけるなら、こちらは呪(まじな)いをかけてやろう。永遠に解けない愛の言祝ぎを。
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