比翼連理~第15章~

『……時間かかってでも、地面とお前をキスさせてやるぞ黒王』

徒花だった、あの男は。時代に咲く厄災の花、徒花であるはずなのに見るものを魅了する程だった。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花と美しいものを指す言葉があるがあの男はそれ以上であった。
ひとつ指を動かせば万の魔族が動き出す、ひとつ言の葉を紡ぎ出せば億の神がそのものの言葉を聞かんと耳をすませる、ひとつ彼の目が開き先見を見通せば、兆の人種は彼の目の先を見ようとする。
カリグラは、あの覚めない悪夢はまさに全てを魅了する者だった。全てを持ち合わせる圧倒的な男、同時に深い深い深海の底よりはるかに暗い深淵を持つ男だった。

『なぜ我から離れるッッ!、アンリ!!』
『……我はカリグラと共に生きると決めたのだ、父よ』

万物の父たる己に闇と悪の遅々たるアンリは歯向かってきた。カリグラにつくと、そのどろりとした双眸は1人の男カリグラに魅了されそして心酔していた。
何故だ、子は父祖に従うものであるはずなのに。なぜあの男はカリグラは、全ての父たる己に歯向かい生み出したアンリを連れ去らおうとするのか。

『カリグラの元にいれば楽しいことがあるからだ。あの男は惰性で生きてきたあなた方とも違う……、父よ我はそなたに背く』
『我は、カリグラと共に彼がつくる覇道を歩むと決めたのだ』
『ふざけるでないッッ!、アンリよ!!!』
『……さらば、我が父よ』

最初に生み出したアンリは歯向かった、カリグラと契約してからやつは変わった。未来というものに希望を持ち、そしてカリグラというユピテル<全知全能>を崇めるようになった。
蛇が人間に知恵を与えたように、アンリはカリグラに人ならざるものの力を与えた。それはカリグラという男の可能性を広げるきっかけに過ぎなかった、じわじわと黒王は己に銀の刃の気配を感じ取っていた。
あの男は、必ず我に牙を剥くと。だから使った、皇嵐とやつの恋路を利用して封印してみせた。だが忘れられない、離れないカリグラの最後のほほえみを次は必ず噛み殺してやるという顔が。

「カリグラぁ……ッ!!!」

やつを封印してから、離反するものが増えた。特に破壊神ビルスは驚きだ、あなたがカリグラを封印したことを許さないとまでいってきたのだ。

『カリグラがいれば、この世界は変わりましたよ。いい意味でね』
『つまらないものたちが増えないようにはなってたはずなのにね……』

ああ忌々しい!!!、己が生んでやった恩を忘れて文句を言う者共がッッ!!。黒王はそう叫びつつ玉座に爪を立てて潰していく。
あの愚かな男を!、あの愚かな男の魂を持ちまた欠片を持つものも───

「全て滅ぼさなくては気がおさまらぬわッッッ!!!!」

玉座を粉砕し粉々にするほど黒王の怒りの激情は止まらなかった、その中擂牙が大剣を持ちあらわれる。
黒王はその姿に一息つきながらこの男の群青色の長髪を見つめた。

「黒王さま、……お伝えがありきました」
「話せ、擂牙」
「……皇嵐の居場所、見つけました」

その言葉に黒王は目を見開きそしてその美しい花唇を歓喜の色に歪ませる。
白い牙がうっすらと見えて、それは獲物を後ろから噛みつかんとする大蛇のようだ。

「っくははは!!、いよいよかッ!!!。ようやっと見つけたぞ!皇嵐ッッ!!!」

───
水が壁に打ち付けられるような激しい音が響く、ここはカリーの宇宙船の中で訓練室だ。
久しぶりにカリーのとこへと寄ってきたターレスとカリーは、目の前にある光景に冷や汗を垂らす。

「なっなぁ……ラディッツさんよ。少し、手加減してやったらどうだ……?」
「…っターレスの言う通りだぜ、仮にも女の子でよっ4歳のこにすることねえんじゃないか」
「……立て、ラディ。敵はお前を待たんぞ」

普段娘にデレデレなラディッツが、誰よりも冷たく誰よりも絶対零度の目で彼女を見下ろしていたのだ。
数ヶ月前からラディッツはラディに戦闘を教えるようになった、なにかあった時のために生き残るために己が教えられることはそれくらいしかないと言ってだ。特訓の場の相談をされてカリーは宇宙船の訓練室を貸すようにしていた。
娘にあんなに甘いラディッツだ、下手したら腑抜けた教えをするかもしれんとカリーは見に来ていたが全くそんなことはなかった。むしろそこらの……下手すれば王家のエリート戦士への教育より厳しいかもしれないと思わせるほどだ。

「(心做しかラディッツのやつの戦闘力も、……普段より上な気がするんだよな)」

ラディが生まれた時に密かに測った戦闘能力では優に1万超えていた、皇嵐曰く正確な数値はもっと上であろうと話していた。神の力は戦闘力でははかれないからと。
だからラディッツより本来はるかに上で強いはず、だが現実は違った。ラディが後ろから攻撃するものなら片手で押さえつけて、床へと叩き付ける。その手には1ミリも手加減も手心もない。叩きつけられたラディは唾液を吐くが、そこからもラディッツは容赦せず麻痺が込められた気弾を放ち気絶させる。そして今、ラディへと水をかけて起こさせたのだ。

「っがは!、ごっごめんなさい……!!」
「謝る暇があるな、とっとと立てッッ!!!。お前の判断で生死が決まるのだぞ!」
「……俺、あんなにラディッツ厳しく教えたっけ?」
「……多少な、だがラディッツのほうがきびしいきもするぜ」
「やっぱり?、だよねえ(カリグラさまの記憶からか……なんなのか)」

娘にましてや未だ幼い子供にか、とカリーは考えてしまう。そこらの軍事教官よりラディッツのは厳しく恐ろしい、あの巨体から繰り出されるスピードは重く鋭い。
何より蹴り技は的確にラディの体を狙い、サッカーボールのようにしていた。速くて鋭い、さながらそれは哀れな草食獣を天空から狙う大鷲のようだ。
訓練室には未だラディの小さい悲鳴とラディッツの恐ろしい攻撃の音がひびきわたる。ターレスはその隙をついて好奇心からスカウターを起動させてラディッツの戦闘力をはかろうとしていた。

「ん??、……機能しねえな」
「ピピピッという音もならねえな……、充電忘れた?」
「そんなはずないのだがなぁ……」

何故かうんともすんともしない、カリーから貰った最新式のはずだからそんなはずはないのに。
試しに自分に向けてしてみれば的確に起動する、少しした軽い恐怖のものにターレスとカリーは互いを見てこのことはなかったことにしようと話した。

「おいっ……!、ラディッツさんよぉ。そこまでにして置いたらどうだ?」

ターレスは咳き込み始めるラディを見て言葉を告げる、もう数時間は特訓をしている。いい加減体が小さいラディには水分を取らせた方がいいだろう。

「そうだぜー!、皇嵐からも怒られちまうだろ!!」
「……いいや、まだだ」

ぞくり、と二人の背中に氷塊が触れたような寒気が走る。ラディッツの青みがかった黒い瞳のはずのものから、あの赤と黒の地獄の色が一瞬見えたのだ。
『意見をするな』、上座の王からそう告げられたかのように身体が動かない。神精樹の実を食べて強さを積み重ねているはずの己が何も言えない、どういうことかと震えるが言葉がでてこない。

「そこまでになさい、主」

その時だ露草色の髪色と共に、黒髪と毛先が赤い血の運命がそこの空気を彩った。
国重がラディッツの手を掴んだのだ、きっと強く睨みつける。

「(あの山猿が、主の意識に微かに出たか)お嬢様の特訓はもう十分です、これ以上過酷になさるなら……主と言えど俺様が許しませんよ?」
「お嬢様っ……!、大丈夫ですか??」
「……」

国重がそういい、強くラディッツの手を握る。跡がつく程に、ラディッツは冷徹に国重の目を見てため息を着く。

「主様!、いくらなんでもやりすぎますよッッお嬢様もっ脱水起こしかけてるのですから!!」
「……翼さんの仰られる通りです、あなた。お嬢様を死なせたいのですか??」
「随分と感情的だな、お前……。だが確かにやりすぎた、悪いなラディ」
「……んっ、とーと。大丈夫だよっ……わたし、つよくなるからっ」

翼からの水を飲みながらラディは優しく微笑み、こたえる。その顔色は確かに悪いがラディッツを見つめる瞳は皇嵐と似て、慈愛深い。
ゆっくりと水が注ぎ込まれてラディの体も皇嵐の血の力が働き回復していく、カリーとターレスたちもそれを見てほっとしていた。

「翼も、ありがとう」
「いいんですよ!、お嬢様ッ。僕より、国重様の方が凄かったですから」
「お嬢様が危険ですね、といい瞬時にこちらに来られたので!」
「……褒め過ぎですよ。まぁ、えらく主が?お嬢様に力を込めてされてましたからねぇ……そんなにしないでくださいよ。野蛮な獣じゃないでしょう?、主」
「随分と嫌味が炸裂してるな、クソ刀」
「おや失敬、……花のようなお嬢様の傷ついてる姿に少し怒ってるだけですよ」
「……国重、かなり怒ってね?ターレス」
「珍しくな、……おかげでラディッツが落ち着いたようでいいが」

こっぴどく怒られてろ、とターレスも密かにおもいラディへと近づく。大きい怪我は治ったようだがやはり少し、小さい傷がある。

「カリー、救急箱持ってきてくれ」
「ああ!、あと傷口を洗う水も持ってくるわ!!」
「よろしくお願いしますッ!、カリーさん!!」
「……た、タレッ。そんなにしなくていいよ?、ほっておけば治るから!」
「お嬢様ッッ!!、仮にも神の娘がそんな野蛮なこと言うんじゃありません!。あなたさまは主みたいに野蛮な山猿ではないでしょう!?」
「おいクソ刀、俺が悪かったのは認めるがそこまでのこと言うか?。仮にも主にな」
「バーダックのことを言えないほどにはラディに厳しくさせていたからな言われるべきだぜラディッツ。全て国重の言う通りとは言わないが、少しは加減してやったらどうだ」

ターレスはラディッツのその瞳を見ながら告げる、冷たい光を未だ宿しているが先程までのと比べて落ち着いている。
ホットしながら一息を着き改めて見れば、父親として不器用にラディに何かを教えたいだがどこか上手くいかず動揺している新米の父親のような顔をしていた。

「っ、分かっている……!」
「それならいいさ、何も全てお前が抱えなくていいラディッツ。たまにはオレもここに来てやるから……ラディを安心させてやれ」

手のかかる己の幼なじみと幼なじみの娘にしてどこか殺伐とした空気を和らげてくれる優しい娘。
ターレスはその光景にどこか暖かい気持ちを抱きながらも、白銀の髪を揺らし戻ってきたカリーの姿にふっと笑い声をかけた。

「おせぇぞカリー」
「わりぃわりぃ!、傷口を拭くためのタオルも用意していたわ!!」
「おいラディッツ!、ラディへの訓練確かに大事だがやりすぎなんだよッッ!!。今は手当に集中しろよ!」
「っ!?、わっわかってるわ!頭をグリグリするなッ!!!」


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