写真撮影/パネル裏での膝曲げにキュンとしたのはわたしだけの秘密
「演劇部の文化祭公演、最高だったね!」
講堂からの帰り道。
興奮さめやらぬまま、わたしは隣のテルたん♡を見上げて話しかけた。
今日は、大学生になって初めての文化祭。
演劇部が披露した舞台の演目は、偶然にも、1年前のわたしたちと同じ『人魚姫』だった。
1つだけ違っていたのは、脚本が大胆にアレンジされていたこと。
今日の公演は、美しい人魚姫と王子様が結ばれる、大団円で幕を閉じた。
「なんか、去年のことを思い出すな」
「うん。懐かしいね」
あれからもう1年かあ、いろんなことがあったなあ……。
感慨に浸りながら歩いていると、廊下の一角に賑やかな人だかりが出来ていることに気付く。
楽しそうな声に興味をそそられ、みんなの視線の先を辿っていくと。
そこは、いわゆるフォトスポットと呼ばれる場所だった。
“カップル様大歓迎♡”と書かれた看板の先には、美術部が制作したという、人魚姫と王子様の顔はめパネルが置かれている。
……嫌な予感がしたのか、足早にその場を立ち去ろうとするテルたん♡。
その意図に気付いたわたしは、むんずと彼の腕を捕まえた。
「ねえ、テルたん♡。記念に1枚どうかな?」
「……せっかくのお誘いだけど、僕、他に回りたいところがあるんだ。だから今日のところは――」
「後で付き合うから、ちょっとだけ、ね?」
「……っ!」
背の高いテルたん♡をじっと見つめると、彼は分かりやすくそっぽを向いた。
けれど、その耳は赤く染まっている。
……あと一押ししたらなんとかなりそうだ。
めげずに見つめ続けると、上から重いため息が降ってくる。
それは、テルたん♡の降参の合図だった。
胸中でガッツポーズしながら、わたしはテルたん♡の腕を引いて歩き出した。
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「ハァ……見世物じゃあるまいし、なんだあのギャラリーの多さは……」
「おかげで素敵な思い出が増えたよ。テルたん♡本当にありがとう♡」
中庭のベンチに腰かけて、改めて撮影したばかりのツーショットを眺める。
……実は、こうしてテルたん♡とふたりで写真を撮ることは、そこそこ珍しい。
だから、この写真はかなり貴重なものなのだ。
「ねえテルたん♡。これ、携帯の待ち受けにしてもいい?」
「……嫌だ。ゼッタイやめろ」
「心配しなくても、かっこよく写ってるよ」
「いくらかっこよくたって、恥ずかしいものは恥ずかしいんだ」
テルたん♡の頑なな防御に、わたしは素直に引き下がる。……フリをした。
だって、まだチャンスはたくさんある。
テルたん♡との関係は、めげないことが大切なのだ。
「次はラブラブツーショットも撮ろうね?」
「おま……調子に乗んな」
ニヤニヤを抑えきれないまま、テルたん♡をじっと見つめてみる。
テルたん♡はやっぱり分かりやすく目をそらして対抗した。
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