泥田坊と初授業


次の日の朝。豆と佐野に昨日見た動物特集の話をしているとハワイに行ってるはずの泥田が「お前らおはよー」と教室に入ってきた。

「あれ、泥田」
「よぉ!!」
「泥たーん!!!ハワイから帰ってきたの!?」
「おかえり」
「おう!!そんでもって…」

泥田は学校指定のカバンから丸太のような物を取り出した。

「ホレ、約束してた土産のトーテムポールだ!!」
「キャーっ!!!」

空狐はいや、どっから出したよ。どう見てもカバンに入らないサイズだろそれ、と思ったが豆が飛びついて喜んでるので触れないことにした。

「お前らにはマカダミアチョコ…つーか狢その頭どうしたよ…」

「で、泥たんお姉の結婚式どうだった?」

チョコを配りながらにこにこしていた泥田が何となしに聞いた豆の言葉に「結婚式…」と呟いてぷるぷる震えながら俯く。
「ムダに甘ぇっ」と言う狢と玉緒とチョコを食べていた入道がそんな泥田にギョッとしてチョコを食べていた手を止める。

「あれ?なんかマズかった?」
「まぁ…姉ちゃんはスゲェ奇麗だったよ…タダシ新郎ブッ殺ス…!!!」
「わあああ!!義理の兄に何か殺意を抱いてた!!!」

ギリィィィっと血の涙ならぬ泥の涙を流す泥田に豆がドン引きするなか、相手が人間とは初耳の空狐が「ん?人間?」とチョコから顔をあげた。

「あぁ、泥田の姉さん人間と結婚したんよ。一族総出で妖怪ってこと隠してな」
「ふーん…つまり全員眼帯つけて中二病患ってるって思われてるかもしれないと…」

持ったままだったチョコを食べながら親切に教えてくれる入道にその場を想像したのかうぷぷと笑う空狐。そんな彼女に追加のチョコを出していた泥田が「んなわけねーだろ!」と吠え、そのまま入道を睨む。

「つーか言いふらすなよこの顔面凶器!!はっ倒すぞ!!!」
「俺に当たんなよ殴るぞ」
「あ、ゴメン」
「ぶっはっ!瞬殺!!」

入道を睨んどきながら逆に謝る泥田に空狐は腹を抱えて崩れ落ちる。
久々の泥田が相当ツボったのかずっと笑っていて、遂には歌川達が心配して背中を摩ってくれているが治まりそうにない。

「んっとにシスコンだなお前。でも真のシスコンなら姉の幸せを願って祝福してやれよ」
「祝福はしてるけど!姉ちゃんにはもっといい男がいると思うんだ…」
「とか言って誰が相手でも納得しないやつじゃんッ」
「泥たん…」
「だから挙式の途中で抜け出してハワイ観光してたぜ!!」

ぺかーっといい笑顔で親指をたてて笑う泥田にシスコン拗らせてやがるなコイツ…とちょっとしんみりしていた豆は「あっ思ったよりハワイを堪能してるぞコイツ」と呆れ、スンッとした空狐が「いや、式抜ける方が姉に失礼だろーが」と突っ込む。

「もう人間って単語が地雷だわ。人間見つけたら片っ端からこのチョコぶつけてトーテムポールで殴ってやりてぇよ」
「ブフッッ」
「…ってどうしたお前ら」
「はッ…ふッ…な、何でもない…」
「あちゃーのポーズ」

また笑いだした稲荷とあちゃーのポーズをする豆。
しかも運がいいのか悪いのかちょうど話題の人間教師が教室に入って来た。しかも泥田に気がついて近寄ってくる。

「あ、もしかして泥田君?ハワイで式あげたっていう…」
「その言い方だとそこの泥田が式あげたみたいだぞ」
「あ?誰?」
「あっこの人は担任の晴明君!」
「あーんはるあきだよ〜」
「変態さんなんだよ!!」
「やめてよ!!やめてよ!!!!」

豆に丁寧に説明されて何が不満なのか騒ぐ晴明に泥田が新しいチョコの箱を手をする。

「俺は泥田坊の泥田耕太郎、よろしくなせんせー」
「えっと…ちょっと待ってね。泥田坊、泥田坊…あった!へぇ〜田んぼの妖怪なんだ〜」

ペラペラと妖怪事典をめくり解説を読む晴明に泥田がムッとする。

「なんだよ。教師のクセに泥田坊も知らないのかよ」
「ごめん、僕昨日この学校来たばっかりで…妖怪の存在も昨日知ったばっかりなんだ」

その言葉に晴明にもチョコをやろうとした泥田が「は?」と止まる。

「人間なんだ僕」

何も知らずににこにこ自身を指差す晴明。
突然の地雷の登場に固まる泥田。
こいつぁ面白い事が起こるぞとスマホを向ける空狐。

「し…」

し?

「死ねオラァ!!!」
「何が君をそうさせた!!?」

持っていたチョコを箱ごと晴明の顔面に叩きつける泥田に晴明が戸惑いの声をあげた。
さらに置いてあった豆のトーテムポールで殴りつける泥田に豆は佐野の裾を握りながら「俺のトーテムポール…」と悲しそうにしている。

「あいつ…有言実行型だな…」
「ヤバいっ面白すぎるッッ!!!ひぃーッッ」
「空狐ちゃん大丈夫?ずっと笑ってるけど」

笑ってるし、何なら動画撮ってる。
絶対に紅子ちゃんに見せようとゲラゲラ笑いながらもその手をブレさせないで騒動に向け続けるのはもはや執念だった。
空狐には泥田の醜態も晴明の醜態も両方美味しいものなのだからやめられない。



そんなこんなでかくかくしかじか説明中ー

「ええ〜ッ!?そんなの八つ当たりにも程があるよ!!」
「知るかッ!!とにかくテメェは今日から俺の敵だ!!!」

ペッと吐き捨てる泥田に晴明は「そんなあ!!!」と半泣きになる。

初対面の生徒に露骨に嫌われ、しゅんと教卓の下で「なんてこった人生辛すぎる」と落ち込む晴明に焦った豆が「晴明君!!」っとかけ寄り励まそうとする。

「これからの人生もっと辛いことがたくさんあるんだからこんなことでしょげちゃダメだよ!!」

「いいことあるよじゃないんだ」
「それは褒め言葉としてどうだろう…」


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