新学期
時間になっても担任の先生が来ず、クラスメイト達は席を離れ好き勝手に過ごしていた。かく言う空狐も席に荷物だけ置いてがしゃどくろの歌川国子と女郎蜘蛛の蓮浄ユリとのお喋りに華を咲かせており「間違えました!!!」と言う大声とピシャンッッと勢いよく閉められたドアの音でようやく前を見る。
「ん?今誰か入って来たか?」
「さあ…」
入口前で遊んでいたらしい入道と秋雨が閉まったドアを見て首を傾げているのを横目に耳をすませば廊下から学園長と知らん奴の声が聞こえた。さっきの音はこの知らん声の奴がやったのだろう。
パン屋になるとか食べられるとか言ってる奴はどうやら新しい教員らしく、あわあわ言っているのを学園長が早く教室入ってと無情にも放り込もうとしている様だ。
「わーっ!!ちょっと!!」
ついにどんとモップで突き飛ばされるように入ってきた男に玉緒が「あっ」と声を上げた。
「朝来る時絡んだ奴じゃね?」
「あ…ってめぇはさっきの!!」
それに何か思い当たる事があるのか何故かアフロになっていた狢がガタンと勢いよく立ち上がり男を指差す。
「え…えー…っと……ハロー…」
そして男はそれだけ言ってそのまま教卓の下に滑るように引きこもったのだった…
「おい、アイツ40分は教卓の下にいるぞ」
「中で死んでんじゃねーだろうな」
みんな席に戻ったはいいが例の担任らしき教員は全然出てこない。空狐の席は窓際の1番端っこであり、隣の倉橋や前の富士とも友達と言うほど仲がなくないので暇を持て余していた。
仕方なくこの状況を寮にいる紅子ちゃんに送ってみるがゲーム中であろう紅子ちゃんからの返信はなかったのでスマホをしまう。
このまま放課後かと考えていればこの状況に耐えきれなくなったのか舌打ちをした佐野が立ち上がり教卓に近づいていく。
「オイ。取って食いやしねぇから出てきなよ」
そういえば食われるとか言ってたな。
「うん、僕も30分くらい前から出たかったんだけど机に挟まって抜け出せなくなって…」
ガタガタと教卓が鳴り声はするが肝心の担任は出てこない。
「助けて〜引っ張って〜」
「このままじゃ机と一体化してしまう」なんて泣き言を言う情けない担任を哀れに思ったのか珍しく優しい佐野が言う通り掴んで引っ張り出してやった。
「あ…ありがー」
しかしそううまくいかないものである。
「と…」
担任の男は佐野の妖力によって服がッパーンと弾け飛んでパンツと靴下とネクタイだけにされたのだ。
「「「ギャア゛ア゛ア゛ア゛!!」」」
「キャアアアアアア何事!?」
状況を理解するが否や変態!キモい!と罵倒する女子達よりも女子力のある悲鳴をあげながらなんとか手足で身体を隠そうとする担任に佐野に飛び乗った豆が佐野は疫病神なのだと丁寧に説明してあげる。
「でも珍しいね。佐野君妖力は使わない主義なのに…」
「なんかイラっときたモノでつい…勢いで…」
担任は「まさか半裸になるとは思わなかった」と豆を肩に乗せたままハンカチで触れた手を念入りに拭いている佐野に「なんてこった」と絶望した顔をする。
「勢いで半裸にされた上ににぎった手を丹念に拭かれている…」
「ちょっと晴明くん!!」
はるあきと言うらしい半裸の担任は絶望顔の
まま慌てた学園長に連れられ廊下に出て行った。
てかずっと廊下に居たのかあいつ。
じゃあもっと早くに手を貸せよ!
「どうした豆」
「大変だ…!!大人の汚いところを見てしまった…!!」
わざわざ廊下の小窓から覗いていた豆が何かを見たらしい。
そのおかげあってかあのヘタレ担任はしゃんと背筋を伸ばして教室に入って来た。
「…ということで今日からこのクラスの担任になる安倍晴明人間です。よ…よろしくね!!」
チョークで黒板に名前を書いた人間教師の名前にうわぁと声が漏れそうになった。
趣味が悪いにも程がある。
「げぇ〜人間かよー!!」
何も知らずにブーブーブーイングしながら文句を言う狢達に「ブーイングしないで泣いちゃう!!」なんてメソメソしだす人間。
それに「いちいち泣くなよメンドクサイ」と佐野が言い放つ。
珍しく自分から関わったと思ったが豆以外にはやはり冷たいやつだ。
「じゃ…じゃあ出席とるね。」
「のっぺら坊の狢君」
「あ?」
「がしゃどくろの歌川さん」
「はい」
「一つ目小僧の入道君」
「ん」
「えーっと疫病神の…佐野命君」
「…」
「次…泥田坊の泥田耕太郎君」
「泥田くん今日お休みだよ!!」
「わっ!!!」
ひょっこり教卓に近づいた豆が顔を出せば名簿に気を取られていた晴明は飛び上がた。
豆はそんな晴明に泥田の不在理由を教えてやる。
「泥田君お姉がハワイで結婚式あげるから今ハワイにいるよ!!お土産にトーテムポール頼んだの!」
「へぇ…妖怪もハワイのホワイトチャペルで式あげる時代なんだ…教えてくれてありがとう…えーっと…」
「俺、豆狸の狸塚豆吉だよ!!」
「狸塚君ね…で、席に戻って欲し…」
「ねぇ…さっき学園長から何貰ったの?ワイロ?」
豆の言葉にクラスメイト達が騒めく。
「えっ!?違っ…違うよ…ご…誤解だよ」
しかも誤解という割には汗がダラダラと出ていて怪しい。しかも相手はパチンコ好きのあの男だ。正直賄賂とか普通にやりそう。
「あっこれだな!!」
豆が隙を見てサッと教卓の棚から紙袋を取り出すと「とったどー」と走り出す。
「か、返してよ!!!」
「じゃあさ…俺と追いかけっこして遊ぼーよ!!30分後の11時ジャストにチャイムがなるからそれまで俺からコレを取り返してみせてよ!!!」
「そ…そんなぁ…」
「捕まえられなきゃこの袋の中身校内放送で曝してやる!!」
「そ…そんなァ!!!」
「行けー豆ー!!」「やれやれー」と野次馬するクラスメイトたち。
「ちょっと!!!待ってよ!!!」
晴明は豆を追って廊下に飛び出して行った。
豆を追った佐野を含めた3人が戻って来たのは、チャイムがなった30分をゆうに過ぎてからだった。
それぞれ暇つぶしをして待っていた生徒たちが「おっ帰ってきた!」「何々やっぱり賄賂だった?」「金?金?」と興味津々に3人を見る…が
「ううん、セーラー服のカタログだった。コイツの趣味らしい…」
佐野の一言で教室はしーんと静まり返り、生徒達はサササッと窓際に集まる。
「な…なんでバラしたの…?」
「ワイロの誤解解いてやっただろ?それに性癖は人それぞれなんだろ?恥じることァねーよ」
佐野は「な?」なんて言って晴明の肩をポンと叩くがそんなわけがない。
「もはや恥しかねーよ!!!見てよ!!!女の子たちのゴミを見るようなあの目を!!!」
「何言ってんだ。見てるだろゴミを」
「あんまりだ!!!」
「なんだよーっ!!そんなこと言うとお祓いしちゃうぞ!!お祓っちゃうよ!!お祓っちゃうよ!!」
ささっささっと虫のような動きで佐野の周りを回りながらどこから出したのか大麻を振る人間教師に佐野の目は冷えていく。
「…」イラッ
そして遂に苛立ちが限界に達した佐野が晴明の胴を掴んでセイッ!!と後ろに投げた。
「調子にのってゴメンナサイ!!!」
この学校始まっていらい初めてじゃないかだろうか。初日に生徒からジャーマンスープレックス喰らう教師って。
色々と気になることはあるがまずは人違いの可能性を考慮して様子見したほうがいいかもしれないと思う空狐だった。