レッツ・体育祭の準備!
鏡が欲しいとメソメソする空狐を連れたゆりが校庭に出る為に廊下を歩いていると、後ろから「蓮浄さん!ちょっと待って!」と声がかかった。
「あのさぁ俺らもテントなんだけど一緒に行ってもいいかな?」
ゆりが足を止めて後ろを見れば走ってきたのか、少し息が上がっている殿方ー藤平君が頭を片手で掻きながら「い、いやならいいんだけど…」とチラチラと自分の後ろを気にしながら言う。
その後ろには前田君が藤平君の肩を掴んだまま半端諦めたような表情で空狐を見ており、ゆりはそれにつられるようにして自分の腕に縋り付いている友人を見た。
当の空狐は涙目でゆりを見ながら首をブンブンと横に振っている。どうやらこの申し出を断って欲しいようだ。
ゆりは静かに溜め息を吐いた。
いつも身綺麗にしていて、毛並み命とも言える空狐の気持ちもわからないでもないのだが…それよりも、好かれているはずなのにいつまでも進展できない前田君が哀れで、なにより同情する気持ちの方が上回ってしまったのだ。
ゆりは狐耳が出るほどしょげている友人から両手を合わせて無言で拝むように頼み込む藤平君へと視線を戻す。
「構いませんけど」
「ゆ、ゆりちゃん!!?」
「なんでー!?」とあわあわする空狐に引っ付かれたまま歩き出すゆりに藤平君たちは「ありがとう!」と言って2人の少し後ろを付いてくる。
「ゆりちゃんゆりちゃんッどうしてッ」
「貴女はもう少し殿方に慣れたほうがよろしくってよ」
「男がダメなんじゃないんだよぉ!前田くんが近すぎるのがダメなだけで!」
小声で嘆くという器用な事をしながらも「それにさっきアホなところ見られたし…」と情けない声を出す友人にゆりはまた溜め息を吐く。
贅沢悩みだ。ゆりの恋は決して叶わないと言うのに、この子は叶う恋から逃げているようで時々羨ましくなる。
とはいえ、ゆりは自分のしている恋に後悔はない。例え相手にはすでに好きな殿方がいて、自分に振り向いてくれる可能性がなかったとしても、恋しなければよかったとは思えないのだ。
「校庭に出たらその髪の粉を取ってさしあげますわ」
ゆりは空狐の白い髪を一房手に取って言った。このくらいなら外で何度か櫛を通せば粉もあらかた落ちるだろう。
「ですから…そう途方に暮れなくてもよろしくってよ」
「ゆッ…ゆりちゃーん!!」
「なっ歩きにくいですわ!」
「ありがとー!!」なんて笑顔で飛びついてくる空狐を軽くあしらいながら、ゆりはチラリと後ろの2人を見る。
藤平君たちは付かず離れずの距離にいるが話しかけてくるでもなく、どうやってあの子と話すかなんて初歩的なことを話し合っている様だ。
もしかしたらいつもより露骨に逃げられたのが応えているのかもしれないが、そんな奥手でいるからいつまでたってもこの友人を捕まえることができないでいるのだ。
ゆりはフッと笑って前を見るとまた自分の手の一本にしがみついてきたご機嫌な友人を連れて校庭へ向かう。
空狐のことは時々羨ましく思うこともある。
でもなんだかんだ言って、ゆりは懐いてくれるこの子が親しい友人として嫌いではないのだ。例えその始まりが、お互いの打算ありきのスタートだったとしても。
自分に重ねてついつい同情してしまったが、殿方の方に手を貸してあっさりくっつかれてしまっても面白くはない。
なので、彼にはこの子を捕まえるために精々苦労して手こずってしまえば良いと心の中で思うゆりなのだった。
