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皐月祭と天狐


「それで、なんで博多?大阪に行ったんじゃなかったの?」

迎えはいいが場所がなぜか博多で首を傾げる空狐に、佐野がしゃがんでいじけていた晴明のアホ毛を掴んで引っ張り上げる。

「帰りの新幹線間違えたんだよこのバカが」
「申し訳ない…」

そのまま、またメソメソとしだす晴明に空狐は呆れた視線を向けてから溜め息を吐いて背を向ける。大勢で移動するところを人間に見られるわけにはいかないのでとりあえず百鬼学園島に移動することにしたのだ。
空狐は駅の関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開ける。

「はい、さっさと入って。場所は女子寮の前だけど、文句言うなよ男子達」
「全く、散々な目に遭った」
「ありがとう空狐ちゃん!」
「俺たち紅子と佐野の分の往復賃しか持ってなかったから本当どうしようかと!」
「悪いな稲荷」

ぞろぞろと順番に入っていき最後、晴明が入ると空狐も入って扉を閉めた。
出た場所は女子寮がすぐ見える民家の勝手口だったが、幸いな事に辺りには誰もいない。

「これって…学園長の…」

生徒たちが歩きながら今日の話をして盛り上がっている中、晴明が閉まった扉を見て呟く。

「そうだ。だが奴だけの御業ではない」
「ウワァ!いっ稲荷さんいつの間に…」

話の輪から外れ、いつのまにか晴明の背後に立っていた空狐にビャッと飛び跳ねた晴明はバクバクと脈打つ心臓を押さえながら距離を取る。夜のせいか、空狐の白い髪がぼんやりと光っている様に見えるのがオバケっぽくて怖かった。

「なぁ人の子よ。お前、家の隣が神社と聞いた」

「聞けば、名は違えど祭りも同じ日とな」と怪しく笑う空狐に「えーっと」と晴明の顔が引き攣る。まさか実家が神社だとばれたのではないかと誤魔化す方法を考えていたのだ。というよりも、いつもの空狐と雰囲気が違くてビビったともいう。

「しかしなぁ…お前からは神の加護が全く感じられん…さては空神社か?はたまたお前だけが嫌われているのか…」

一歩一歩近づいてくる空狐。気がつけば彼女の頭から狐の耳が、背後からは2本の白くふさふさの筆の様な尾がゆらゆらと揺れているのが見える。
晴明はそれに"そう言えば稲荷さんって狐の妖怪なんだっけ"と、いつかの身体想定で見た狐の姿を思い出した。
いつのまにか青白い狐火が晴明の周りを取り囲んでいる。

「人の子。貴様…」

空狐が晴明に片手を伸ばしながら何かを続けようとしたその時、背後から空狐を探す紅子の声が聞こえた。
それと同時に空狐はシュルリと耳も尻尾も戻して狐火も消すとクルリと晴明に背を向ける。

「お前のその退魔の力、間違っても使おうものなら食い殺してやるでな。夢々忘れるな、私はお前の真名を握っているのだから…」

空狐はそれだけ言って「べーにこちゃーん!」と声のした方に走っていった。
向こうでは紅子の「どこ行ってたんだお前。佐野たちもう帰ったぞ」という呆れた声と「ごめーん…そうだ!美味しい桃が手に入ったから紅ちゃんにあげようと思って!」といつもの調子で話す空狐が連れ立って女子寮に入っていくのが見えた。
晴明はズルズルとその場に座り込むと「こ、怖かった…」と身震いする。

「稲荷さんすごい怒ってたなぁ。それに退魔の力の事やっぱり知ってるみたいだし…」
「晴明君!」

晴明がポツンと1人反省会をしているとゆらりと空間が歪み慌てた様子の学園長が飛び出してきた。しかし1人で座り込んでいる晴明を見るとスンと平然を装う。

「おや、晴明君1人ですか…てっきり焼肉にでもされているものかと」
「僕焼肉にされるとこだったの!?」
「いえいえいいんです。無事ならそれはそれで…」

学園長はチラリと女子寮を見ると未だ座り込んでいる晴明の腕を掴んで引っ張りあげる。

「ほら、特別に職員寮に送ってあげますからさっさと立って下さい」
「こ、腰抜けちゃって…」
「まったく、しょうがない子ですね…」

学園長はそう言うと晴明の襟首を掴んで引きずる。
てっきり運んでくれるものかと思っていた晴明はその扱いに「あーん!皆もっと僕に優しくしてよ〜」と泣き言をあげながら学園長が作った歪みに引きずられていくのだった。


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