いざ初めての実習へ
そうしてクラスの大半が終わった頃、ゼェゼェいっている二人が帰ってきた。
「…で、10キロメートル程全力で鬼ごっこしてきた…」
二人はあの化け物から逃げるデスゲームを一時間ぶっ通しで走り抜いてきたらしい。
ヤバいな。
「ババアは?」
「なんとか木に括り付けて封印した…後、逃げてる途中でさっきの高校生見つけたから一発殴っといた」
あの柄悪い高校生二人まだ近くにいたのか。てっきり家に逃げ帰ってるものだと思ってた。
「とまぁ、この様にたまに妖怪より妖怪みたいな人間も出てくるので、化かす相手は慎重にな」
いや、そうそうねぇよこんな事。
あんなに自信満々にカッコつけていたのに残った無残な結果。笑いすぎて涙でてる入道くんに「どんまい!」と爆笑しながら肩を叩かれて狢は「うるせぇ!!」泣いていた。
「じゃあ次は出席番号1番秋雨とー…」
「可愛い子来い!可愛い子来い!!」と祈り続ける玉緒。欲望に素直すぎる。
「そうだな…じゃあー…」
そんな玉緒のパートナーに選ばれたのは…
「可愛いやろ?」
「せやな」
豆狸の豆だった。
頭の上に豆を乗せた玉緒はパートナーが女子じゃない事に死んだ目で遠くを見ている。
「あ、秋雨君JKが来たよ」
そんな二匹のターゲットは二人の女子高生にするようだ。
「ッシャー!!やるぞ豆!!!」
「テンションよ…」
ターゲットが女子だとわかると途端に元気になる玉緒に豆がドン引きする。
一方その頃
「セセセセーラーだ!!!」
「テンションよ…」
セーラー服にテンションの上がった晴明に抱きつかれながらペシペシと頭を叩かれている秦中もドン引きしながら奇しくも豆と同じことを言っていた。
やる気満々の玉緒は猫になると女子高生の前に立ち塞がりシャーッと威嚇して見せる。
しかし
「キャーッ猫ちゃんだー!!!カワイイ〜ッ♡」
「えーっしっぽ二つある!!凄〜い♡♡」
女子高生二人に撫でぐりされてあっという間に腹見せてゴロニャンしていた。あっけねぇ。
そしてそれを電柱の影から見ていた豆はポンッと狸に戻ると二人と1匹に突っ込んでいく。
「キャーッ狸もいる!!」
「可愛い〜♡」
もはやただモフられてるだけの二匹はこれが実質だと忘れているのだろうか。
「なんか…普通に可愛がられてますね…」
「あの二匹には宿題を追加してやろう…」
青筋を浮かべた秦中によって二匹の追試と宿題が決定したのだった。
「じゃあ次は佐野命…と」
そこで秦中は「そうだ」と笑顔で晴明を見た。
「安倍先生が一緒に付き添ってはどうです?」
「えっ僕ですか?わーい!僕も化かすの?楽しそう!!」
凄いなこいつ。最初あんだけビビってたのにもう順応して楽しんでやがる。
「は!?なんでコイツと!!」
初めは反対していた佐野も秦中が「万が一の時のためだ」と言うと舌打ちをして承諾した。
二人が降りていくと紅子ちゃんが「どうなると思う?」と聞いてくる。その表情はわくわくしていて騒ぎを起こすのを期待しているようだ。
「えー…まぁアホ担任が一緒な時点で何事もなく終わりそうではないけども…」
「また授業にならなかったりしてね」と笑っていれば復活したらしい泥田が「案外晴明の方が上手かったりしてな?佐野の奴驚かすのに適した妖術ってわけでもねぇし」と寄ってきた。
泥田はあわよくば化け物みたいな人間にあってほしいらしいのでどうなるか賭けることにした。
私と紅ちゃんが晴明が騒ぎを起こす、泥田が化け物みたいな人間に会うでジュースを賭ける事にして窓の外を見る。
位置についた二人がターゲットにしたのは犬の散歩をしている男の人。
「佐野君、あの人なんかよさげじゃない?」
「そうだな」
佐野が片手で軽く妖術を発動すると急に機嫌の悪くなった犬のリードに発動して紐が切れた。そしてあの犬の名前は轟というらしい。
飼い主が「あっ轟!!!どこに行く!!」と叫んでいる。
「できたけど地味すぎたな」
「い…嫌、佐野君。そんな事より…轟がこっち来たあああああ!!!」
そうして放たれた轟は何故か晴明だけを凄まじい顔で追いかけ回しはじめたのだ。
それを見た秦中が慌てて降りていった。
「それは俺の妖術じゃねぇよ」
「チクショウ!天性の不幸属性が憎い!!」
「あっオイ、あんまり車道の方へ行くと危ー…」
轟にだけ気を取られていた晴明は口笛吹きながら走っていた自転車にぶつかり撥ねとばされた。
犬に噛まれてチャリに轢かれる。不運すぎないか?
跳ね飛ばされてそのまま宙を舞った晴明はパン屋だったテナントのテントの屋根に逆さまに突き刺さり、丁度その近くを歩いていた女性が血まみれで降ってきた晴明に悲鳴をあげて逃げて行く。それと入れ違いに秦中が追いついた。
「だ…大丈夫ですか安倍先生!!」
「これが大丈夫に見えるならメガネ新調したほうがいいですよ」
「ほら怖がったぞ」
「怖がらせたの僕だけどね!!」
「もっと傷つけない感じで怖がらせたらどうなんだ?」
「傷つかない感じ…」
晴明を屋根から引っこ抜いた秦中がそう言えば佐野がたま妖術を使う。
しかしまぁ上手くいくはずもなく。
「そうそう例えばー…ポルターガイ…」
ッパーン
「スト…」
なんと晴明だけでなく隣にいた秦中までもの服が弾け飛んだ。前から思っていたがなんでネクタイとパンツだけは頑なに無事なんだろうか。
「「!?」」
驚愕する二人、宙を舞う服だったもの。
そして運悪く通りかかる女子高生。
「キャアアアアアア!!!」
「「イヤアアアアア!!!」」
二人な顔を真っ赤にしてなんとか体を隠そうとしているが色々手遅れになっている。て言うか晴明の奴はなんでパンツに真心って書いてあるんだろう。教師のパンツとかミリもいらない情報を知ってしまった。
「おまわりさあああん!!!」と泣きながら逃げていく女子高生を焦った秦中が「おい!ちょっと待て!!!」と追いかけようとするのを青い顔した晴明が「待って秦中先生!!その格好でJ K追いかけないで!!」と慌てて秦中を羽交い締めで押さえつける。
佐野はそんな二人を見て「……まぁ、傷はつかなかったな」と腕組みしてしれっと言った。
「「心と名誉に深い傷をおったわ!!!」」
「まったく…ヒドイ目に遭った…!!今日はこれでお開きだな…!!」
服がなくなったのでイタチに化けたままぷんぷんしている秦中。その横で新しい服を着ている晴明に豆が首を傾げる。
「あれ?晴明君。なんで服持ってきてるの?まさか破れること見越して…」
「そこまでいったら本当に変態だよ僕…」
腕によじ登っていた豆を両手で地面に下ろした晴明は「ホラ、明日からGWでしょ?」と笑う。
「だから今日は僕学校に戻らずこのまま実家に帰省するんだ!だから服も持ってたって訳」
「休み明けに出勤拒否しないでね」
「が…頑張る…」
「では秦中先生。後はよろしくお願いします!僕新幹線の時間なんで」
「うむ、いってら」
「じゃあお土産買ってくるね」
ふりふりと鎌を振る秦中に続き紅子ちゃん達がまるで子供に言うような注意を言う。
「車道に飛び出すんじゃないよ」
「ふざけて川に飛び込むんしゃないよ」
「バカなことしてSNSに書くんじゃないよ!」
うん、心配してるのか馬鹿にしてるのかわからないラインナップだ。
「君らは僕のお母さんか!!!」
「そんな事しないよ!」なんて言いながら早速車道に飛び出してクラクションを鳴らされている晴明。あいつ生きてゴールデンウィークを越せるのだろうか…
そんな怒られてる晴明を見送ったところで紅ちゃん、泥田、豆の三人が顔を寄せ合ってひそひそと悪巧みを始める。今もう夜中だけどある意味ゴールデンタイムだった紅子ちゃんには関係ないらしい。
「おい聞いたか?」
「ああ、晴明のやつ実家に帰るって…」
「おいお前ら、まさか着いて行くとか言わねーだろうな?」
「「「そのまさかに決まっておろう」」」
引いた佐野に聞かれ悪どい笑顔で声をそろえる三人。
どうやら紅子ちゃん達のゴールデンウィークの予定が決まったようだ。
「でも住所知らないじゃん」
「神酒とか知ってそうじゃね?」
「空狐ちゃんはどうするの?」
「いつなら平気?」と聞いてくる豆に「あー」と頭を掻く。ついて行きたいのは山々だけど生憎ゴールデンウィークは予定があるのだ。
「空狐は無理だぞ。実家の神社で祭りがあるからな」
そう、うちの神社は敷地が広いので準備も片付けも丸一日かかる。後祭り当日も一応神として神楽やらなんやら見ないといけなかったりするのだ。
「えー!そっかぁ…じゃあ空狐ちゃんに送ってもらうのは無理だね」
残念そうにする豆。しれっと足にされそうになっててびっくりした。
まぁ担任の家には別に興味ないので紅子ちゃん達だけで是非楽しんできてほしい。
「なんかあったら連絡してね」
「おうよ。晴明の赤っ恥探してくるから待ってろよ」
グッと親指を立てていい笑顔をする紅子ちゃん。
いったい何しに行くつもりなの紅ちゃん…
