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いざ初めての実習へ


GWを直前に控えた金曜日の夜のこと。

夜8時、弐年参組の生徒達は制服姿で吹き抜けの廊下に集まっていた。

「紅子ちゃーん!もう秦中来たよー!ゲーム終わりにして!!」
「まぁまて、後はコイツを倒すだけだ!」
「はぁーかったるいなぁ実習…」
「金曜の夜とか面白いテレビやってんのにな…」
「オイお前ら!さっさと並んで座れ!」
「秦中先生、参組全員揃いました!それで…あのー…」

国子ちゃんたちが点呼をとり秦中に報告する。
今日は秦中の化け学の授業の実習で島の外に出て実際に化かしをする日なのだ。

体育座りした生徒たちの前にクリップボードを持った秦中が立つ。

「今日、お前達には本格的に化かす実践をしてもらう。緊張感を持って心してかかれよ!」

返事するべきなんだろうが生徒たちの困惑した視線は佐野の隣に向いていてシーンとしいてる。

「はい!!心してかかります!!!」

何故がノリノリで生徒に混ざっている人間教師の晴明が居るから。

「いや、阿部先生は化かさないので何もしないで見ててください」





結局、詳しい事は知らないらしい晴明を加えて本州に向かう事になった参組の生徒が秦中に続いて歩き出せば、晴明がふとした様に言う。

「でも本州で授業って、今から船乗って行くんですか?」
「そんなわけあるか。十時間以上かかるぞ」

そう言った秦中はとある空き教室の前で「この教室だ」と立ち止まった。
「普通の教室みたいですけど…」と疑う晴明が扉を開ければそこは教室ではなく廃墟の一室で、扉は本来ならその廃墟の非常口へと繋がる扉だったものに繋がっていたようだ。

「は…廃墟!?」
ギョとする晴明を無視して生徒たちは各々感想を言いながら部屋に入っていく。
そうして秦中は生徒たちが全員部屋に入ったのを見届けると学園に繋がる扉を閉めた。

「うっわ汚い…」
「大丈夫か空狐。マスクがなんかないのか」
「こんな汚いって知ってたら持って来たんだけど…とりあえずハンカチで鼻塞いどく…」

「とまぁ、このようにここはもう学校ではなく本州のとある商店街だ。学園長の妖術で教室と本州にあるこの場所を繋げてあったんだ」

わくわく商店街と書かれた看板の見える壊れた窓を背に言う秦中に、晴明が物珍しそうに窓の外を見ながら「そんな事できるならもっと早く教えてくれればよかったのに。僕初日船で来たよ…」とぶつくさ文句を言う。
しかし呆れた目をした秦中に「言ったらアンタ初日に逃げてたろ」と突っ込まれ「確かに!!」と飛び上がった。
仮にも教師なんだから逃げることに納得するなよ情けないなぁ。


「さて、みんな実践授業は初めてだな?見ての通りここの商店街はシャッター街で人気も少ない。初めての実践には持っていこいの場だ」

秦中が「ところで」と晴明を指差した。

「安倍先生は人間だが化かす対象には不向きだ。何故だかわかるか?」
「そうなの?」

すると佐野に抱っこされていた豆が「はーい!」と元気に手をあげる。

「よし、狸塚」
「お友達がいないから!!!」
「まっまま…っままま狸塚君!!!!」

「ヒェエエエエ」と亡霊の様になりながら悲鳴をあげる晴明を無視した秦中は「半分は正解だな」と頷く。

「ちょっと!!僕が友達いないこと前提で話進めないで!!!」
秦中が「いるのか?」と騒ぐ晴明の方を見もせずに聞けば「いやいないけどさ…」と塩かけた青菜の様にしょげる晴明。
居ないんじゃん。
というか最初の授業で友達居ないって自分で言ってなかったっけ?

豆に続くように「はい!変態だから!」と泥田。
「はい!見てて哀れだから!!」と紅ちゃん。
「はい、不幸がうつるから」と佐野が順に手を挙げて言う。

「ッおーい!!!もはや悪口大会じゃなーかよーい!!!」

完全に舐められている晴明がキャンキャン泣きながら文句を言うが、生徒たちは笑うだけで訂正しようとはしない。
すると流石に可哀想と思ったのか国子ちゃんがおずおずと手をあげた。

「あの…化かしたところで言いふらす相手が居ないからかと…」
「その通り。せっかく化かしたところで噂にされなくては意味がないからな。どうせコイツは化かしたところで一人布団に閉じ籠るのが目に見えてる」

そう秦中にバッサリと言われ「確かに…」とまたしょげる晴明。

「同じ理由で小さすぎる子供もダメだ。軽く流されてしまう。だからと言ってご年配の方や妊婦、あと体調の悪そうな人もダメだぞ!!」
「化かすのも色々気ィ使うんですね」
「そろそろ暑くなるし、テレビで会期特番も始まるだろう!!お前らの功績が再現VTRとしてお茶の間に流されるかもしれないぞ!」

秦中はそう熱弁するが、言うてそこまで興味のない生徒たちはしらーとした目で見ていた。
そんなあまりの生徒のやる気のなさに晴明が「で…でも誰から行きます?」と秦中に声をかける。

「そうだな…まずはー…」

秦中はグルリと生徒たちを見渡してから前に座っていた入道くんと国子ちゃんを指差した。

「クラス委員の歌川と入道、行ってみようか」
「「えっ!」」

「昨年まで授業で習った事を実践すれば上手くいく」と言う秦中と「上手くいく様に念を送るね!!」と言って「キエエエエエエエ」と奇声を上げながら変なポーズをする晴明。
しかしその声援ならぬ念援は「あんたの念はしくじりそうだから止めてくれ…」と嫌そうな顔をした入道くんに却下された。


下に降りて行った二人を見るために窓に寄る者、そのまま座って喋る者と生徒も分かれる。
空狐は紅子と窓枠の外れた窓に近づき下を見下ろした。
入道くん達はかんばんと書かれた看板の裏で人が来るのを待つようだ。
しかも丁度いいタイミングで高校生らしき男が二人通りかかる。

「見るからに治安悪そうなのが来たな。なんて言ってる?」
「えーっとねぇ…金がねぇ彼女捨てたとかクソみたいな事言ってる」
「なるほどクズか」

そう紅子ちゃんと話していれば二人をターゲットに決めたらしく、まずは国子ちゃんがヤンキーの前に現れた。

「あの〜…道をお尋ねしたいのですが…」

可愛い国子ちゃんに尋ねられ、鼻の下を伸ばした男たちはデレデレとしながらあっさりと釣られる。

「何々ドコに行きたいの!?送っていくよ♡」
「本当ですか!?ではー…」

そこで国子ちゃんの上半身が巨大な骨に変わた。

《送って頂けますか?三途の川まで…》

それを唖然として見上げていた男たちは声にならない悲鳴を上げて正気に戻ると悲鳴をあげながら一目散に走り出した。

「ギャアアアアお化け!!誰かイタコを…!!」
「バッカ!!降霊してどうすんだよ!!」

そして後ろを気にしすぎて前を見ていない男たちの前に今度は入道くんが立ち塞がり道を塞ぐ。

「ばあ」
「ギョエエエェェェ!!!」
「あんまり女の子を粗末に扱うと、今度は枕元に出るかもよ〜」

国子ちゃんはともかく入道くんはどうなるかと思ったけど人間にとっては一つ目と言うだけでも割と怖く感じるらしい。
いや、夜中に見たらなんでも怖いのか?

「おお…!!筋がいいな」

秦中が笑顔でクリップボードに二人の記録をつけながら褒めるその隣、同じく下を覗き見していた晴明は「僕、化かす対象として不向きで本当によかった…」と青い顔でビビりながら呟く。
あいつは一度化かされただけでビビって引きこもりになりそうだもんね。

「素晴らしいぞ二人共!!!」
「「イェーイ!!」」

褒められて嬉しそうにハイタッチする二人。しかしそれを快く思わない者が二人いた。
狢と玉緒がブーブーと文句を言っている。

「くそっ入道の奴!持てはやされおって…」
「いーなー俺も歌川ちゃんとハイタッチしてー」
「そんなに言うなら狢。次行ってみようか」
「任せな!!!俺ァあのかっこつけナルシストより上手く化かしてやらぁ!!」
「あ?」

自信満々で言う狢がどうやら二番手になったらしい。パートナー自分で選べるなら紅子ちゃんがいいなぁ。

「じゃあもう一人は…」

チラリと隣をみれば「俺は可愛い子とじゃないとヤダ!!」と両腕でバツ印を作る玉緒。それに呆れた視線を向けた秦中はそのまますいっと視線を流しー…

「じゃあ泥田行ってこい」




さっきと同じく看板の裏、選ばれた泥田と狢がターゲットが来るのを待っていた。

「で、なんで俺…」
「オイ、静かにしろ。向こうから誰か来たぞ」

現れたのはパンチパーマのおばさん。
わくわくマートと書かれたレジ袋を持った大阪にいそうな豹柄の服を着たおばさんに泥田が狢を揶揄う。

「おい狢。あそこにお前の母ちゃんがいんぞ」
「何頭で判断してんだよ!俺の母ちゃんはもっと美人だ」

まぁ元々あいつパーマじゃないしな。て言うか逆になんでいまだにパーマなの?と考えていれば結局おばさんをターゲットに決めたらしい二人がおばさんの前に「すみませーん」とおどりでる。

「「こんばんは〜」」
泥田は体の半分ほどを泥に、狢は顔のパーツを全部消したのっぺら状態でおばさんの反応を見る。
しかし想定と違いおばさんは全く動じるようすがない。

「おやおや」と笑顔のまま言うと手にしていたビニール袋から何かを取り出し…

「セイッ!!」
「べっ!!?」

おばさんは穏やかな顔から一変、急に飛び上がり「メェエエエン!!」と声を荒げながら取り出した何か、タナカの塩と書かれた塩の袋を泥田の頭に叩きつけるようにぶっかけたのだ。
ばあさんの急な奇行に驚いた狢は顔のパーツを戻し、泥田もぺっぺと塩を吐きながら体を泥から戻す。

「何すんだクソババァ!!」
「現れたな悪霊め!!私はただのババアじゃない…さっきどこぞの高校生に雇われた霊媒師のババアさ!!!」

悪霊じゃなくて妖怪だし、それを見抜けない時点で大した実力もなさそうだな…と思っていればババアは大きな2本の斧をどこからともなく取り出した。
おっとヤバくない?相手ガチで殺しに来てるじゃん。

「悪霊め!!滅っしてやる!!!」

「キョエエエエ!!!」とさっきの晴明みたいな奇声を上げながら斧を持った両手をクロスさせたまま猛スピードで追いかけてくるババア。
泥田と狢はそれから逃げる為に「テメーの方が悪霊みたいじゃねーかクソババア!!!」と叫びながらも猛ダッシュで何処かへと走って行ってしまった。
どうすんだこれ。

「セイセー!二人ともどっかに行きましたー」
「まぁ仕方ない。あの二人が戻るまで他のやつをやって待つか。じゃあ次は…」

秦中は気にせず新たな二人組を作り始めたのだった。

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