妖怪学の授業と酒乱の神酒
「ほな、授業始めますえ」
そんな泥田の事はほっといて神酒は教科書を捲る。
「はい、教科書開いて18ページ。「妖怪の種類と近代化に伴う変化」から」
「へぇ〜妖怪に種類とかあるんだ…」
「めっちゃ大雑把に分けると…」
提灯、田んぼ、木綿などの無機物妖怪。
狸、猫、狐などの動物妖怪。
一つ目小僧、ろくろ首、座敷童子などの人型妖怪。
「まぁこんな感じやな」と神酒が黒板に晴明にもわかりやすくするためか生徒たちで図を書く。
「まぁ近年は人間社会の発達によって住み良いよう人型に化けてる子ぉのが多いんやけどね」
神酒の解説を聞いて妖怪学IIの教科書を見ながらふむふむ言っていた晴明が何故か佐野の方を見ながら「フフフ」と笑っている。
さっき玉緒にも笑いかけていたがどうしたあいつ。
すると後ろから晴明の邪念を感じたのか佐野が「後ろからイラッとする視線を送るな」と後ろを見ずにシャーペンをダーツのように投げつけ見事晴明の額に突き刺してみせた。
すごいコントロールについ小さく拍手してしまう。
「で、妖術を使う奴ん中にも色んな種類があるんやけど…中でも1番大変なのは座敷さんや佐野君みたいな特定の動作を挟まず自分の意思一つで妖術を使う意思型やな」
そこで復活した晴明が「はいはーい質問!」と手を上げる。
「何で大変なんですか?」
「そら動作と違てココロは自分でコントロールでけへん時もあるでなぁ…」
「カッとなって思わぬ所で妖術使てしもて大惨事〜いうんも珍しいことやあらへんよ」
ふふ…ものすごく身に覚えがある、と頬杖をついていれば隣の倉橋がチラリと横目で見てきた。
「何?」
「いやっないでもないよ」
目を合わせようとしたら慌ててそらされた。
絶対大惨事ってところで私を思い浮かべただろこいつ。
「僕は狸塚君たちと同じ動作型で、酒を飲んで妖力を得て妖術を出すんよ。ほなちょっと試したろか」と側に置いていたでっかい瓢箪を持ち上げる神酒にみんなが「えっ!!」と立ち上がる。
「いッ!いーよいーよ!!」
「ホラ、俺ら去年見たし…!!」
「え〜!僕見たい!!」
「「「黙ってろ!!そのアホ毛むしり取るぞ!!!」」」
「ひぃ〜!!」
「まぁまぁ少し見せるだけやって」
「あっちょ…!!」
「「ああぁあぁあ!」」
みんなの反対虚しく酒が神酒の口の中へ。
それはもう授業にならないな。
「こうやって酒が妖力の源になって本来の鬼妖怪らしく怪力になったりするんよ例えば」
「こんな風に」
ドッ
神酒が片手で黒板を殴りつけた。
殴られた黒板は砕け、バラバラになった破片が前の席にいる生徒たちに降り注ぐ。
「わかったかクソガキ共!!!」
「わわわわからないよ!!わかってたまるか!!」
先ほどまでの笑顔はどこへやら、般若のような顔を真っ赤にして怒鳴る神酒に顔を青くした晴明がツッコんだ。
晴明もようやく事の重大性が分かったらしい。
「神酒はもの凄い酒乱なんだよ。酒飲まないと妖力使えないくせに…」と豆を連れて後ろに避難していた佐野の背中にいつの間に逃げたのかビビった晴明が張りついて震えている。
おうコラ逃げるな!お前のせいだろなんとかしろよ変態教師!
「昨年も酒が抜けるまで半日暴れて学校半壊されてたんだ」
「よくクビにならなかったね…」
多分、学園長がアイツじゃなければ即クビの教師割といると思うけどねこの学校。
「ダアァアアァ!!!テメェが見学に来た時からなんとなくこうなる気がしてたよ俺は!!」
「じゃかしい!!!授業中やぞ静かにせぇやオラァ!!!ネギでも食ってろ!!」
神酒が頭を抱えていた玉緒をとっ捕まえて何処からか取り出したネギを直線で口から突き刺した。
いや、今どっから出した!?
「猫にネギとは…」
どう見ても喉に達しているネギにプルプルと震えて動けなくなった玉緒を柳田が「飲み込んじゃダメッ」と助けに向かうのを横目に騒動にスマホを向けてる紅子ちゃんを連れて後ろに下がる。
今の神酒の視界には入らないに越した事はない。
「俺、他の先生呼んでくる!!」
玉緒惨状についに立ち上がったクラス委員でもある入道くんがこれ以上は危険だとドアへ走り出す。
しかし
「おいコラ入道ドコ行く気ィや?授業ボイコットは許さへんよ」
ガンッと出入口を足で塞いだ目敏い酔っ払いが今度はいつも間にか持っていたミカンを入道くんの目の前でグシャリと潰した。
大きな一つ目の入道くんは顔面モロに汁を浴びる事となり「ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ア゛ア゛ッ!!!」と転がる。
手軽で酷い目潰しを見た。
「ミカン汁爆撃だ!!!」
「小学生の嫌がらせかよ!」
「俺の目が死んだ!!!」とゴロゴロと転がり悶える入道くんに国子ちゃんが慌てて駆け寄っていくのが見えた。
そして阿鼻叫喚の生徒たちを他所にさらに酒を飲んだ神酒の暴走は止まらない。
「あわわわわわ…僕のクラスの生徒たちがぁ…」
「怖いよ晴明君〜」
「って言うか何でネギやらミカンやら持ってきてんだよ…」
ビビり散らす晴明と晴明に泣きつく豆。
そして暴れる神酒をネットに晒したろとドン引きした顔で撮る紅ちゃん。
結構余裕やね?さすが紅ちゃん…
そして、次の標的を探していた酔っ払いがぐるりとこちらを見た。
「ああ、せやせや。安倍先生もいてはるんやったなぁ〜」
ふらふらとしながら近寄ってくる神酒。
自分で呼んだ癖に存在忘れてたのか…
ついに酔っ払いの毒牙が元凶の元に向いたので豆と紅ちゃんを連れてさっさと離れた。
神酒がビビって固まる晴明にカツアゲするヤンキーの様にガラ悪く絡んでいく。
「ほな、せっかくやし実技も兼ねて見してぇな」
「な…何をです?給料明細?」
「しらばっくれんな!!あんたアレなんやろ?妖怪相手にはー…」神酒が怒鳴りながらそこまで言うと晴明が「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」と急に発狂した。
「言わないで言わないで!言わないで言わないで!!!」
ゴスゴスゴスゴスと高速で神酒に頭突きをする晴明。鬼であり、酒によりブーストしている神酒は額が赤くなる程度だが神酒に頭突きしていた晴明は額から血が吹き出している。
どんだけ強くやってんの?
するとずっと考え事をしていた佐野がハッと、頭突きしていた晴明を羽交い締めして「落ち着け晴明!それだ!!」と叫ぶ。
「どれ?」
そしてごにょごにょと佐野に耳打ちされた晴明は「うん」と真剣な顔で立ち上がる。
「わかったやってみる…佐野君はみんなにバレないように言い訳考えといて」
解放された神酒がよろけながらも「痛いやんけ…」と拳を握る。そんな神酒の前にミジンコほどの勇気を振り絞った晴明が冷や汗をかきながらも立ち塞がった。
「覚悟しろ!秋雨君と入道君の敵め!!」
「「勝手に殺すな!!!」」
スパンっ
しかし瞬殺
立ち向かうも神酒に平手打ちで吹っ飛ばされて、小窓を突き破って廊下の柵まで飛んでった晴明を追って酔っ払いが教室から出ていく。
嵐が去ったな、と思っていればみんな晴明が気になるのか廊下に集まって行く。
紅子ちゃんも見に行くと言うので一緒に顔を出せば廊下にはちょうど通りかかったらしい秦中が神酒を止めようと必死に呼びかけながら引っ張っていた。
「おいバカ!やめろ!!聞いてるのか倫太郎!!」
「ちょ…っちょっと!!ちょちょちょっ!!おおおお落ち…っ落ちるっ!!!」
神酒に両手を掴まれ柵に押さえつけられている晴明は力負けして柵から落っこちそうになっている。
まぁ六階であるここから落ちたら人間の晴明はまず助からないとみていいだろう。
「豆!!マットかなんかに変化できないのか!?」
「俺が一階に行くまでに晴明君が落ちちゃうよ!!」
焦った紅ちゃんが豆をぶんぶんと揺さぶるがダメだとわかると「じゃあ!!」とこっちを見た。
「空狐!飛べ!!そんで晴明を拾え!!」
「え〜…しょうがないなぁ」
正直、乗り気はしないが紅ちゃんが言うなら仕方ない。しかし渋々廊下に出ようとするがまた何かを思いついたらしい佐野の腕に遮られてしまう。
「晴明!!」
「頑張ったら座敷がセーラーの下のズボン脱ぐってよ!!」
「は?」
何言ってんだコイツ。
「なんだって!?」
「こんな時にいらんこと言うな!!」
「いって!」
「そうだ…座敷さんのズボンなしのセーラー姿を見るまでは…」
「死んでたまるか!!!」
カッと目を見開いた晴明の背後に浮かぶ見覚えのある五芒星。
マジか!あいつ退魔の力使えるのかよ!!
咄嗟に紅子ちゃんを抱えて逃げようとするが間に合わない。
と言うか規模がデカすぎた。おそらく学校中の妖怪たちの妖力が祓われただろう。
その後の廊下はまさに死屍累々。神酒も妖力を祓われポカンと座り込んでいる。
そんな時にバタバタと走る足音がして息を切らしたアホその2が「ホラ!!!ちゃんとあったぞ宿題!!!」と満面の笑顔で帰ってきた。
そして廊下の惨状に「なんかあったのか…?」としわくちゃのプリントを握ったまま首を傾げる泥田にそういえばこいつ居なかったなと思い出す。
学校を出ていたので無事だったのだろう。
だがナイスタイミングで帰ってきた!
「泥田!ちょっとこっち来て!」
「な、なぁ稲荷…これ何があったんだよ…」
「んな事はどうでもいいからちょっと紅ちゃん持ってて!」
ずいっと目を回している紅子ちゃんを頭に?浮かべている泥田に渡して教室に入ると机をくっつけて簡単なベッドを作る。
自分や泥田のジャージを引っ張り出してきてひいたそこに紅ちゃんを寝かせて様子を見ているように泥田に言って廊下に出た。
人数多くて全部は無理だなぁ…
とりあえず干物みたいになっちゃってる前田くんを正座してる元凶を枕代わりにして寝かせて、狸に戻っている豆と猫になってる玉緒を無事な佐野に託す。秋辺さんは太田くんのところにやるとして、国子ちゃんとゆりちゃんは入道くんを枕にでもするかな!
あっ国子ちゃん上半身が骨に戻っちゃってる!!えー…しょうがないから国子ちゃんの膝に入道くんを乗せとくか…ゆりちゃんは入道くんと一緒に転がってる狢でも枕にしよう。
そうしてせっせと生徒たちを運んでいれば前田くんの枕になっていた晴明が「あの〜」と控えめに声を上げた。
「何?元凶」
「えっ元凶って僕のこと?じゃなくて!も、もしかして稲荷さん…知ってたり…?」
もじもじと人差し指を合わせながら「あんまり驚いてないみたいだし…」ともごもごと言う晴明。
まぁ十中八九退魔の力のことだろうがこの変態教師が使えるのを知ったのは今さっきだし、過去の事を態々話してやるつもりもない。
「は?何が?て言うか動かないで!前田くんが寝づらそう!」
「ハイ!ごめんなさい!!」
桃山さんに柳田を布団がわりにかけながらビシッと顔を顰めてうなされている前田くんを指差せば晴明は謝りながら前田くんをなんとかしようとあわあわしだす。
でも前田くんの呻き声が酷くなったからポンコツは余計なこと何もしないで!そっとしといて!!
後日、何も覚えていない神酒と元凶の2人は反省中と書かれた板を首から下げ、バケツを持たされ職員室前の廊下に立たされる羽目になるのだった。
もちろん、紅子ちゃんと写真を撮りながら指をさして笑ってやった。
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現在の空狐の脳内割合は紅子ちゃん60%、前田くん30%、残りその他が10%だよ!
つまり今の優先順位は現在前田くんよりも紅子ちゃんの方が上だったりする。
