学園長とお札
「このゴミポンチが二度と人に向かってくしゃみするんじょねーぞ」と佐野に怒られた晴明が「はい、すみません。反省してます。僕はゴミポンチです」と拳骨喰らって正座している頃、空狐は1人で校長室を訪れていた。
ソファーで出されたお茶を一口飲んだ空狐は「で?」と呼び出してきた学園長を横目で口を開く。
「今更あの陰陽師の末裔呼び込むなんて何考えるわけ?」
「蘆屋」
「しかもあいつと同じ名前の文字だ」と悪態をつけば、外した翁の面を片手に持った学園長もとい蘆屋道満がほくそ笑んだ。
その右目は呪いの影響で白く変わってしまっている。
「偶然ですよ偶然。狙ってあなたと彼を揃えたわけではありません」
「どーだか…」
「晴明君は去年教員になり失敗し、一年間引きこもっていたんですよ?」
「まさか教師が初日に学校から逃亡して引きこもるとは、流石の私も想定外ですよ」
え?初日に逃げたの?本当にあの安倍晴明の子孫なの?情けなさすぎない?と考えていれば「私は貴女の心変わりの方が気になりますけどね?稲荷空狐さん」と話題が変わる。
「意外でしたよ。貴女がこの学校にとどまってくださるなんて…」
「さっさと出ていってしまうと思っていましたよ」
それに関しては当初私もそう思ってた。
「まぁね!恋は人を変えるってやつよ!」
蘆屋を喰い殺してやろうと思った事はコイツが死ぬまでは秘密にしておいてやろうと胸を張って言えば溜め息を吐かれた。
失礼な奴め!
「恋ねぇ…あの荒神の稲荷空狐が」
「なにさ!文句あるって言うの?」
まぁお前が文句言ったところで知ったこっちゃないけどね!
「いやまぁ私はありませんけど…相手はただの妖怪。高天原の神々がなんて言うか」
そんなことを吐かす蘆屋の襟を掴んで目を合わせる。
私の前で妖怪を下げるように言うとわらしくない。
「言っておくけど…」
「私はあいつらに指図される事はない。意味わからんルールに縛られて生きる神どもの言うことなんて聞いてやる必要もないしね」
そう言って手を離せば、蘆屋は「そうですか」と言って私から一瞬目を逸らす。
しかし直ぐに笑顔を貼り付けて顔を上げた。
「そんな事よりも私が聞きたいのはその札のことですよ。貴女、勝手に剥がして何かしましたね?たかはし君から報告が入ってますよ」
「ケッあのお喋りめ…」
だから教えたくなかったのにと不貞腐れてば「是非詳しく調べたいから三日ほど貴女を貸してくれって煩くて…」とか恐ろしいことを言い出した。信じられない!!
「ハァ!?絶対にヤダ!!まさか承諾してないだろうな貴様ァ!!!」
「学校を燃やされたくないので許可してませんよ。現に貴女無事でしょう」
それもそうだなと思い直して座る。
しかし話題は変わらない。
「それで?何したんですか」
「別にー?ただちょーっと引っぺがしてアレコレしただけ」
「だから…このアレコレを聞いてるんですよ」
教えないと貴女の身柄を渡しますよとか脅してくる蘆屋の奴に舌打ちをして「使える術に制限かけたりしただけ」と白状する。
別に知られて困る事はないからね。
「制限?その割には頻繁にボヤ騒ぎおこしてますよね?」
コイツ私が火しか使えないと思ってないだろうな?そうでなくても規模ってものがあるだろ。
「この島全体を火の海にした事はないでしょ?て言うか、あの札一つで私を抑え込もうなんて考えが甘いのよ!一週間もすれば札も効力を失ってたわ!」
「えっあの札結構したんですけど…」とショックを受けている蘆屋にどうせ作ったの人間でしょと言って話を続ける。
「今の札は神術も使って作ったものだから効果も一年くらいは持つの。まぁ?流石の私もこの島を滅ぼしたろっとは思ってないし?一応そうならないようにって予防線を貼ったってだけ」
ついカッとなってやっちゃう事が多いから出せる力の出量も大幅に抑るように態々作ったのだ。そのおかげでこの一年何事もなく過ごせている。
それに神術の方もだいぶ制限をかけたので今の私はその辺の妖狐くらいの力量になっている筈だ。
使わない分は池に貯めればいいだけだし、身体に対する負担も確認されていないのだから何の問題はない。
と言うか自ら封印されるなんて褒めて欲しいくらいだわ。
「前田くんや紅子ちゃんも居るしね」と言えば納得はしてないが理解はしたらしい蘆屋が溜め息を吐いた。
溜め息ばかりして失礼なやつめ。
「…まぁとりあえず害がないのならば結構」
そこで話を止めればいいものを「しかしまぁ随分と丸くなったものですね」と続けてくるのだからコイツは性悪なのだ。
「おとなしくしている分には文句ないんでしょ?悪いけど、アンタと昔話する為に来たんじゃないの」
用は済んだので帰ると言って立ち上がり、そのまま帰ろうと取っ手に手にかけた時
「座敷童子の座敷紅子さん」
紅子ちゃんの名前を出され、つい足が止まった。
目線だけで後ろを見れば「ずっと不思議に思っていたんです」と蘆屋は相変わらず貼り付けた笑顔で笑っている。
「随分と肩入れしていらっしゃるようですね?」
その探るような視線に腹が立った。
自分も隠し事をしている分際で人のことを暴こうとするとは…
私はそこまで温厚ではないと言うことを忘れたのか。
「お前が知るべき事は何もないぞ蘆屋の小僧。余計な事はしない方がいい」
「せっかく拾ったその命、失いたくないならな」と吐き捨てて返事も聞かずに部屋を出た。
あーぁ、気分が悪い。
