座敷童子の紅子さん


翌日

「昨日は酷い目にあった…」

結局夜まで誰にも気がついてもらえず放置されていた晴明はしょんぼりと肩を落とす。
まさか女の子に片手で掴まれて窓から投げ飛ばされるとは思わなかったと昨日を振り返りながら教室のドアを開ける。

「そう言えば座敷さん、昨日は行くって言ってくれたけど本当に来てくれるのかな…みんなおはよう!あ…やっぱり来てない…」
「ちょっと、通れないんだけど」
「ざ、座敷さん!!来てくれたんだ!!」

本当に登校してくれた事にぱぁっと一気に明るくなった晴明の表情は「セーラーに赤パーカーもいいね!」と視線を上から下にやると同時に絶望に変わる。

「そ…そんな…スカートの下にズボンなんて…」
「何心霊写真みたいになってんだよ」
「こんな屈辱生まれて初めてだ!!!」
「何言ってんのコイツ」

涙をダバダバ流しながらショックで床に這いつくばる担任の姿に軽蔑の眼差しを向けていた紅子は「あっ」と何かを思い出したかのように今しがた来たばかりの廊下の方を見た。

「座敷さん!!スカートの下にズボンをはくのは校則違反だよ!!」
「うるさいなぁ冷え性なんだよ」

晴明を適当な嘘で軽くあしらいながら道を開ける紅子の視線の先に気がついた豆達はまたあちゃーと言う顔をして廊下から窓までの晴明の直線上から距離を取る。
勿論窓を開けておく事も忘れずに。

晴明はそんな周りの様子に気がつかず紅子のズボンに「セーラーへの冒涜だ!!」と叫びながら手を伸ばし

「こんッッの!!!クソ変態教師がッッ!!!死ねぇえ!!!」

紅子と一緒に登校していた空狐に勢いよく蹴り飛ばされた。
そのまま空いていた窓を通って青空に光る星になった晴明を豆達は敬礼して見送る。
あいつ凝りねぇなと思いながら。






「しんッッじらんない!!!昨日のは紅子ちゃんがからかっただけだって言うから謝ろうと思ってたのに!!!やっぱりまごう事なき変態なんじゃんか!!!」

晴明のランクを最下層の抹殺に変更したらしい空狐が「あのクソお面野郎は何考えてやがるんだ!!!」と学園長にまで牙をむき出すが、その様子に慣れきった紅子は何事もなかったように席に着くとゲームをやり始める。
しかしそれでは困るのは周りにいる豆達だ。

「ほらほら空狐ちゃん落ち着いて?あんまり興奮してるとまた発火しちゃうよー」
「そーだぞお前。去年もそれでキレ散らかして大火事起こしかけたんだから気をつけろよまじで」

空狐は去年もキレすぎて突然発火し、学園を消し炭にしかけた前科があるのだ。

「はぁん!?誰のせいだと思ってやがんだこの泥野郎が!!!」
「すいません…」

まぁ原因は泥田なのだが。


「空狐ちゃん空狐ちゃん!はい!前田くんの写真!」
「ヒュッッッ」

収まらない怒りの炎に油を注がれた空狐は般若のような顔でガルガルしながら泥田の襟を掴んで前後にシェイクしていたが、豆が掲げた一枚の写真を見て目を見開き固まる。
そしてするりと泥田から手を離し、その場に崩れ落ちた。

「びッッくりした!心臓止まるかと思った!!」
「息は止まってたけどね」

「もー!急な摂取は心臓に悪いよー」なんてぷんすこしだす空狐はさっきまでの怒りはどこへ行ったのかすっかり平常時に戻ったようだ。

「まるで猛獣使いだな豆」
「1番いいのは紅子ちゃんがブレーキ役になってくれる事なんだけどね」

「紅子ちゃんってば面白いがってブレーキどころかアクセル踏み抜くからなぁ」なんて言いながら池の鯉に餌をやるように写真を空狐に放り投げた豆を佐野が持ちあげるて褒める。

「つーかどうしたんだよその写真」
「去年前田くんにお願いしたらいっぱい撮らせてくれたんだ!まだまだあるからしばらくは大丈夫だよ!」

トランプのようにずらっと写真の束を広げて見せる豆に泥田は「いや」と後ろを指差す。

「今年は同じクラスに居るじゃねーか生身の前田が」
「でも本物はほら、最終兵器にとっておきたいから効果があるうちは写真の方がいいかなって」

豆の渡した写真の前田にメロメロになってる空狐をそのまま泥田が紅子の隣に椅子を持ってきて座らせる。
これにより写真から意識が戻っても隣の紅子に意識を持っていかれるので怒りの再発が完全に防げる完璧な陣営なのだ。

その後は各々好きな事をして吹っ飛ばされて星になった晴明の帰りを待つのみになったのだが…

「み…みんなぁ…クラス…写真を撮るから…外に並んで…」

ぜぇぜぇいってる晴明が島外の海から這うように戻ってきたのはそれから二時間後の事だった。


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