新学期


新学期。
学園長拗らせ男の口車にまんまとのせられ入学してから一年がたった。
古い顔馴染みの頼みだし仕方ねぇと(決して暇を持て余してて面白そうだと思ったからではない)ほいほいついて行ったのが運の尽きで、ペイっと札一枚で妖力封じられた時は過去一怒り狂ってあのクソ野郎!!食い殺してやる!!って思ってたけど、好きな人や友達ができてからはほんのちょっぴり感謝してやらないこともないと思っている。
まぁ、ほんっとにちょっぴりだけだけどね!ミジンコ1匹ぶんくらい!!

軽く走りながら寮内を進んで座敷と書かれた表札のある部屋のドアを叩く。
適当なリズムをノックで刻む気分はさながらこの前テレビで見たアナ雪のアナだ。

「べーにこちゃん!今日から新学期だよー!今日も学校行かないのー?」

紅子ちゃんはこの学校で初めてできた友達なのだが、去年の冬から引きこもりのゲーマーになってしまったのだ。
まぁ、ゲームが面白いのはとてもよくわかる。私もスマホなるものを初めて手にした時は凄い興奮したし、ゲーム楽しすぎて寝るの忘れた事あるから。
でも学校は別!何が何でも学校には行くって決めてるから!毎日1前田くんを摂取する為には学校は必須ステージなので!

そんな事を考えていればガチャガチャと勝手に付け替えた鍵が開いてガラッと開いたドアから寝起きの紅子ちゃんが顔を出す。

「行かねーよ。世界救うので忙しい」

ぽりぽりとお腹を掻きながら欠伸する紅子ちゃんに持っていたお弁当を渡して隙間から部屋の中をちらりと覗き見た。
またゴミ屋敷になってる!!
紅子ちゃんは可愛いくてゲーム強くて面白い子なのだが、部屋が一週間に一回ペースで片してもすぐ汚くなるのが難点だ。

「紅ちゃん。明日学校終わったら掃除するから洗濯物籠に入れて置いてね」
「わかったわかった。お、いなり寿司入ってる。」
「もう紅ちゃん!ちゃんと座ってお昼に食べるんだよ!じゃあクラスわかったら写真送るからね!」
「おーう。佐野達によろしく言っといてくれ」

手元の弁当に視線を釘付けにしつつひらひらと手を振って部屋に入っていく紅子ちゃんに手を振って鞄を持ち直す。
放っておくとカップ麺ばっかりになる紅子ちゃんに心配して始めたデリバリー弁当だが、紅子ちゃんの幼馴染の泥田には通い妻とか馬鹿にされた事がある。
いや、そもそも紅ちゃんが引きこもりになったのは奴が面白いゲームを与えたからであって紅ちゃんが不健康生活しているのはつまりあいつのせい!!

朝から気分が悪くなったので奴を見かけたら一発ぶん殴ってやろう。
あれ、そう言えば紅子ちゃんがあいつのお姉さんが結婚式するからハワイ行ってるとか言ってた気がする。
悶々と考えているうちに学園についた。さっさと靴を履き替えて張り出されているクラス表を見に行く。





「えーっとクラスは…壱…弍…参…あった!紅子ちゃんも参組だ!写真とって送ろっと!あ!国子ちゃん達もいる!えーすごい!あ、男子には、ひ、じ、たが、いるよっと」

あいつ初日に居ないとはいい度胸してるよなと思いながらタプタプと写真とメッセージを送る。
これは思ったより去年のクラスメイトが居るかしれないともう一度表を見よう顔を上げたら横から覗き込んでいた前田くんと目が合って飛び上がった。

「まっ!!前田くん!?」

人魚の前田くんは空中に浮いながら「おはよう稲荷さん」なんて手をひらひらと振ってくれる。
かっ可愛くて心臓止まるかと思った!!
朝一の前田くんもカッコいいッ!!

「そう言えば今年は同じクラスだな!一年間よろしく」

うっっそだろ!?同じクラス!?アッほんとだ名前ある!!ひゃーッッ大丈夫かな私の心臓!!去年の別のクラスですら胸がいっぱいいっぱいだったのに同じクラスとか死んでしまうんじゃないかなッッ!?
二年生のクラス行事って何かあるんだっけ?いや、なにもなくても同じ空間に居るだけで幸せすぎて無理なんですけどもぉ!!!
パッと思いつくのは体育祭と文化祭だけど前田くん部活あるからなぁ…待って、合法的に前田くんに接客してもらえるチャンスがあるって事?去年は初文化祭にテンション上がって紅子ちゃんと回って終わったけど客として行けば接客という名のファンサしてもらえるって事では?天才か?しかも同クラスなら裏方してるところも見れるのでは!?

「稲荷さん?」

クラス決めたの誰だよ最高すぎる!!ハッ!まさかあいつが?いや、流石にしないか?でもなんだかんだ手段選ばすなところあるしな…

「稲荷さん?おーい!」
「ふぁい!!!」

ぽんぽんと肩を叩かれ自分が弐年参組の教室の前にいる事に気がついた。
いつの間にか移動してるんだけど!?
てか嘘すぎない?せっかく前田くんと一緒だったのに意識飛んでたって事!?もしかして前田くん何か話してた!?なんっにも覚えてない!!!

「大丈夫?もう教室の前だけどそのまま行くとドアに頭打つよ」

うわぁ、優しい…優し過ぎて神隠しされちゃうくらい優しいよ!!まぁ、やった奴は潰すけども!!

「ありがとう前田くん!」

なんとかにっこり笑って弐年参組のドアを開ける。前田くんがそれじゃあと手をひらりと振って友達のところに泳いでいくのを手をブンブン振って見送り黒板に貼られた席順を見に行く。ほーん、いやこれ何順?名前順じゃない事だけはわかるけども…

「あれ?空狐ちゃんだ!今年も同じクラスなんだね!」
「豆に佐野おはよう!」

声をかけてきたのは疫病神の佐野命に抱えられている豆狸の狸塚豆吉。狸の一派だが紅ちゃんの友達でいい奴なのだ。前田くんで頭いっぱいすぎて泥田以外のクラスの男子全然覚えてなかったから二人とも居たんだと思いながら佐野の席に近寄る。

「ご機嫌だね空狐ちゃん。何かいい事あったの?」
「うん!今年はみんなと一緒のクラスで嬉しい!」
「そっか!ところで紅子ちゃんは今日もお休み?」
「そうなの…」

その話は触れないでほしい…しょんもりしてしまう。
仲良い子が居て前田くんがいてさらにここに紅ちゃんが居ればパーフェクトなのにとっても残念…

「ありゃま。しょぼくれちゃった」
「ほっとこう豆。いつもの事だ」
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