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どうもこんにちは! 突然異世界に召喚されたユウです!
あたしは今、退学を免れる為にエースやデュース達とドワーフ鉱山にやって来ている。なんだけど……
「ウォオオオオ~~~~~‼︎!」
後ろからは、大きな怪物の呻き声と足音がやってきていた。
こんな事になるなんて聞いてないんですけどー⁉︎
*****
学園長が去った後、あたし達はすぐに鏡の間へ行き、闇の鏡のおかげであっという間にドワーフ鉱山へ着いた。どうやら、闇の鏡は魂の判別以外にも移動が出来るみたい。魔法の世界って凄い……!
感心しながら歩いていると、小さな家がポツポツと見えた。話を聞こうとしたけど、中には誰もいない。そうして、あたし達はすぐに炭鉱を探しに行った。
トロッコなどの道具があったおかげで、炭鉱は見つかった。けど、今まで歩いてきた所よりずっと暗い。周りにある石のコケや時間帯もあって、不気味さが倍増だ。
「こ、この中に入んの……⁉」
「なに、ビビってんの? だっせー」
エースがあたしの様子をからかう様に笑う。それに少し……いや、かなり腹が立つ。でも、ここでケンカでも始めたら終わりだ。そうならない為にも我慢しないと。
……そう決意して中に入ろうとするけど、短時間で恐怖心は克服できず。
誰が先に入るか全員で譲り合いをして、全員で一斉に入る事になった。
中に入ると、思ったよりも広くて奥行きがあった。石とかも転がっていないし、整備されているのがよく分かる。それでも、暗闇は怖すぎだ。
なかなか前に進めずにいると、フィルが颯爽と歩き始める。それに慌てて追いかけた。
ちなみに、「何で平気なの⁉︎」と訊くと「別に入ったら怖くないでしょ」とケロッと言われた。フィルって意外に度胸あるんだな……。
石がないかよく注意して見ながら進む。けど、やっぱりそう簡単には見つからない。あるのは、どれもただの石コロだけだ。
「ねぇ、フィル。魔法石ってどういう物なの?」
耐えに耐えかねて、ずっと疑問に思っていた事を問いかける。すると、少し間をおいて答えてくれた。
「基本的に、魔法道具の動力源になるから大きい。原石は虹のような七色で、その後に着色して様々な色になる」
着色後の魔法石はあの二人が持っている万年筆にもついている、と言われてじっくりと見る。
2人のペンについている綺麗な赤色の石。これが魔法石なんだ。気付かなかった。
「やっぱり、フィルは物知りだね!」
お礼を言っていると、エースが突然口を挟む。
「つーか、ずっと思ってたんだけどさ……お前、誰?」
その視線の先には、いつもと同じ無表情なフィルがいる。
……ん? あれ、もしかして……もしかしなくても。
「紹介とか、してなかった……っけ⁇」
「してねーよ」
エースの鋭いツッコミがあたしをグサリと抉る。しかも、グリムまで「オレ様も知らねーんだゾ」と言ってきた。
うぅっ。みんなの呆れたような視線が辛い……。
「じゃ、じゃあ気を取り直して……。こっちはフィル。一緒に雑用係をやっているんだ」
適当な紹介をすると、フィルは軽く会釈をして挨拶をした。
それに合わせて、エースやデュースも挨拶をする。……でも。
「……何か?」
「別に、何もねーけど?」
心なしか、フィルとエースの雰囲気がバチバチしているような……。どっちかっていうと、エースが一方的に敵視してる感じだけど。
疑問に思って、声をかけようとした時。デュースが待て、と腕で通せんぼをしてきた。
「どうしたん?」
「なにか……いる!」
そう言ったデュースの視線の先を辿る。何か、フワフワで透明なのが見えるような……?
その時だった。
「ヒーッヒッヒ! 10年ぶりのお客様だあ!」
「ゆっくりしていきなよ。永遠にね!」
青い頭巾を被ったゴーストが現れ、あたしの背筋が凍っていく。そして、考えるより早く絶叫が引きずり出された。
「「ででででたーーーっ‼︎!」」
怖いのはやっぱりグリムも同じで、一緒に飛び上がる。怖がり同士身を寄せ合っていると、デュースが全員を先導しようと一番に駆け出した。その背中を追いかけて走っていると、ふと気づいた。
フィルがいない……⁉︎
一度足を止めて周りを見ると、だいぶ後ろに、息切れをしながらもなんとか追いつこうとして走っているのが見えた。あたしは近くまで走って、フィルに手を伸ばす。
「フィル! こっちだよ‼︎」
大量の汗を流しながら苦しそうな顔をしているフィルは弱々しく手を伸ばす。それをしっかり掴んで、あたし達は走った。
*****
なんとかデュース達に追いついた。後ろを見ると、あんなにしつこく追いかけてきたゴーストの姿はもう見えない。よかった、無事に撒けたんだ。
「フィル、大丈夫?」
逃げる事に夢中であまり気にかけていなかった事に気づいて、フィルに様子を訊く。その本人はやっぱりまだ息を乱しつつも、無事だと答えた。
それにホッと安堵の息を漏らしていると、今度は喧嘩が勃発する。
リーダーシップを発揮して先を急ぐデュースの事が、エースは気に入らないらしい。不満気に過去の事を掘り返してきた。
「大体、お前があんな馬鹿な真似しなきゃこんなことになんなかったのに」
「元はと言えばお前が掃除をさぼったのが原因だろう!」
「それを言ったら、最初にハートの女王の像を燃やしたのはそこの毛玉だぜ!」
「ふな゛っ! オマエがオレ様を馬鹿にしたから悪いんだゾ!」
三人は、まるで近所のクソガキども(9才)みたいに、見事な罪のなすりつけ合いをしている。こう言っちゃなんだけど、本当に同年代⁇ 精神年齢、低すぎない?
「本当にどうしようもないね〜」
フィルの意見を求めようと振り向いた瞬間、あたしは動きが止まってしまった。
何故なら、フィルがとても冷たい顔をしていたから。いや、冷たいとはちょっと違うのかもしれない。軽蔑や呆れ、嫌悪……そういった感情が一切見えないほどの『無』。まるで、この出来事に一切の興味を持っていないような――そんな表情だった。
ちょっと嫌な予感がして、声をかけようとすると「お前たち!」という大声に阻まれた。
「今の状況がわかってるのか? 朝までに魔法石を持って帰れなければ僕たちは退学なんだぞ!」
「だ~から、さっきからいちいち仕切んなよ。ムカつくなあ」
三人の間でバチっと飛ぶ火花。何かやけに不干渉なフィル。どちらか一つでも最悪なのに、二つが組み合わさったら地獄としか言いようがない。
どこにもあたしの味方はいないのか……。そう涙ぐんでいた時だった。
何か音が聞こえてきた。誰かが呻いているような声。でも、それにしてはだいぶ音が低いような……。
さっきとは違って確信にも近い予感がして、逃げてきた方向を見つめる。そんなあたしの様子を察して、エースたちも言い争いを止めて同じ方向見つめた。
「こ、この声……は?」
「なんか……だんだん近付いて……」
「ま、またゴーストか?」
心臓の鼓動がドクドクと早くなる。鳥肌が立ち、ここに来た時にも感じた恐怖が湧き上がる。もう、そこまで近づいている。
その瞬間だった。
「イジハ…………オデノモノダアアアアアオオオオオオ‼︎‼︎」
「「「「出たあああああ‼︎!」」」」
ここで全ては冒頭に戻る。
「なんだあのヤバイの⁉︎」
「ぶなああああ‼︎ あ、あんなの居るなんて聞いてねーんだゾ‼︎」
「めっちゃエグい!」
どうやら、三人も混乱しているみたいだ。あんなに険悪な雰囲気が一転してるんだから、間違いない!
角をいくつか曲がってからチラチラ後ろを振り返る。あの怪物はまだこっちに追いついてない。なら、このまま逃げ切ろう。三人には悪いけど、命の方が大事だし!
「そういえばアイツ、石がどうとか言ってなかった⁉︎」
エースの発言に、みんなが動きを止める。すると、すぐ近くで「イシ、ハ……ワダサヌ………!!!」という声が響いた。
「やっぱりここに魔法石はまだあるんだ!」
デュースはそう目を輝かせているけど、あたしとグリムはそうもいかない。
「むむむむむりむり! いくらオレ様が天才でもあんなのに勝てっこねぇんだゾ!」
「ぜ、絶対ヤバイって!」
行き先を通せんぼしたりして、何とか行かせまいと奮闘した。けど、目標を見つけたデュースには届かず。「魔法石を持ち帰れなければ退学になるから」と、飛び出してしまった。
「俺は絶対に退学させられるわけにはいかないんだ!」
そうかっこよく宣言したデュースだったけど、怪物の大鎌による攻撃に為す術もなく。見かねたエースも加勢したけど、全く歯が立っていなかった。
2人が反撃して来ないのを確認すると、今度はこっちにまで攻撃を仕掛けてきた。グリムは恐怖心を抱えながらも、精一杯得意の炎で攻撃をする。でも、それも全くきいていない。
どうしよう。このままじゃ、確実にやられる……!
そう思った時だった。どこかから、虹色の光が飛び込んで来たのだ。
辺りを見渡すと、あの化け物の奥にある通路から光が漏れていた。
……待って? 虹色の光って、もしかして……!
「あの光は、魔法石……⁉」
デュースの言葉に嬉しさが込み上げる。本当にあったんだ!
すると、怪物は今までとは桁違いの咆哮をあげ、大鎌を振り回して来た。
「オイユウ、ひひひひとまず逃げるんだゾ!」
このままじゃ全員やられちまう、と言うグリムに同意して、あたしは声を大きく上げた。
「退却! 退却するよー‼」
エースとデュースがついて来ているのを確認して、あたしは再びフィルの手を握って走り出した。
*****
何とか、炭鉱から抜け出して一息つく。あの怪物は石を守っていたから、ここまで追いかけては来ないだろう。ふぅと胸をなで下ろしていると、「……ユウ」と声をかけられる。
「フィル、どうしたの?」
ほとんど口を開いていない彼女は、珍しくほんの少しだけ顔をしかめているように見える。首を傾げると、小さく口を開いた。
「手、離して」
短く、はっきりと告げられて、慌てて手を離す。すると、フィルは近くにある石場に腰をかけ、ため息をついた。
そ、そんなに嫌だったのかな? 会って2日しか経っていないし、あまりフィルの事がよく分からない。
あたしが唸っていると、エースは「もう諦めて帰ろう」と完全に投げやり状態になっている。いやまぁ、あんな怪物見たらそうなるのも分かるけど。
ただ、その事に不満を抱いちゃった人もいる。
「ざっけんな! 退学になるくらいだったら死んだほうがマシだ! 魔法石が目の前にあるのに、諦めて帰れるかよ!」
「はっ。オレより魔法ヘタクソなくせになに言ってんだか。行くなら勝手に1人で行けよ。オレはやーめた」
「あぁ、そうかよ! なら腰抜け野郎はそこでガタガタ震えてろ!」
自身の拳を打ちつけて、口調も荒くなっているデュースに目が点になる。え、本性はこっち? 今までの態度とは⁇ と思えるくらいの豹変さに、グリムは開いた口が塞がっていない。
お互いにガンを飛ばし合っている姿は、いくら精神年齢が低そうでも独特な雰囲気を持っている。今にも喧嘩が勃発しそうだったので、デュースのキャラについて発言すると、一旦落ち着いてくれた。とはいえ、状況は何も変わっていない。
「ねぇ。魔法でどうにか出来ないん?」
そう訊ねると、エースとデュースは眉をしかめる。お互い口を堅く結んでいたが、呟くように口を開いた。
「大がかりな魔法や複雑な魔法の使用には訓練が要る」
「だから魔法学校があるんだけどね。パッと思い浮かべた通りに魔法を使うにはかなり練習が必要ってワケ。ぶっちゃけ、テンパッてるとミスりやすい」
その回答は少し意外だ。漫画とか今朝の喧嘩を見てると、結構フィーリングで使っているのかと思っていたし。
「とにかく、僕はなんとかしてあいつを倒して魔法石を持ち帰る」
「だーかーら。お前さー、シャンデリアの時といい実は相当バカでしょ。さっき全然歯が立たなかったくせに「なんとか」ってなに? 何度やったって同じだろ」
「なんだと⁉︎ お前こそ……!」
またまた始まった2人の喧嘩に、あのグリムですら呆れている。ため息をついている所で、ふと気がつく。
あれ? そういえばフィルは⁇
座っていた石場を見ると、口論に明け暮れている2人を他所に自身の指を気にしている。
何度も繰り返される喧嘩、変わらないフィルの態度に、あたしの何かがブチ切れた。
「いい加減にせんかー‼」
あたしが思いっきり叫ぶと、言い争っていた二人が大きく肩をビクッと震わせた。
「うわっ。ユウ、いきなりデケぇ声出してどうしたんだゾ」
隣にいたグリムも、少し離れた所にいるフィルも目を丸くしている。それに構わず、あたしは続けた。
「そんな風に言い争いばっかしてるから、あの怪物にも勝てないんでしょーが!」
バシッと言うと、二人は言葉に詰まっている。どうやら、一応自覚はしてるみたい。でも、あたしの怒りは正直違う所にある。
「フィルもフィルだよ! なに『我、関せず』みたいにしてるの⁉」
あたし達から離れた所で、優雅に座っているフィルに吠える。するといつもと変わらない様子で、フィルは口を開いた。
「関係ないから」
「え?」
「そこの二人が退学の危機に陥っているのは、二人の自業自得。貴方達が付き合わされているのは、共にいながらそこの二人の行動を止めなかったから」
心当たりがありすぎる文言が、容赦なくグサグサと突き刺さる。フィルって、こんなハッキリ言うんだ……。今までと違い過ぎて、デュースやエースも口元が引きつっている。
そこでフィルが「でも」と口を開いた。
「わたしは共に行動していない」
「……は?」
わたしは共に行動していない?
フィルの言葉が頭をグルグルと回る。何度も飲みこもうとしているのに、大きな衝撃で口が開かなかった。
「わたしがいたのは、貴方達がやらかしたあと。言わば、巻き込まれでしょ」
淡々と続けられた言葉に、あたしは何も言えない。
確かに、フィルは朝の騒動からあたし達と一緒にいた訳じゃない。こうなってるのは、ほとんど連帯責任の形だ。だったら、フィルが受け身な態度でいるのもしょうがない。……かもけど、それとこれとは違うっていうか……!
「あの」
「は? それは違うだろ」
後ろから突然、エースの声が響いた。その事に、フィルも含めてあたし達は目を見開く。
「確かにお前は何もやってないけどさ、ついて来たのはお前の意志じゃん。それで"関係ない"わけなくね?」
これまた正論なエースの返しで、フィルは微動だにせずに固まっていた。よっぽど予想外だったのか、今までした反応の中でも分かりやすくキョトンとしている。
その様子に痺れを切らしたのか、エースは「で?」と何かを問いかける。それに首を傾げると「いや、『ん?』じゃないんだよ!」と何故か怒られた。
「あんな啖呵 切ってたんだし、何かパパッとどうにかなる方法とかあんの?」
エースは、とりあえずフィルの事はスルーするみたいだ。まぁ、フィルもちょっとは聞く気になったのか、珍しくあたしに視線を向けている。これなら、話しても大丈夫かも。
「ちゃんと作戦を立てて、みんなで協力する!」
その提案を聞くやいなや、さっきの様子はどこに行ったと思わんばかりに、エースは鼻で笑った。
「よくそんなダッセェこと真顔で言えんね」
「同感だ。こいつと協力なんか出来るわけない」
二人は互いにフイっと顔を逸らす。
確かに、よくある少年漫画のセリフっぽいのは否定しない。でも、これしか方法はないと、あたしの直感がそう告げてる。
だって、あたしはこの数時間だけでもよく知ってるから。グリムの炎やエースの風魔法、デュースの大釜召喚、そしてフィルの洞察力。一つ一つの能力は強力じゃないかもしれない。でも、上手い事組み合わせる事が出来れば……! チャンスは必ずやってくる!
そんなあたしの心境を知ってか、はたまたそうじゃないのか、グリムがポロッとこぼす。
「でも入学初日で退学って、もっとダセー気がするのだ」
確かに。あたし達は学園から追い出されるだけだから考えつかなかったけど、入学してすぐに退学なんてカッコ悪い。しかも、ナイトレイブンカレッジって名門(?)らしいし、恥ずかしさなんて普通の倍以上になりそう。そんなの……
「そんなの、全然クールじゃない!」
あたしとグリムの言葉に、二人は苦虫を噛み潰したような顔で頭を抱える。そして、「やればいいんでしょ、やれば!」と叫んだ。
「──で、どんな作戦?」
期待の色を含ませたエースに、あたしは声高らかに宣言した。
あたしは今、退学を免れる為にエースやデュース達とドワーフ鉱山にやって来ている。なんだけど……
「ウォオオオオ~~~~~‼︎!」
後ろからは、大きな怪物の呻き声と足音がやってきていた。
こんな事になるなんて聞いてないんですけどー⁉︎
*****
学園長が去った後、あたし達はすぐに鏡の間へ行き、闇の鏡のおかげであっという間にドワーフ鉱山へ着いた。どうやら、闇の鏡は魂の判別以外にも移動が出来るみたい。魔法の世界って凄い……!
感心しながら歩いていると、小さな家がポツポツと見えた。話を聞こうとしたけど、中には誰もいない。そうして、あたし達はすぐに炭鉱を探しに行った。
トロッコなどの道具があったおかげで、炭鉱は見つかった。けど、今まで歩いてきた所よりずっと暗い。周りにある石のコケや時間帯もあって、不気味さが倍増だ。
「こ、この中に入んの……⁉」
「なに、ビビってんの? だっせー」
エースがあたしの様子をからかう様に笑う。それに少し……いや、かなり腹が立つ。でも、ここでケンカでも始めたら終わりだ。そうならない為にも我慢しないと。
……そう決意して中に入ろうとするけど、短時間で恐怖心は克服できず。
誰が先に入るか全員で譲り合いをして、全員で一斉に入る事になった。
中に入ると、思ったよりも広くて奥行きがあった。石とかも転がっていないし、整備されているのがよく分かる。それでも、暗闇は怖すぎだ。
なかなか前に進めずにいると、フィルが颯爽と歩き始める。それに慌てて追いかけた。
ちなみに、「何で平気なの⁉︎」と訊くと「別に入ったら怖くないでしょ」とケロッと言われた。フィルって意外に度胸あるんだな……。
石がないかよく注意して見ながら進む。けど、やっぱりそう簡単には見つからない。あるのは、どれもただの石コロだけだ。
「ねぇ、フィル。魔法石ってどういう物なの?」
耐えに耐えかねて、ずっと疑問に思っていた事を問いかける。すると、少し間をおいて答えてくれた。
「基本的に、魔法道具の動力源になるから大きい。原石は虹のような七色で、その後に着色して様々な色になる」
着色後の魔法石はあの二人が持っている万年筆にもついている、と言われてじっくりと見る。
2人のペンについている綺麗な赤色の石。これが魔法石なんだ。気付かなかった。
「やっぱり、フィルは物知りだね!」
お礼を言っていると、エースが突然口を挟む。
「つーか、ずっと思ってたんだけどさ……お前、誰?」
その視線の先には、いつもと同じ無表情なフィルがいる。
……ん? あれ、もしかして……もしかしなくても。
「紹介とか、してなかった……っけ⁇」
「してねーよ」
エースの鋭いツッコミがあたしをグサリと抉る。しかも、グリムまで「オレ様も知らねーんだゾ」と言ってきた。
うぅっ。みんなの呆れたような視線が辛い……。
「じゃ、じゃあ気を取り直して……。こっちはフィル。一緒に雑用係をやっているんだ」
適当な紹介をすると、フィルは軽く会釈をして挨拶をした。
それに合わせて、エースやデュースも挨拶をする。……でも。
「……何か?」
「別に、何もねーけど?」
心なしか、フィルとエースの雰囲気がバチバチしているような……。どっちかっていうと、エースが一方的に敵視してる感じだけど。
疑問に思って、声をかけようとした時。デュースが待て、と腕で通せんぼをしてきた。
「どうしたん?」
「なにか……いる!」
そう言ったデュースの視線の先を辿る。何か、フワフワで透明なのが見えるような……?
その時だった。
「ヒーッヒッヒ! 10年ぶりのお客様だあ!」
「ゆっくりしていきなよ。永遠にね!」
青い頭巾を被ったゴーストが現れ、あたしの背筋が凍っていく。そして、考えるより早く絶叫が引きずり出された。
「「ででででたーーーっ‼︎!」」
怖いのはやっぱりグリムも同じで、一緒に飛び上がる。怖がり同士身を寄せ合っていると、デュースが全員を先導しようと一番に駆け出した。その背中を追いかけて走っていると、ふと気づいた。
フィルがいない……⁉︎
一度足を止めて周りを見ると、だいぶ後ろに、息切れをしながらもなんとか追いつこうとして走っているのが見えた。あたしは近くまで走って、フィルに手を伸ばす。
「フィル! こっちだよ‼︎」
大量の汗を流しながら苦しそうな顔をしているフィルは弱々しく手を伸ばす。それをしっかり掴んで、あたし達は走った。
*****
なんとかデュース達に追いついた。後ろを見ると、あんなにしつこく追いかけてきたゴーストの姿はもう見えない。よかった、無事に撒けたんだ。
「フィル、大丈夫?」
逃げる事に夢中であまり気にかけていなかった事に気づいて、フィルに様子を訊く。その本人はやっぱりまだ息を乱しつつも、無事だと答えた。
それにホッと安堵の息を漏らしていると、今度は喧嘩が勃発する。
リーダーシップを発揮して先を急ぐデュースの事が、エースは気に入らないらしい。不満気に過去の事を掘り返してきた。
「大体、お前があんな馬鹿な真似しなきゃこんなことになんなかったのに」
「元はと言えばお前が掃除をさぼったのが原因だろう!」
「それを言ったら、最初にハートの女王の像を燃やしたのはそこの毛玉だぜ!」
「ふな゛っ! オマエがオレ様を馬鹿にしたから悪いんだゾ!」
三人は、まるで近所のクソガキども(9才)みたいに、見事な罪のなすりつけ合いをしている。こう言っちゃなんだけど、本当に同年代⁇ 精神年齢、低すぎない?
「本当にどうしようもないね〜」
フィルの意見を求めようと振り向いた瞬間、あたしは動きが止まってしまった。
何故なら、フィルがとても冷たい顔をしていたから。いや、冷たいとはちょっと違うのかもしれない。軽蔑や呆れ、嫌悪……そういった感情が一切見えないほどの『無』。まるで、この出来事に一切の興味を持っていないような――そんな表情だった。
ちょっと嫌な予感がして、声をかけようとすると「お前たち!」という大声に阻まれた。
「今の状況がわかってるのか? 朝までに魔法石を持って帰れなければ僕たちは退学なんだぞ!」
「だ~から、さっきからいちいち仕切んなよ。ムカつくなあ」
三人の間でバチっと飛ぶ火花。何かやけに不干渉なフィル。どちらか一つでも最悪なのに、二つが組み合わさったら地獄としか言いようがない。
どこにもあたしの味方はいないのか……。そう涙ぐんでいた時だった。
何か音が聞こえてきた。誰かが呻いているような声。でも、それにしてはだいぶ音が低いような……。
さっきとは違って確信にも近い予感がして、逃げてきた方向を見つめる。そんなあたしの様子を察して、エースたちも言い争いを止めて同じ方向見つめた。
「こ、この声……は?」
「なんか……だんだん近付いて……」
「ま、またゴーストか?」
心臓の鼓動がドクドクと早くなる。鳥肌が立ち、ここに来た時にも感じた恐怖が湧き上がる。もう、そこまで近づいている。
その瞬間だった。
「イジハ…………オデノモノダアアアアアオオオオオオ‼︎‼︎」
「「「「出たあああああ‼︎!」」」」
ここで全ては冒頭に戻る。
「なんだあのヤバイの⁉︎」
「ぶなああああ‼︎ あ、あんなの居るなんて聞いてねーんだゾ‼︎」
「めっちゃエグい!」
どうやら、三人も混乱しているみたいだ。あんなに険悪な雰囲気が一転してるんだから、間違いない!
角をいくつか曲がってからチラチラ後ろを振り返る。あの怪物はまだこっちに追いついてない。なら、このまま逃げ切ろう。三人には悪いけど、命の方が大事だし!
「そういえばアイツ、石がどうとか言ってなかった⁉︎」
エースの発言に、みんなが動きを止める。すると、すぐ近くで「イシ、ハ……ワダサヌ………!!!」という声が響いた。
「やっぱりここに魔法石はまだあるんだ!」
デュースはそう目を輝かせているけど、あたしとグリムはそうもいかない。
「むむむむむりむり! いくらオレ様が天才でもあんなのに勝てっこねぇんだゾ!」
「ぜ、絶対ヤバイって!」
行き先を通せんぼしたりして、何とか行かせまいと奮闘した。けど、目標を見つけたデュースには届かず。「魔法石を持ち帰れなければ退学になるから」と、飛び出してしまった。
「俺は絶対に退学させられるわけにはいかないんだ!」
そうかっこよく宣言したデュースだったけど、怪物の大鎌による攻撃に為す術もなく。見かねたエースも加勢したけど、全く歯が立っていなかった。
2人が反撃して来ないのを確認すると、今度はこっちにまで攻撃を仕掛けてきた。グリムは恐怖心を抱えながらも、精一杯得意の炎で攻撃をする。でも、それも全くきいていない。
どうしよう。このままじゃ、確実にやられる……!
そう思った時だった。どこかから、虹色の光が飛び込んで来たのだ。
辺りを見渡すと、あの化け物の奥にある通路から光が漏れていた。
……待って? 虹色の光って、もしかして……!
「あの光は、魔法石……⁉」
デュースの言葉に嬉しさが込み上げる。本当にあったんだ!
すると、怪物は今までとは桁違いの咆哮をあげ、大鎌を振り回して来た。
「オイユウ、ひひひひとまず逃げるんだゾ!」
このままじゃ全員やられちまう、と言うグリムに同意して、あたしは声を大きく上げた。
「退却! 退却するよー‼」
エースとデュースがついて来ているのを確認して、あたしは再びフィルの手を握って走り出した。
*****
何とか、炭鉱から抜け出して一息つく。あの怪物は石を守っていたから、ここまで追いかけては来ないだろう。ふぅと胸をなで下ろしていると、「……ユウ」と声をかけられる。
「フィル、どうしたの?」
ほとんど口を開いていない彼女は、珍しくほんの少しだけ顔をしかめているように見える。首を傾げると、小さく口を開いた。
「手、離して」
短く、はっきりと告げられて、慌てて手を離す。すると、フィルは近くにある石場に腰をかけ、ため息をついた。
そ、そんなに嫌だったのかな? 会って2日しか経っていないし、あまりフィルの事がよく分からない。
あたしが唸っていると、エースは「もう諦めて帰ろう」と完全に投げやり状態になっている。いやまぁ、あんな怪物見たらそうなるのも分かるけど。
ただ、その事に不満を抱いちゃった人もいる。
「ざっけんな! 退学になるくらいだったら死んだほうがマシだ! 魔法石が目の前にあるのに、諦めて帰れるかよ!」
「はっ。オレより魔法ヘタクソなくせになに言ってんだか。行くなら勝手に1人で行けよ。オレはやーめた」
「あぁ、そうかよ! なら腰抜け野郎はそこでガタガタ震えてろ!」
自身の拳を打ちつけて、口調も荒くなっているデュースに目が点になる。え、本性はこっち? 今までの態度とは⁇ と思えるくらいの豹変さに、グリムは開いた口が塞がっていない。
お互いにガンを飛ばし合っている姿は、いくら精神年齢が低そうでも独特な雰囲気を持っている。今にも喧嘩が勃発しそうだったので、デュースのキャラについて発言すると、一旦落ち着いてくれた。とはいえ、状況は何も変わっていない。
「ねぇ。魔法でどうにか出来ないん?」
そう訊ねると、エースとデュースは眉をしかめる。お互い口を堅く結んでいたが、呟くように口を開いた。
「大がかりな魔法や複雑な魔法の使用には訓練が要る」
「だから魔法学校があるんだけどね。パッと思い浮かべた通りに魔法を使うにはかなり練習が必要ってワケ。ぶっちゃけ、テンパッてるとミスりやすい」
その回答は少し意外だ。漫画とか今朝の喧嘩を見てると、結構フィーリングで使っているのかと思っていたし。
「とにかく、僕はなんとかしてあいつを倒して魔法石を持ち帰る」
「だーかーら。お前さー、シャンデリアの時といい実は相当バカでしょ。さっき全然歯が立たなかったくせに「なんとか」ってなに? 何度やったって同じだろ」
「なんだと⁉︎ お前こそ……!」
またまた始まった2人の喧嘩に、あのグリムですら呆れている。ため息をついている所で、ふと気がつく。
あれ? そういえばフィルは⁇
座っていた石場を見ると、口論に明け暮れている2人を他所に自身の指を気にしている。
何度も繰り返される喧嘩、変わらないフィルの態度に、あたしの何かがブチ切れた。
「いい加減にせんかー‼」
あたしが思いっきり叫ぶと、言い争っていた二人が大きく肩をビクッと震わせた。
「うわっ。ユウ、いきなりデケぇ声出してどうしたんだゾ」
隣にいたグリムも、少し離れた所にいるフィルも目を丸くしている。それに構わず、あたしは続けた。
「そんな風に言い争いばっかしてるから、あの怪物にも勝てないんでしょーが!」
バシッと言うと、二人は言葉に詰まっている。どうやら、一応自覚はしてるみたい。でも、あたしの怒りは正直違う所にある。
「フィルもフィルだよ! なに『我、関せず』みたいにしてるの⁉」
あたし達から離れた所で、優雅に座っているフィルに吠える。するといつもと変わらない様子で、フィルは口を開いた。
「関係ないから」
「え?」
「そこの二人が退学の危機に陥っているのは、二人の自業自得。貴方達が付き合わされているのは、共にいながらそこの二人の行動を止めなかったから」
心当たりがありすぎる文言が、容赦なくグサグサと突き刺さる。フィルって、こんなハッキリ言うんだ……。今までと違い過ぎて、デュースやエースも口元が引きつっている。
そこでフィルが「でも」と口を開いた。
「わたしは共に行動していない」
「……は?」
わたしは共に行動していない?
フィルの言葉が頭をグルグルと回る。何度も飲みこもうとしているのに、大きな衝撃で口が開かなかった。
「わたしがいたのは、貴方達がやらかしたあと。言わば、巻き込まれでしょ」
淡々と続けられた言葉に、あたしは何も言えない。
確かに、フィルは朝の騒動からあたし達と一緒にいた訳じゃない。こうなってるのは、ほとんど連帯責任の形だ。だったら、フィルが受け身な態度でいるのもしょうがない。……かもけど、それとこれとは違うっていうか……!
「あの」
「は? それは違うだろ」
後ろから突然、エースの声が響いた。その事に、フィルも含めてあたし達は目を見開く。
「確かにお前は何もやってないけどさ、ついて来たのはお前の意志じゃん。それで"関係ない"わけなくね?」
これまた正論なエースの返しで、フィルは微動だにせずに固まっていた。よっぽど予想外だったのか、今までした反応の中でも分かりやすくキョトンとしている。
その様子に痺れを切らしたのか、エースは「で?」と何かを問いかける。それに首を傾げると「いや、『ん?』じゃないんだよ!」と何故か怒られた。
「あんな
エースは、とりあえずフィルの事はスルーするみたいだ。まぁ、フィルもちょっとは聞く気になったのか、珍しくあたしに視線を向けている。これなら、話しても大丈夫かも。
「ちゃんと作戦を立てて、みんなで協力する!」
その提案を聞くやいなや、さっきの様子はどこに行ったと思わんばかりに、エースは鼻で笑った。
「よくそんなダッセェこと真顔で言えんね」
「同感だ。こいつと協力なんか出来るわけない」
二人は互いにフイっと顔を逸らす。
確かに、よくある少年漫画のセリフっぽいのは否定しない。でも、これしか方法はないと、あたしの直感がそう告げてる。
だって、あたしはこの数時間だけでもよく知ってるから。グリムの炎やエースの風魔法、デュースの大釜召喚、そしてフィルの洞察力。一つ一つの能力は強力じゃないかもしれない。でも、上手い事組み合わせる事が出来れば……! チャンスは必ずやってくる!
そんなあたしの心境を知ってか、はたまたそうじゃないのか、グリムがポロッとこぼす。
「でも入学初日で退学って、もっとダセー気がするのだ」
確かに。あたし達は学園から追い出されるだけだから考えつかなかったけど、入学してすぐに退学なんてカッコ悪い。しかも、ナイトレイブンカレッジって名門(?)らしいし、恥ずかしさなんて普通の倍以上になりそう。そんなの……
「そんなの、全然クールじゃない!」
あたしとグリムの言葉に、二人は苦虫を噛み潰したような顔で頭を抱える。そして、「やればいいんでしょ、やれば!」と叫んだ。
「──で、どんな作戦?」
期待の色を含ませたエースに、あたしは声高らかに宣言した。
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