出会い、別れ

翌日、優香は玲奈が赤ちゃんを養子に出す事にした事を鴻鳥から聞く。

『そうですか。お母さん自身がそう決めたのなら私から言う事は何もありません。お伝えくださってありがとうございます』

優香は表情を変えずそう言うと一礼して踵を翻した。
そして数日後、玲奈は出産を迎える。

真「吉沢さん、陣痛の感覚が6分になってきました！」

玲奈は陣痛の痛みに声を上げ、小松はそんな玲奈に激励していく。
下屋から玲奈の陣痛の感覚が2分になったことを伝えられたところで優香、鴻鳥、下屋は玲奈のいる分娩室に向かう。
3人が分娩室の前まで来るとその近くの待合室に亮の姿があった。

亮「玲奈は大丈夫ですか？赤ちゃんは？」
『順調よ』
亮「よかった…
俺、何もできないですね。玲奈にも、産まれてくる子にも」
『そうよ。あなたには、彼女の痛みも苦しみも肩代わりする事はできないし、まだ子供を育てる力もない』
鴻「だから、じっくり考えていかなきゃね？
起きた事から目を逸らさずに、産まれてくる命をしっかり受け止められる大人になれるように」
亮「はい」

優香、鴻鳥、下屋は今度こそ玲奈のいる分娩室に入った。

『様子はどうですか？』
真「頭だいぶ降りてきました」
小「吉沢さん、しっかり呼吸してくださいね〜！
次の陣痛が来たら、大きく息を吸って生きみますよ？いいですか？」

3人は静かに玲奈の出産を見守る。
暫くした後、無事に赤ちゃんが産まれた。皆が自然と笑顔になり、玲奈に｢おめでとう｣と声をかける。
小松が産まれたばかりの赤ちゃんを包（くる）み、玲奈の隣に寝かせる。

小「おめでとうございます。よく頑張りましたね。可愛い女の子ですよ」

玲奈は赤ちゃんを見て涙を流す。優香もその姿を静かに見守り、鴻鳥が玲奈に声をかける。

鴻「じゃあ、連れていくよ？」

別れを惜しむように玲奈は首を横に振り涙を流し続ける。小松はそっと赤ちゃんを抱き上げ、分娩室を優香、鴻鳥と共に出る。
分娩室の外にいた亮に少しの時間、赤ちゃんと触れ合わせ3人は分娩室の隣の部屋に向かった。

小「おめでとうございます。2900グラムの女の子です」

小松は養父母にそう伝え、赤ちゃんを抱かす。

妻「産まれてきてくれて、ありがとう。お母さん、産んでくれて、ありがとう」

養父母となる夫婦は涙を浮かべて妻は礼を述べた。



───産まれた我が子に、別れを告げようとする人がいる。
自分の無力さを、噛み締める人がいる。
そうして、血の繋がらない赤ちゃんを、我が子として育てたいと望む人がいる。
誰もがただ1つ、同じ事を願っている。
誕生した命が、健やかであるように、ずっと幸せでありますようにと。
そのための道を、それぞれが探す、半年が始まる。