FF編

「あいつらにあんな事言ったけど、私も基礎はダメダメなんだよなぁ。佐久間が言うにはドリブルがまだ不安定らしいし、今日はそこから重点的に、、、あれ?あいつは、、、」

河川敷に向かう途中光は道路を挟んだ反対側の通りに見覚えのある人を見かけた。

「(あれ豪炎寺だ。学校終わったばっかなのにどこ行くんだろ。、、、そーいえばあいつサッカー部ではないんだなぁ。この前のシュートかっこよかったのに。もう一回見てみたいな。)」

向こうは光には気づいていないようだ。
光は先日の彼のシュートのことを思い出す。今でも鮮明に思い出せるあの熱い炎は光をサッカーに惹きいれた一因でもある。後で円堂に聞いたところ、どうやら彼はあれっきりの助っ人だったらしい。
初めて会った時はクールだなんて思ったけれどサッカーだと熱い男だったな、、、。
そんなことを考えながら光は歩く。豪炎寺に声をかけるつもりはなかった。

すると、同じく向かい側、豪炎寺の後ろから見覚えのある子供が駆けてくるのが見えた。そのさらに後ろでは彼の母親が慌てて追いかけているのが見える。
向こうもどうやら光に気付いたようで手前にある信号を渡ろうとする。

「おーい!ひかり!!」
「蘭丸じゃないか!信号気をつけろーー!」
「わかってるって。ちゃんと青で渡るもん。」

信号は確かに青だった。蘭丸もちゃんと左右を確認してすぐ近くに車がいないとわかり走ってくる。

「、、、おい、おい!あのトラック!!!まずい、らんまるーーーーー!」

そんな蘭丸を立ち止まって待っていると前方からトラックがスピードを緩めず走っているのが見えた。

「きゃああああ!!らんまる!!!!」

母親が叫ぶ声が響き渡る。周囲の人々もトラックが子供に迫る様子に呆然とする。

蘭丸は光の叫びに目を見開き自分に迫っているトラックを目にし、立ち止まる。
光は全速力で走り道路へと出る。幸い蘭丸はこちら側に近い位置にいた。急いで蘭丸の肩と腕を掴み放り投げる勢いで歩道側へ押す。
間一髪、光とスレスレにトラックは通り過ぎた。
その一瞬、運転手がハンドルを握り頭を下げているのが見えた。

「あのトラック居眠り運転だ。あのままだと他にも被害が、、、、くそっこれしかないか、はぁあああ!!!」

光は持っていたサッカーボールをトラックのドアへとぶつける。かなりのコントロールとパワーで飛んだボールは大きな音を立て、正確に窓にぶつかった。
その衝撃で運転手は起きたのか、トラックは少し進んだ先の信号でようやく止まった。
これで大丈夫だろう。
ほっと息をついた光に背後から蘭丸が抱きつく。

「ひ、ひかり〜〜〜!」
「よしよし怖かったな、蘭丸。泣かないなんて偉いじゃないか。怪我はないか?」
「うん、ひかりが守ってくれたから平気だよ。ひかりこそ怪我は?ていうかあの蹴りすごすぎ!!!この前の時よりうまくなってるし!」

轢かれかけたというのに蘭丸は怒涛に光に喋りかける。怪我もなく、トラウマにもなっていないようで良かった。
光は再度、安堵のため息をつく。

「はぁはぁ、、、!あぁ蘭丸!!!大丈夫?!怪我は?」
「ママ!」

蘭丸の母親が全力で走ったのだろう、息を切らして駆けつけてきた。蘭丸もさすがに怖かったのか母親に抱きつかれると目に涙を溜めていた。

「光ちゃん、この子のこと助けてくれて本当にありがとう。感謝してもしきれないわ。本当にありがとう!ほら、あんたもお礼言いなさい!」
「グスッ、ひかり、、ありがとぉ。」
「どーいたしまして。いいか蘭丸、世の中にはああいう青信号でも走ってくる車がいるんだ。気をつけるんだぞ。おばさんも私は偶然助けることができただけなんで、これからも気をつけてください。」
「うん、きをつける!!!」
「今度なにかお礼するわね。」

光は素直に頷く蘭丸の頭をガシガシと撫でる。
2人はしばらく光と話していたが用事があったのか手を繋ぎ去っていった。
ちなみに蘭丸はちゃっかり次の遊ぶ約束を取り付けていた。

「、、よし、河川敷にいくか。」

光も自分の本来の目的を思い出し、サッカーボールを持ち河川敷へ向かおうとする。もう随分と時間が経ってしまった。もうみんなは既に練習してるだろうな。

「あのっ!」
「ん?、、あっ。」

声をかけられ振り返るとそこに居たのは豪炎寺だった。確かにあれだけ騒ぎになればその中心に光がいることにも気づくだろう。
だが、どこか様子がおかしい。普段は感情をあまり表に出さないクールな彼が今は汗をかき、眉を下げて目の焦点もどこか揺らいで定まっていない。とても動揺しているのが見て取れた。

「えっと、豪炎寺だよな、、?この前ぶりだな。どうしたんだ、、、うぉっ?!」
「、、っけ、怪我は無いのか?あのトラックにどこかぶつかってたりとかは?!」
「お、落ち着いてくれ!私は大丈夫だから、!」

彼らしからぬ剣幕でまくし立てられる。肩を掴まれ揺さぶられ光はされるがままになり目を回した。
光が全く怪我をしていないと知りようやく落ち着いた豪炎寺はポツリと話す。

「なんであんな無茶をするんですか、、、。」

心配してくれたのだろうか。だが、彼からはそれ以外の何かも感じ取れた。
光はそれが何かは分からなかったが問いには正直に答えるべきだと考える。

「目の前に轢かれそうになってる人がいるんだ。助けたいと思うのは自然なことだろ?助けられずに目の前で怪我をされるなんてごめんだ。私は誰がなんと言おうが止めようが、私のやりたいことをやる。、、昔からそう決めているんだ。」
「、、、、、、!」

光は小さい頃からよく怒られていた。なんで言うことを聞かないのとはよく殴り合いの喧嘩(ほぼ光の一方的な暴力だったが)をしていた光によく母親が言っていた言葉である。
光は今でこそ相手を痛めつける暴力はしなくなったが、やったこと自体は一度も後悔したことがない。
自分がやりたいことをやる。それが小さい頃からの光の信念でもあった。
そんな光の真っ直ぐな言葉に豪炎寺は息を呑む。ただ、そこには先ほどのような感情の揺れは見られなかった。それよりも何か迷い人が道標を見つけたような、そんな救いを見つけた顔をしていた。
光はそんな豪炎寺の表情を不思議に思うが、自分が練習に遅れていることを思い出す。
先に行くとか言っておきながらいないのはもはや心配させてるかもしれない。

「ごめん豪炎寺、心配してくれてありがとな。この後私サッカーの練習があるんだ。そろそろ行くよ。、、、お前も何があったかは知らないけどあんまり無理するなよ。」
「いえ、、、こちらこそ時間をとらせてしまってすみませんでした。」
「かたいなー、まあいいや!今度一緒に駄菓子屋いこーな!じゃあな!」
「え、だがしや、、、?」

光的には心配させてしまったお詫びとしての言葉だったがあまりにも脈絡がなく、去っていった光を眺める豪炎寺の背中は笑いで震えが止まらなかった。

やっぱり、あの先輩どこかズレてるな。

豪炎寺は笑いながら先ほどの出来事を思い返す。トラックが小さな少年に迫っていったのを目にした時豪炎寺は自分の妹、夕香のことが頭によぎり、頭が真っ白になり身体が動かなかった。
夕香は去年のフットボールフロンティアの決勝戦前、今のようなトラック事故に遭い今現在も意識不明の重体である。
それは豪炎寺の心に重くのしかかり、夕香が苦しんでるのに、夕香を不幸にしたサッカーをやってはいけないという考えが足に鎖を巻き付けている。
光が間一髪で少年を助けたのを見た時は心臓が止まったかと思ったほどに肝を冷やした。少年だけではなく、光も夕香のようになってしまうのではないか、そんな不安がよぎったのだ。だからこそいつもの冷静さを、失い光に詰め寄ってしまった。

「誰がなんと言おうが自分のやりたいことをやる、、、か。ふっ、、、情けないな俺は。」

豪炎寺は光の言葉を思い返す。
そうだな多分、夕香はサッカーをやめた俺を情けなく思うんだろうな。でもごめん、お兄ちゃんはまだ足を踏み出すことができないんだ。

豪炎寺はその足で夕香のいる病院へと向かう。彼がサッカーへ付き合うにはまだ時間が必要であった。
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