序章 千年の始まり

 結果的に、男をこんなに悲しませることになってしまうとは、想像もしていなかった。
『貴方様は悲しみに暮れていらっしゃるのですね。私と同じように』
 玉依姫は、万感の思いを込めて男を見上げる。
 男の涙が、滴り落ちてくる。
『あぁ、どうか……どうか。貴方様の心に、いつか平穏が訪れますよう。私は……。私は、どうあってもかいませんから』
 ざあっと強い風が吹き抜け、玉依姫の言葉をかき消してしまう。
 重い唇を気力で動かし、声を紡ぐ。
『すまなかった』
 男は悲しみに暮れた顔で、何度も何度もすまなかったと繰り返す。
『……泣かないで。貴方は悪くない。あれだけ多くのものを奪われたら、誰だって……』
 死に瀕していながら、玉依姫は懸命に男に声をかける。
 ──そう。私は、貴方のことが……。
 伝えなければいけない言葉があるのに、声は掠れ、音にならない。
『すまない……すまなかった。私は、お前の守護者となろう。永劫に守り続けよう。お前も、封印も』
 剣の力から解放された男は、後悔の涙を流し玉依姫に誓った。
 未来永劫、何度でも転生し、お前を守ろうと。
 ──まだ、駄目なのに。本当に大切なことを、まだなに一つ伝えられていないのに……。
 伝えたいのに、声が出せない。意識が暗い世界に落ちていく。どこまでも暗い世界に。
 ──待って、お願い、もう少しだけ待って! 一言でいいの。伝える時間を……!
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