序章 千年の始まり

 一度解放された力を抑えることはできなかった。
 男は祈った。自分の力を再び封じるには、どうしたらよいかわからなかったのだ。
 身体は、力に蝕まれている。
 最早、己の魂から、この凶暴な力を打ち払うことはできない。
 玉依姫は、それを見ていることができなかった。
 様々なカミに助けを頼み、しかし、カミたちはそれに耳を貸さなかった。
 剣を管理する力があるのは、自分だけ……。
 玉依姫は、自分の命を男に託した。その剣を封じる力と、自らの命と引き換えに』
 玉依姫は自らの魂をもって剣を鎮め、世界と常世神を救った。
 赤い欠片が、嵐のように舞い散る。
 真っ赤な紅葉が、くるくるひらひらと踊りながら舞い落ちる。
『封じられたのか。すまない……すまなかった。どう言って詫びたらいい。私は、どうすれば……』
 男は泣く──瀕死の玉依姫を見て。 
『駄目……です。そんな風に、悲しい顔をしてはいけません。
 どうか、ご自分を責めないで下さい。決して、貴方だけが悪いわけではありません。
 すまなかった。私……復讐に取り憑かれて取り返しのつかないことをしてしまった。あんな危険なものを、どうして解放してしまったのだろう……。
 それは、私がしたこと。貴方様の望みを叶えたいと思うあまり……』
 男のためだけを思い、取り返しのつかないことをしてしまった。
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