第三章 綻びの足音

 わずかに顔を覗き込まれ、そう指摘される。
「大丈夫。昨日、本読んでたら寝るの遅くなっちゃって。少し、寝不足なだけ」
 少し力ない笑みで、そう返す。
(なんで私の席、拓磨の前にあるんだろう……)
 言っても仕方ない愚痴を漏らす。
 二人の間の空気は、朝登校時と並行して気不味いまま。
 気不味いのか拓磨も、クラスメートに挨拶をしたきり、机に突っ伏してした。
 二人の様子を教室の外の廊下から、人知れず静かにほくそ笑みながら見ている者がいた。
 その影の存在を、二人は気づきもしなかった。

🍁

「はぁ……」
 太陽の日差しのもとで今日、何回目かのため息をつく。
 しかし、今のため息は朝からの拓磨との気不味い関係ではなく、目の前のものに対してのものにだ。
 午後の授業──美術の時間で課題が外で校舎の写生だった。
 この冬の季節に外での写生はいかがなものかと思ったが、外は冬にしては日光が降り注いでぽかぽかして暖かく陽気がいい。
 珠紀はグランドのベンチに座り、スケッチブックに校舎を写生していた。
 下絵を仕上げ、その下絵に絵の具で色を付けていく。
 最後のひと塗りを終えて、絵を完成させた。
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