第三章 綻びの足音

 古い黒い錠前をかけ、三毛猫を胸に抱き抱えた珠紀は母家に向かう。
「今日、なにしようかな……」
 考えながらぽつりと呟く。
「ミャー」
 その呟きに、三毛猫は返事するように鳴いた。
「うんうん。君はねこまんまね」
 珠紀は歩きながら、三毛猫の声に答えた。
 本当、なにをしようと夕飯の献立を考える。
 途中、そんなやり取りがありながら歩みを進めた。

🍁

 ──惜しい。
 彼は、小さく落胆する。
 すっと自身の意識を戻して、閉じていた目をゆっくり開ける。
 窓枠に頬杖を突いて、小さく息をつく。
 そのまま、窓の外の庭に顔を向ける。
 先ほどまで彼はあるものに意識を移し、あるものの目を通じて、玉依姫彼女の情報を得ていた。
 他者に意識を移すのは、彼の得意とする術の一つだ。
 あるものを送り込んでから、その者の目を通じて彼女の情報を得ていた。
 懸命に掃除をする彼女は、かわいかったこと。
 庭に顔を向けたまま、片方の口の端を上げる。
 彼の機嫌のよさは、後ろで控えていた彼女にも伝わってきた。
 ──だが……。
 上げていた口の端を下げる。
 その予兆は見られるが、それからまったく。
 ──上手く、いかないものだな。
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