第三章 綻びの足音

「相変わらずここの物は整理されているようで、されてないんだから」
 珠紀の呟きはくうへ消える。
 宇賀谷家の裏に、ひっそりと建つ蔵の中で一人ぼやく。
 年末の大掃除にかけて、少しでも掃除が楽になるよう──一人、蔵の掃除をしていた。
 休日の昼下がり。特になにもすることがないので、蔵の掃除を思い立った次第だ。
 数ヵ月前──玉依姫と鬼斬丸のことを調べるために何度も訪れた。
 あの時は、こんな風に静かに蔵の掃除ができるとは思わなかった。
 そう思うと、笑みが漏れた。
 蔵内で、珠紀は端から棚の書物を棚に整頓する作業を繰り返す。
 かれこれ二時間くらい、作業を続けている。
 昼間の明るい陽光が差す蔵は、解放されているような清々しい空気に満ちている。
 以前した永く人の出入りがなかったためのカビ臭さや、不思議な雰囲気やどこかよそよそしい匂いは、週に一回、部屋の換気しているので感じなかった。
 分類までには至らないが、古いものから新しいもの順に棚に書物を陳列する。
 あぶれ無造作に床に積まれ置かれた書物を抱え、陳列し整頓していく。
 抱えている最後の一冊を、棚に仕舞い終えた瞬間、珠紀の心臓の鼓動が、大きくドクンと脈打つ。
『…………』
(今、なにか聞こえた!)
 咄嗟に後ろを振り返り、明るい蔵の中を見回す。
2/9ページ
スキ