第二章 ゲームのはじまり

 珠紀の小さな苦痛の声が届いたのか、拓磨は足を止めて、やっと彼女に振り返った。
「拓磨……痛いよ……」
 弱々しい珠紀の苦痛の声と表情に、拓磨は我に返る。
 知らずに自分は、彼女の手首を強く握っていたらしい。
「あ……悪い……」
 短く謝って、珠紀の手首から手を放す。
 解放されても、細い手首には痛みが残る。
 珠紀は、赤く跡がある手首を右手で庇うように覆った。
 ジンジンと掴まれていた手首が痛む。
「悪い……」
 もう一度、小さく謝る声が聞こえ、珠紀は見上げる。
 見上げた先には、やり切れない表情をした拓磨の顔があった。
 そんな表情を見たら、怒るに怒れなくなってしまう。
 珠紀はなんて言っていいかわからず、拓磨の顔を見つめた。
 珠紀の視線に気づき、拓磨はわずかに目を逸らす。
 藤色の瞳が動揺の色に揺れている。
「「…………」」
 二人は無言のまま、その場に立ち尽くしていた。
「……帰ろっか……」
 珠紀はやっと口に出した言葉が、それだった。
「…………あぁ……」
 その言葉に、拓磨は力無く頷いた。
 傾いてきた夕日が、寂しく珠紀と拓磨を照らしていた。

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「また明日ね……」
「あぁ……」
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