第二章 ゲームのはじまり

 拓磨の視線が、貫く勢いで珠紀を捉えた。
(え? なにか、怒ってる……?)
 拓磨が纏う気配に、珠紀は息を飲んだ。先ほどまでの甘い静かな空気は、拓磨の登場によって完全にどこかに吹き飛んでいってしまった。
 こんな気配──拓磨が戦闘以外で纏うのを初めて見た。
 珠紀は拓磨をただ、見ることしかできなかった。
 三人の間に、重い空気が流れる。
 重い沈黙を破って無言のまま、拓磨が大股で珠紀の隣まで来て螢斗を鋭く一瞥する。
 拓磨の一瞥にも螢斗は怯むことなく、平然と彼に微笑みを向けていた。
 ハラハラしながら珠紀は、拓磨と螢斗を交互に見比べた。
 螢斗の微笑みを無視して拓磨は、珠紀の手首を掴み歩き出した。
 手首を掴まれ、無理矢理立たされて、慌てて下に置いてあった鞄を持つと同時に、引き摺られる形で連れていかれる。
「また明日ね、春日さん」
 珠紀が振り返ると、椅子に座った儘螢斗が微笑みを絶やさずに手を振って見送っている。
 珠紀は見送りに返事を返すことができず、ただそれを見ていた。

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「痛いっ……拓磨、放してっ……」
 珠紀は弱々しく懇願するが、その懇願が聞こえていないのか拓磨は、彼女を引っ張って黙って歩き続ける。
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