第二章 ゲームのはじまり

 柔らかくどこか余裕のある微笑みも彼を引き立たせる。そこにいるだけで、一枚の美しい絵画を見ているようだ。
 珠紀は心臓が高鳴っていくのを感じる。静かな教室では、それが聞こえてしまうのではないかと心配になる程に。
「春日さん?」
 柔らかいトーンの声で、名前を呼ばれる。
 うんっと小首を傾げる仕草は、螢斗が幼い子供のように見えた。
「え? あ……趣味だったよねっ」
 珠紀は慌てて我に返る。
「…………神社仏閣巡り……」
 言い淀み、語尾が聞こえるか聞こえないか位の小さい声だった。
 珠紀は、言ったあとに恥ずかしくなってきた。
 我ながら年寄り臭い趣味だと、珠紀は思う。
 でも、これが自分の趣味なのだから仕方がない。
 笑われるの覚悟で、螢斗の反応を待つ。
 聞いた螢斗はクスクスと小さく笑い、良い趣味だねと微笑んで言った。
 珠紀は予想外の反応に驚き、まじまじと螢斗を見る。
「猫沢君はなんとも思わないの?」
「なにが?」
「いや、だって、神社仏閣巡りなんてあまりにも年寄り臭いと自分でも思うから……」
「そんなことないよ。神社仏閣を巡り見て、そうやって日本の伝統文化に触れるのって素敵なことだよね」
 十七歳の女子高生の趣味にしては絶対に年寄り臭いのに、まさかそんな反応が返ってくるとは思ってもみなかった。
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