第二章 ゲームのはじまり

 生徒が誰一人いないせいか、余計にそう感じさせた。
 物悲しい教室に、影を一つあった。
 影の持ち主は、螢斗だった。
 誰も残っていないと思っていたので、珠紀は驚く。
「あれ? どうしたの、春日さん」
 螢斗も珠紀に気づき、優しく尋ねてくる。
「忘れ物しちゃって。猫沢君は?」
「日直のついでに、先生にこれ頼まれて」
 螢斗と困った笑みをして、両手を机から少し上げ、持っている物を見せる。
 右にホッチキス、左にプリントの束を手に持っていた。
 夕暮れの教室で作業をしている螢斗は、なんとなく絵になっていた。
 珠紀は思わず、見入ってしまう。
 螢斗の机の上には、まだ綴じられていないプリントの束が高く積まれている。
 一人ですると、まだ時間がかかりそうだ。
(ごめん、拓磨。待たせちゃうけど、少し待ってて)
 珠紀はそれを放って置くができなくて、心の中で両手を合わせて拓磨に謝る。
 忘れ物を取り、螢斗の席の前の席の椅子を引く。机を挟んで彼と向かい合わせ座り鞄を椅子の下の脇に置いた。
 机に置いてあった、もう一つのホッチキスを手にする。
 積まれている上から、プリントの束を綴じていく。
 螢斗はその様子を、驚いて見る。
「春日さん?」
「手伝うよ。一人でやるより、二人でやった方が早いよ」
「いいの?」
「うん」
「ありがとう」
 螢斗が柔らかく微笑む。
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