第二章 ゲームのはじまり

 極秘文章と朱印が捺された表紙には、『季封村──鬼斬丸事件報告書』とタイトルが書かれた書物を、彼はゆっくりと開く。
 書物を読む彼の背後で、彼女は静かに控える。
 静かな室内に彼がページを捲るだけが響く。
 書物には、典薬寮が調べて知る限りの内容が集約されていた。
 彼の血族と典薬寮は数百年の昔から繋がりを持っているので、そのつてを使い、極秘文章も手に入れることも容易い。
『某月某日。
 鬼斬丸は、当代玉依姫と守護者により、完全に封印されたし──。以後、我々、典薬寮│は事後処理。
 及び、玉依、守護者の隔離、監視続行──鬼斬丸封印の影響に因る季封村調査に入る』
 芦屋正隆と記述者の名を最後に、文面は終わった。
 ぱたっと静かに書物を閉じた。
 玉依姫。彼にとって最も愛しい存在。
 守護者。彼にとって最も憎い存在。
『守護者』──その言葉を聞くだけで憎しみが湧いてくる。
 すぐにでも、壊してやりたいくらいだ。
 でもそれじゃ、面白くない。
 ゲームははじまったばかりなのだから。
「罠の準備をはじめよう──」
 彼は、後ろに控える彼女に告げる。控えていた彼女は、静かに頭を下げた。
1/19ページ
スキ