第一章 季節外れの転入生

 教室を出て、空き教室に向かう途中の廊下で、隣のクラスにも女子の転校生が転校して来たと言う話題が上がっているのが珠紀の耳に入ったのだった。

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 昼休みの空き教室で静かな空気とは逆に、ちょっとした諍いが展開されていた。
「見つめてた」
「……見つめてない」
「見つめてた!」
「いーえ。見つめてません!」
 一つの机を挟み声に怒りを含む拓磨に、珠紀は負けじと言い返す。
 机を挟んで向かい合って言い争う様子は、さながら夫婦喧嘩のようだ。
 珠紀は弁当に、拓磨は好物のタイヤキに手もつけずに、見つめてた、見つめてないの堂々巡りをしているやり取りを聞いていた今大学受験生で、二人の一学年上の先輩で守護者──鴉取真弘が椅子から立ち上がり、珠紀と拓磨に近寄った。
「あーっ! 止めろ、お前ら。夫婦喧嘩なら、よそでやれ、よそで。飯が不味くなんだろうが!」
 大好物の焼きそばパン片手に、真弘は不満を吐いた。
 窓側で持参した『白狐堂』のお稲荷を片手の真弘と同級で一学年上の守護者──狐邑祐一と手ぶらの遼は、我関せずを決め込む。
 珠紀の一学年下の守護者──犬戒慎司はおろおろと心配顔で二人を交互に見ながら、そのやり取りを見ていた。
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