第一章 季節外れの転入生

『───』
 声が聞こえる。
 だが、はっきりとは聞き取れない。
『なぜ』
 次、はっきり言葉を聞き取れた。
 声がする方に、意識を向ける。
 暗闇の中で誰かが、問うた。
 顔を上げると、すぐ前で人の気配があったが相手の姿はぼやけて窺えない。
 もどかしい感じがする。
 彼女は誰何すいかすることができず、不思議そうに、ただ姿見えぬ相手を見据えるのみ。
 彼女はここが、夢の中だと気づく。
 辺りは漆黒の暗闇──。相手の気配は感じ取れるが、姿、表情は、ぼやけてよく見えない。
 ふいに、彼女は初めて自分が泣いていることに気づいた。
 ──どうして?
 なぜ、自分が泣いているのか、その人が誰なのかわからなかった。
 わかるのはただ、目の前にいるのは声からして男性──それも若い。それと男性が全身傷だらけの血塗れでいるということ。
 その姿がかわいそうで、胸がいっぱいになる。
 でも、それはどこか現実離れしていた。
 夢なのだから現実離れしていても不思議じゃない。
『なぜだ』
 男は、もう一度問いた。切実に。
『なぜだ……なぜだっ』
 男が自分を睨んでいる気配を感じた。
 その声と目には、深い悲しみと絶望と、限りない深い憎しみと嫉妬が込めれている。黒い感情──。
『なぜ、わかってくれないっ。私は、ただ……』
 悲しみの声で、自分に言葉を投げつけてくる。
1/14ページ
スキ