🌸・🐲『蔵の巻』

 そこには付いてあるはずの取っ手が本当になかったのだった
「なんでないのっ?」
「そっ、そんなことより探すんだ!」
 天真と詩紋は慌てて取っ手を探した。すると、天真が詩紋の手に持つある物に気づく。
「詩紋君。お前の右手に持っている物、なんだ?」
 きょとんと詩紋は首を傾げ、自分の右手に目をやる。
「あ……あぁあああああああ!」
「どうしたの二人ともっ?」
 詩紋が大声で叫んだので、あかねはびっくりする。
 詩紋は真っ青な顔になって、その右手に持っている物をあかねと頼久に見せた。
「取っ手が……取れて……壊れちゃった……」
 …………。
 四人の間に沈黙が流れる。
 そして今度は辺りを見たあかねが、大声を上げた。
「あぁああ!」
「どうなされましたか、神子殿!」
「折角片づけたのに、また散らかっちゃった」
 あかねのずれた発言に、三人は一瞬で目が点となり唖然とする。
「あかね……お前……」
「なに? 天真君」
「この状況で、なに外れたこと言ってんだ!」
 あかねは天真に向けて、不思議そうに首を傾げる。
「取っ手が壊れたんだぞ!」
「うん。だから?」
「取っ手が壊れたってことは」
「取っ手が壊れたってことは?」
「扉が開けられないんだ!」
「うん。そうだね」
 妙に落ち着き払っているあかねに、天真は言葉を続けた。
「つまり、外に出ることができないってことは」
「できないってことは?」
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