🎻・🎼『とある御夫人の想い出話』

 気づけば、どうしようもなく惹かれている自分がいた。
 衝突もしたけど、惹かれて。想いが重なって──結婚した。考えれば、不思議な話だ。
 恋は頭でするのはなく、理由のある好きは本当の好きじゃないのだ。
「きっと、好きになるは理屈じゃないの。真莉亜も大きくなって、本気で好きな男性ひとができたらわかるから」
 聞いても理解ができていないと、きょとんとしている娘の頭を笑顔で優しく撫でた。
「でね、コンクールの期間中に土浦くんと土浦くんの元カノさんと、おとうさんとおかあさんとで遊園地でWデートしたの」
 まあ、付き合っていないからデートと言うの微妙だけど。
 その時のことを思い返す。
「なんとおとうさん、ジェットコースターデビュー!」
 さすがというか。納得というか。
「それで、おとうさんのUFOキャッチャー才能を発掘しちゃったの。意外過ぎて、三人で爆笑!」
 今、娘が抱えているクマのぬいぐるみはその時の戦利品の一つ。
 お化け屋敷では、びっくりして思わず男子にしがみつくと言うベタな芸当──。
「『きゃあ』なーんて、私には」
「おとうさんにしちゃったの?」
「しちゃいましたね……」
 娘の鋭い突っ込みに、正直に答えた。あははっとから笑いが出る。
「その後も、私があまりうわーきゃあ言うもんだから、おとうさん見るに見兼ねたんしょうね……『掴まれ』って手を差し出してくれたの」
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