🎻・🎼『とある御夫人の想い出話』

「おかあさんの学生高校時代のお話よ」
「それって、おとうさんとの?」
「そう。いらっしゃい真莉亜まりあ。あなたにだけ、教えてあげる。おかあさんとおとうさんはね、お互い第一印象──最っ悪だったの」
 椅子にかけ、その膝の上に娘を座らせた香穂子は、笑顔でとんでもない切り出しではじめた。
 あれは高校二年生の頃。授業の教材を音楽科の彼のクラスに届けに行った時だ。クラスの扉の前に立っていたら。
『そこの二人、邪魔だ』
「だもんね。教材を預かってと言っても」
『俺には関係ない』
「って拒否されて。きれいな顔してるけど、関わりたくないタイプと思った」
 音楽の妖精の話は伏せ、学内コンクールに出ることで関わるようになってからも──。
『足を引っ張らないでくれ』
『君には関係ない』
 変わらずいい印象は持てなかった。彼もそうだったろうけど。
「言うことはきついし。堅いし。冗談は通じないし。すぐ怒るし」
 それを、娘は目が点になり聞いていた。
 高校時代の父と、自身の知る父とが全く結びつかないのだろう。
 でも関わるうちに、優しい一面もあることを知って。
『君の指は、ヴァイオリンを弾く指だろ!』
「その時、おとうさん、三年生の先輩に絡まれてって、おかあさんね──」
 なんとかしようとして思わず、近くにあった花瓶の水をぶっかけた。
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