🎻・🎼『とある御夫人の想い出話』

 初冬のある日の休日の午後──。
 一階から二階で遊ぶ愛娘を呼ぶ。
 今日の三時のおやつは、横浜中華街の有名中華料理店の超人気中華まん。
 パンダとブタを象ったのがかわいくて、子供に大人気。食べるのがもったいないぐらいだ。
 ホカホカと熱い湯気を立てるピラミッド状に積まれた中華まんと飲み物を、ダイニングテーブルの上にセットする。
 そのお皿に盛られた中華まんを見て、あることを思い出し、思わず思い出し笑い。
「にくまんがおもしろいの? おかあさん」
 そちらに目を向けると、笑っている間に二階から降りて、ぬいぐるみを胸に抱えて立ち、そばにいた自分と瓜二つの四歳になる娘が不思議な顔で母を見上げている。
「んー、そうね。ちょっと」
 微笑みながら、膝を折り屈んで娘の目の高さに合わせて向かい合う。
「恥ずかしいことを、とてもリアルに思い出すのよ。とっても、とっても、恥ずかしいことをね」
 母の表情が微笑みから極悪顔に変わったので、娘が小さな身体からだをビクッと震わせる。
「でもちょっと、甘い思い出だったりして、複雑なのよ」
 極悪顔から一転。今度はわずかに頬を赤らめて恋する乙女の甘い表情かおに変える。
 ころころと表情が変わる香穂子に、娘は困惑する。
「んー?」
 娘が再び不思議な顔をして、首を傾げる。
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