🌸『盗賊の巻』

 あかねに後押しされ樒は、穴から外に出た。
「ありがとう」
「お礼なんていいよ。元気でね樒君」
「あんたもな」
 そう言うと樒は、穴を抜け、走って野次馬に紛れていった。
 それを見届けたあかねは、築地を元に戻してから表にいる八葉たちに前に姿を現した。
「あかねちゃ~ん!」
 詩紋はあかねに抱きつき、ほかの八葉もあかねに駆け寄る。
「神子。ご無事でなによりです!」
 永泉が数珠を握り締めながら、一安心した顔でする。
「みんな、心配かけてゴメンね」
「神子殿。賊はどうされましたか?」
「逃げました」
 あかねの回答にほかの八葉は納得していたが友雅と鷹通だけは、少し疑問を抱いた。
 そして。一段落ついてあかねが寝室に戻ろうとした時、後ろから友雅と鷹通に声をかけられる。
「神子殿。貴方が賊を逃がしましたね?」
 背を向けたまま、あかねは無言。否定はしていなかったが、それはそうだと肯定しているようなものだった。
 二人は、賊を逃がしたのがあかねだと気づいていたのだ。
「一体、どうやって逃がしたんだい?」
 あかねは、微笑を浮かべて二人の方を向いて。
「私、ネタは言わない主義なんで」
 笑顔でそれだけ言うと、あかねは寝室に戻って行った。
 友雅と鷹通は一瞬呆気にとられるも、互いにチラッと目を合わせ微笑した。
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