🌸『盗賊の巻』

 樒があかねを鋭く睨みつける。でも、あかねは言葉を続けた。
「盗んで手に入れた物なんて、誰も喜ばないし。盗みに入ったと知ったら、弟さんと妹さんが悲しむよ」
「黙れっ!」
 あかねの言葉に樒は激怒し、持っていた短刀を鞘から抜き、あかねの首に切っ先を当てる。
「これ以上喋ると、あんたを殺す!」
 脅しに屈しなかったあかねは、真剣な顔で樒を見据えて──。
「あなたに、私は殺せないよ」
「な……っ!」
 そしてあかねは笑顔で。
「私と樒君は、友達だよ!」
 あかねの言葉と笑顔に樒は、短刀を落とし涙を流して震える声で言った。
「けど……もう遅いよ。こんな騒ぎを起こしたからには、俺は確実……留置場送りさ」
 それを聞いて、あかねはあることを思いつく。
「樒君、来て」
 あかねは樒を連れて、炊事場から裏手に出る。
 裏手に出たあかねは、築地の前に来てしゃがみ、築地の壁を強く叩いた。
 すると、叩いた所が弧を描き、人一人分の大きさの穴が空いた。樒は唖然となる。
「どうして穴が……」
 あかねは説明する。
「以前から空いていたんだ。私ね、みんなの目を盗んで、ここから外に出るんだ」
「外……?」
「うん。ここから外に出たら、野次馬に紛れて逃げられる」
「どうして、俺を逃がすんだ?」
「樒君が捕まったら、弟さんたちが悲しむから。後のことは、私に任せて。さあ、早く!」
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